【国連IPS=タリフ・ディーン】
「世界は気候変動との闘いを諦めたのか?」──これは最近、ニューヨーク・タイムズが皮肉を込めて投げかけた修辞的な問いである。
NGO「グローバル・オプティミズム」の創設パートナー、クリスティアナ・フィゲレス氏は「そう見えるかもしれない」と語る。なぜなら、「ドナルド・トランプ米大統領が化石燃料を賛美し、ビル・ゲイツ氏が気候保護よりも子どもの健康を優先し、石油・ガス企業が数十年先まで増産計画を立てている」からだという。
しかしそれが全てではないと、フィゲレス氏は指摘する。世界人口の8割から9割が、より強力な気候対策を望んでいることを、Covering Climate Nowの加盟報道機関が報じてきた。再生可能エネルギー技術への投資額は化石燃料の2倍に達し、太陽光発電と再生型農業はグローバル・サウスで急速に拡大しているという。
一方、ホワイトハウスによれば、米国はCOP30に高官を派遣しない予定だ。
グリーンピース・インターナショナルの活動家、ジョン・ノエル氏はIPSの取材に対し、現政権はクリーンエネルギーの未来に対する主導権と影響力を他国に譲り渡していると語った。「悲劇的だが驚くことではない。しかし我々米国からベレンへ向かう者たちは、パリ協定を支持する幅広い世論を背景に確固たる立場にある。私たちはこれまで以上に決意を固めている」とノエル氏は述べた。
連邦政府の支援が欠如する中でも、汚染者負担原則(polluter pay)や州レベルのクリーンエネルギー奨励策など、地方自治体レベルでの取り組みには道が残されていると指摘する。
「COP30の世界の指導者たちは、野心的な気候目標を採択し、2030年までに森林破壊を終わらせ、公正なエネルギー移行を進めなければならない。気候行動を止めてはならない」とノエル氏は訴えた。
国連気候サミット・ベレン会議の首脳級会合で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は11月6日に次のように述べた。
「厳しい現実は、私たちは1.5度以内に抑えるという目標を守れていないということだ。」

「科学は今、早ければ2030年代初頭から1.5度の一時的な超過が避けられないと告げている。我々はこの超過の規模と期間を制限し、できるだけ早く引き下げるためのパラダイム転換を必要としている。」
たとえ一時的な超過でも、その影響は壊滅的である。生態系を不可逆的な転換点へ押しやり、数十億人を生存不可能な環境にさらし、平和と安全保障への脅威を増幅させる可能性がある。
「気温上昇のわずかな差が、さらなる飢餓、移住、喪失を意味する。とりわけ責任が最も少ない人々にとって。これは道徳的な失敗であり、致命的な怠慢である」と警告した。
それでもグテーレス事務総長は「国連は1.5度目標を決して諦めない」と宣言した。
再生可能エネルギー技術は急速に進歩している一方で、政治的意思は弱まりつつあり、現在の努力では大幅な温暖化を防ぐには不十分とされている。例えば、メタン排出削減の誓約も、新たな国連報告書によれば達成が困難と見られている。
オークランド研究所のアヌラダ・ミッタル事務局長はIPSの取材に対し、「政府、特に気候危機に最も責任を負う西側諸国が、温室効果ガス削減義務を果たしておらず、途上国への支援も不十分であることを非常に懸念すべきだ。」と述べた。また、「同じ政府や世界銀行のような金融機関が、排出削減にまったく効果のない炭素市場といった偽りの解決策を推進していることも憂慮すべきだ」と指摘した。
また、現在起きている「重要鉱物」採掘の新たなブームは「エネルギー転換のためではなく、軍事・通信・電気自動車など各種産業における鉱物の支配をめぐる国際的な争奪戦。」であることも強調した。
リチウムやコバルトといった鉱物の大量供給は、新たな環境破壊と人権危機を引き起こすことになる。「政府は真のエネルギー転換に向けて責任ある選択を行い、資源を浪費し多大な排出を生む軍事部門の拡張を止めるべきだ。」と訴えた。
