SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)ヒマラヤを覆う悲劇と無関心―ブラックカーボンと永久凍土融解を黙認するネパール

ヒマラヤを覆う悲劇と無関心―ブラックカーボンと永久凍土融解を黙認するネパール

【カトマンズNepali Times=カナック・ディキシット】

気候学者でなくとも、ネパールが人新世の「大いなる物語」において、その責任を十分に果たしていないことは明らかである。タライ平原からヒマラヤ山脈へと連なるこの「傾斜の国」は、地球温暖化の温度計である。
Credit: United Nations
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国民は環境と気候の崩壊を日々目撃しているが、進行する危機の前に沈黙している。科学的知見と生活の実体験をもとに、ネパールこそCOP30(ブラジル・ベレン)で主導的な役割を果たすべき国である。

しかし今週始まったサミットで、ヒマラヤと南アジアの文化、経済、人々の暮らしにとって極めて重要な二つの気候関連課題が議論されるかは疑わしい。

ブラックカーボンと「南アジアのブラウンクラウド」

第一の課題は、空気中に浮遊する微小粒子からなるブラックカーボン、すなわち「南アジアのブラウンクラウド」である。これは越境的な健康被害をもたらすだけでなく、雪氷の反射率を下げる「アルベド効果」により、ヒマラヤの融雪を著しく加速させることが科学的に明らかになっている。

Kanak Dixit.
Kanak Dixit.

それにもかかわらず、ネパール政府は近隣諸国にこの問題の深刻さを訴えきれていない。筆者は2014年、『アウトルック』誌に寄稿し、SAARC首脳会議の際にドゥリケルで北を望んだモディ首相が、わずか30キロ先のジュガル・ヒマール連峰を見られなかった理由を指摘した。

彼の視界は、ラホールやデリー地域から運ばれてきた汚染層に遮られていた。この会議は、ネパールがインドとパキスタンの両首相に対し、ヒマラヤの斜面に降り積もるスモッグや煤の多くが、シンド州、パンジャーブ州、ハリヤナ州、西ウッタル・プラデシュ州、デリー首都圏などで発生し、西風に乗って運ばれてくることを伝える絶好の機会だった。

ネパール国内の森林火災やカトマンズ盆地の汚染も一因だが、秋から春にかけて地域を覆う濃い煙霧の大半は越境的なものである。昨年、人為起源の微粒子はベンガル湾を越えてスリランカやモルディブ上空にまで達した。
煤粒子は氷河の融解を加速させ、インフラや公衆衛生に影響を及ぼしているが、最も目に見える影響は観光業である。ネパールの経済は観光に大きく依存しており、その魅力の多くは雪をいただく山々の眺望にある。アンナプルナが見えないなら、旅行者はなぜポカラを訪れるだろうか。

ナガルコットのホテル業者は「2025年、日の出と日の入り以上のナガルコットを」と題したキャンペーンを始めた。巧妙な標語だが、エベレストからアンナプルナまで見渡せるはずの絶景が、今や一年の大半を茶色い煙霧に覆われている現状への皮肉な応答である。

南アジアの気候危機における「警鐘の国」として、ネパールはパキスタンやインドとの緊張関係を超えて外交的自信を持ち、行動を起こすべきだ。いまこそ「ヘイズ外交(haze diplomacy)」を展開すべき時である。

永久ではない凍土

永久凍土は、一般に北極や南極、シベリア、アラスカの現象として知られてきた。しかし高山地帯でも、標高の高い場所では地中が通年凍結しているのが自然である。ヒマラヤでは雪原や氷河だけでなく、凍結した水分が岩や礫を固め、斜面を安定させている。だが地球温暖化により、山腹を結びつけていた凍土が溶け始めている。これまで高所に封じ込められていた岩屑が、いま次々と崩れ落ちているのだ。

ポカラ盆地とアンナプルナ山麓まで続くセティ川流域は、重力と地質のせめぎ合いを観察する最良の場所である。約700年前、古アンナプルナⅣが崩壊して堆積物を生み出し、その上にポカラの町が築かれた。だが崩落した岩塊の多くはいまもアンナプルナⅣ周辺に残り、温暖化によってその結合が緩みつつある。

国際山岳総合開発センター(ICIMOD)の2024年報告書によれば、高地アジア一帯で永久凍土が融解している。山塊やモレーン(堆石堤)の崩壊、氷河湖決壊洪水、地下水涵養の減少、ガンジス・インダス・ブラマプトラ河の冬季流量低下など、気候崩壊の連鎖的影響が顕著になっている。

ヒマラヤ全域で永久凍土によって封じ込められている岩屑の量は、いまだ正確に把握されていない。危険が高まっているにもかかわらず、高速道路や水力発電、住宅、観光インフラなどの建設が加速している。COP会議では海面上昇や氷河後退が議題に上るが、ヒマラヤの永久凍土融解にはほとんど関心が払われていない。

融ける地中と連鎖する災害

2024年9月、『ネパール・タイムズ』紙に掲載されたウィルフリード・ヘーベルリとアルトン・C・バイヤーズの論考は、近年の山体崩壊やモレーン崩落による土石流災害の多くが、永久凍土の融解によって引き起こされたと指摘した。彼らは、セティ(2012年)、チャモリ(2021年)、ビレンドラ・タル(2023年)、シッキム(2023年)、タメ(2024年)、バルン(2017年)、メラムチ(2021年)などで発生した雪崩や洪水が、凍結地盤の融解に起因すると述べている。

Imja Glacier near Mt Everest has turned into a big lake in the past 20 years. Photo: Kiril Rusev via Nepali Times. Used with permission.
Imja Glacier near Mt Everest has turned into a big lake in the past 20 years. Photo: Kiril Rusev via Nepali Times. Used with permission.

2023年10月4日、シッキム州サウス・ロナク氷河湖の側堤が崩壊し、100人以上が死亡、10億ドル規模のチュンタン・ダムをはじめ住宅や道路、農地が流失した。この災害も、永久凍土を失った側堤を襲った雲の破裂(クラウドバースト)が原因だった。

永久凍土に懐疑的な声は今後もあろうが、気候変動否定論と同様に、もはや現実を直視しなければならない。ヒマラヤの峰々は、もはや太古の昔からの「不動の番人」ではない。

人類が放出した膨大な温室効果ガスによって、山々でさえも崩れ落ち始めている。そして、永久凍土に封じ込められていた未知の細菌やウイルスの問題にも、まだ私たちは向き合っていない。

政治の沈黙が招く地球的危機

永久凍土の消失は、異常気象、干ばつ、集中豪雨、平野部の熱波などを含む気候崩壊の累積的影響を強め、人々の生活と生計を脅かし、集団移住や社会不安、さらには政治と地政学の混乱を引き起こしている。

The Nepali Times
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ネパール政府と政治社会は、自国と人類全体のために、この現実に目を覚まさねばならない。政府が5月に開催した「サガルマータ・サンバード会議」は、地球温暖化とその弊害を訴える舞台となることに失敗した。政治家、官僚、学界は、これまでの機会損失を取り戻し、今こそ行動の先頭に立つべきである。(原文へ

カナック・マニ・ディクシット(作家・評論家、『ヒマール・サウスアジアン』編集長) 

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