【国連IPS=ロジャー・ハミルトン-マーチン】
ジャヤンタ・ダナパラ氏が17日、ニューヨークの国連本部で「IPS核軍縮国際貢献賞」を受賞した。
2003年まで国連事務次長(軍縮担当)だったダナパラ氏は、職を辞してからも核兵器のない世界という目標に向けて取り組みを続け、2007年以降は、ノーベル賞を受賞した「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の会長も務めている。
「核兵器のない世界は、私が生きている間に実現できるし、そうしなくてはなりません。」と、仏教団体「創価学会インタナショナル(SGI)」が後援した公式セレモニー(授与式・レセプション)の場でダナパラ氏は語った。
「科学的な証拠が示しているのは、限定的な核戦争―ただしそんな限定が可能ならばの話だが―でさえも、前例のない規模で、不可逆的な気候変動を引き起こし、人間生活とそれを支えている生態系の破壊を引き起こす、という現実です。私たち民衆には、検証可能な核兵器禁止条約を通じて核兵器を違法化することで、世界を核兵器から『保護する責任』があります。それは、その他全てのいわゆる自称『保護する責任』の適用に優先するものなのです。」
授与式には、サム・カハンバ・クテサ第69回国連総会議長をはじめ各国の国連大使も参加していた。クテサ議長は、「ダナパラ氏が会長を務める『科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議』、今夜の授与式の主催団体であるインター・プレス・サービス、そしてこの賞のスポンサーであるSGIは、核兵器の危険性に対する世界の人々の意識を高め、その完全廃絶を主唱することに貢献しています。」と語った。
クテサ議長は、グローバルな核不拡散・軍縮をさらに推し進めるための来たる機会の重要性について、「2015年のNPT運用検討会議は、グローバルな核軍縮・不拡散体制をさらに強化する機会となるでしょう。」と語った。
CTBTOへの支持
包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長をはじめとした他の発言者もクテサ議長と同様の見方を示した。ゼルボ事務局長は、「ダナパラ氏が生まれたのは、ドイツの物理学者オットー・ハーン氏とフリッツ・シュトラスマン氏がウランの原子核分裂を発見したのと同じ1938年12月である」点を指摘したうえで、「1995年にジャヤンタは、画期をなす核不拡散条約運用検討・延長会議の議長を務めました。そして彼は、一見したところ妥協不可能に思われた核保有国と非核保有国の間の利害を調整する一連の決定を中心になって取りまとめたのです。」と語った。
この作業の結果が、ジュネーブでは対立の的になっていたCTBTを国連総会で1996年に採択したことだった。ダナパラ氏は、CTBTの発効促進を図る専門家グループの一員として、その後もCTBTOを支持しつづけた。
ゼルボ事務局長は、CTBTに反対するインドの立場に対するダナパラ氏の批判に注意を向けた。インドによるCTBT批判とは、「それ(=核実験禁止)によって軍縮を十分に前進させることにはならない」というものだった。これに対してダナパラ氏は、「完全軍縮につながらないからCTBTに反対というのは、交通事故を完全に防げないから道路の速度制限に反対するというのと同じことだ。」と指摘してインドの姿勢を批判した。
インドは、「附属書2」国家として知られるCTBT発効前に条約批准が必要とされる8か国のうちのひとつである。インドやパキスタン、北朝鮮はCTBTに未署名であるが、他の5か国(中国・エジプト・イラン・イスラエル・米国)は署名したものの、依然として批准をしていない。
ゼルボ事務局長はまた、軍縮や不拡散を主唱するうえでのダナパラ氏の出身国(スリランカ)が意味を持つとして、「ジャヤンタも私も途上国の出身だ」と指摘したうえで、「彼が一貫して提示してきた最も説得力のある議論のひとつは、大量破壊兵器の開発計画に途上国が乗り出した時の機会費用の問題です。とりわけ、核兵器開発計画には、本来ならば自国の開発やインフラ整備のために割り当てられるはずの莫大な資源を必要とします。」と語った。