現状のガソリン車を電気自動車に単純置換することは不可能である。もし現在のEV需要を2050年まで投影すれば、米国市場だけで世界全体の3倍のリチウムが必要になる。
「個人用車両の数とサイズを減らし、公共交通や低炭素型の移動手段を整備する積極的な政策が必要だ」とミタル氏は述べた。
グテーレス事務総長は11月4日にカタールで開いた記者会見で、「各国政府はCOP30(ブラジル)に、今後10年間で自国の排出量を削減する具体的な計画を携えて臨み、気候危機の最前線に立つ人々への気候正義を実現しなければならない」と強調した。
彼は「先週ハリケーン・メリッサによる壊滅的被害を受けたジャマイカを見てほしい」と例を挙げた。
クリーンエネルギー革命は、排出削減と経済成長の両立が可能であることを示している。しかし、途上国はいまだにその移行を支える資金と技術を欠いている。
「ブラジルでのCOP30では、2035年までに年間1兆33000億ドルの気候資金を動員する信頼できる計画を合意しなければならない。先進国は、適応資金を今年少なくとも400億ドルに倍増させるという約束を果たすべきだ。また、損失と被害基金(Loss and Damage Fund)にも十分な拠出を行う必要がある」と述べた。
「COP30は転換点となるべきだ。世界が野心と実施のギャップを埋める大胆で信頼できる行動計画を示す場所にしなければならない。2035年までに年間1.3兆ドルの気候資金を動員し、すべての人に気候正義をもたらすために。1.5度への道は狭いが、まだ開かれている。人類、地球、そして共通の未来のために、この道を生かし続けよう」とグテーレス氏は結んだ。
オックスファムとCARE気候正義センターの新しい共同調査によると、途上国は気候資金の「借金返済」において、受け取る額以上を先進国に返している。つまり、5ドルを受け取るごとに7ドルを返済しており、資金の65%が融資形式で供与されている。
この「危機の商機化(crisis profiteering)」は、債務負担を悪化させ、気候行動を妨げている。加えて、開発援助の大幅削減により、気候資金はさらに減少し、気候災害の被害を最も受ける貧困層を裏切る結果となっている。
報告書の主なポイント:
先進国は2022年に1,160億ドルを動員したと主張するが、実際の実質価値は280〜350億ドルに過ぎず、約3分の1にとどまる。
資金の約3分の2は融資であり、多くは通常の金利で提供されているため、気候資金がむしろ途上国の債務(現在3兆3,000億ドル)を増大させている。フランス、日本、イタリアが特に悪質な例として挙げられている。
最貧国(LDCs)は全体の19.5%、小島嶼開発途上国(SIDS)はわずか2.9%しか受け取っておらず、その半分以上が返済義務付きの融資である。
先進国はこれらの融資から利益を得ており、2022年には途上国が620億ドルの融資を受けた一方で、880億ドルの返済が見込まれ、債権者に42%の「利益」をもたらしている。
気候資金のうちジェンダー平等促進に特化したものはわずか3%にすぎない。
オックスファムの気候政策リード、ナフコテ・ダビ氏は「先進国は気候危機を道義的責任ではなく、ビジネスチャンスとして扱っている」と批判した。「これらの国々は、これまで傷つけてきた人々に金を貸し付け、脆弱な国々を借金の罠に陥れている。これはまさに危機の商機化だ。」と述べた。
このような失敗は、1960年代以来最悪の開発援助削減の中で起きている。OECDデータによると2024年に9%減少し、2025年にはさらに9〜17%の削減が見込まれている。
化石燃料に起因する気候災害の影響は深刻さを増しており、アフリカの角で数百万人が避難し、フィリピンでは1,300万人、ブラジルでは2024年だけで60万人が洪水被害を受けた。こうした地域社会は急速に変化する気候への適応に必要な資源をますます失っていると、報告書は結論づけている。(原文へ)
INPS Japan
関連記事:
世界人口の半数が教育より利払いを優先──取り残される34億人