IPS創始者のロベルト・サビオ博士からのメッセージを代読したラメシュ・ジャウラIPS事務総長は、この賞の起源と重要性について、「1985年にできたこの賞は、グローバルなレベルでの国連の活動と、その行動を体現するような人びとをつなぐという目的で作られたものです。」「国連の仕組みの中では個人が表彰されることはありませんから、この賞の狙いは、理念と実践に橋を架けることにあるのです。6年ぶりに復活したこの賞は、来年も核軍縮をテーマに著しい国際貢献を成し遂げた人物に贈られることになっています。そして2016年と17年の賞は、持続可能な開発目標に焦点を当てる予定です。」と語った。
向こう数か月、核不拡散・軍縮における成果を達成するいくつかの機会が訪れる予定である。とりわけ、来月オーストリアのウィーンで開催される「第3回核兵器の非人道的影響に関する国際会議」は注目に値するだろう。
またダナパラ氏は受諾演説の中で、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とオランダの平和団体「IKVパックス・クリスティ」が行っている『核兵器に投資するな』(Don’t Bank on the Bomb)キャンペーンへの支持を呼び掛けた。「ここ(=授賞式会場)におられる全ての皆さんに、この投資引き揚げキャンペーンに参加することで、核軍縮への現実的な貢献をするよう呼びかけたい。核兵器なき世界を求める2009年4月のバラク・オバマ大統領のプラハ演説のレトリックは消えかかっており、成果を見せていません。今こそ市民社会が行動を起こす時なのです。」(原文へ)
翻訳=IPS Japan
2014IPS国際貢献賞に寄せた、ロベルト・サビオIPS共同創始者のメッセージ
1985年にできたこの賞は、グローバルなレベルでの国連の活動と、その行動を体現するような人々をつなぐという目的で作られたものです。国連の仕組みの中では個人が表彰されることはありませんから、私たちは「IPS国連賞(=現在のIPS国際貢献賞)」を作って、理念と実践に橋を架けようとしたのです。IPSはハイレベルの選定委員会を設置して5大陸を網羅するIPSネットワークから推薦を受け付けます。受賞者は同伴者とともにニューヨークに招かれ、国連事務総長の歓迎を受けました。そして、自らの活動と、それがいかに国連の課題の一部を成しているのかということについて説明する機会を与えられたのです。さらに、国連広報局の事務次長が主催するセレモニーに招かれ、水晶でできた地球の形をした賞が授与されました。
セレモニーに続いて、今や国連のスケジュールの一部となり、毎年のイベントの一つとなった大規模なレセプションが開かれました。受賞者は、ペレストロイカの主唱者から環境問題のリーダー、女性活動家から人権活動家、米国の黒人運動の指導者、グローバル市民社会のリーダーまで様々です。国連本部におけるこの賞の授与式は、国連で策定された行動計画の現実の体現者を国連に招待することで、現実と接点を持つ理念と目標を、国連に持ち込む手段として始められたものなのです。
1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)」以前には、国連と市民社会との関係はごくわずかであったことを思い出す必要があります。それまでは国連経済社会理事会(UNECOSOC)に認証されたごく少数の団体のみが、国連施設への出入りを許されていたのです。この賞によって私たちは、国連官僚と現場で活動する人々との交流の場を設けたのです。この関係は徐々に拡大し、今日では、国連の課題の最大の同盟者は、グローバルな問題に関して世界中で活動する無数のNGOなどの団体となりました。IPSはこうした団体によって好んで利用される情報源です。なぜなら、IPSは有機的かつ分析的にグローバルなテーマを追求する唯一の国際通信社であり、従って彼らにとって国連への窓口となっていたからなのです。
グローバル化のガバナンス機構が悲しいまでに存在しないこの時にあって、市民社会と国連の橋渡し役としてのIPSの機能は、その重要性を増しています。IPS国際貢献賞は、SGIの平和への貢献と、その世界的なネットワークを認識し、こうした機能のシンボルとなりうるものです。
IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.