SDGsGoal3(全ての人に健康と福祉を)UNAIDSの早期閉鎖で脆弱層が苦境に陥る恐れ

UNAIDSの早期閉鎖で脆弱層が苦境に陥る恐れ

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】

「すでに燃えている火に油を注ぐようなものです」。
アディティア・タスリム氏はそう語る。

「私たちは今年初めの米国による資金削減の影響からまだ立ち直れていません。UNAIDSを早期に閉鎖すれば状況はさらに悪化します。特に、薬物使用者を含むハイリスク層や刑事罰の対象とされがちな集団にとっては深刻です。」と、国際薬物使用者ネットワーク(INPUD)のアドボカシー・リードであるタスリム氏はIPSの取材に対して語った。

こうした懸念は世界のHIV活動家の間で広く共有されている。今年9月、アントニオ・グテーレス国連事務総長が国連改革の進捗報告の中で、国連の主たるHIV/AIDS対策機関であるUNAIDSを翌年に閉鎖する提案を突然示したからだ。

これまで、UNAIDSと理事会に参加する市民社会組織、専門家、各国政府は、2030年の現在のHIV目標の終了時をめどに、UNAIDSを段階的に移行させる「トランスフォーメーション計画」を進めていた。それにもかかわらず、なぜ2026年の閉鎖が急に検討されているのか、多くの関係者はいまも理解できずにいる。

「現時点で混乱が多くあります。なぜ2026年が選ばれたのか、私たちにも分かりません。すでに移行プロセスが進んでいたからかもしれません」と、UNAIDSプログラム部副事務局長のアンジェリ・アクレカル氏はIPSの取材に対して語った。

しかし、この提案は強い反発を受けている。UNAIDSプログラム調整委員会(PCB)NGO代表団は事務総長に見直しを求める書簡を提出し、1000を超えるNGOがこれを支持した。

これまでの成果が損なわれ、命が危険にさらされる恐れがある

1988年から続く世界エイズデーの写真(クレジット:UNAIDS)

多くの市民社会団体は、早期閉鎖が実施されれば、HIVとの闘いで積み重ねてきた前進が危機にさらされ、場合によっては不必要な死が生じると警告している。

「もし閉鎖されれば、予防と治療の効果は大きく低下し、完全に予防・治療可能な病気で人々が命を落とすことになります。UNAIDSの閉鎖は、HIV感染と死亡の増加につながるでしょう」と、オランダのAidsfondsの戦略顧問ジュリア・ルコムニク氏はIPSの取材に対して語った。

1996年に活動を開始したUNAIDSは、国連機関の中でも特異な存在だ。理事会に市民社会組織が参加しており、現場で患者やハイリスク層を支援する団体が政策策定や実施に直接関与してきた。治療プロジェクトだけでなく、UNAIDSは多くの国で政府、地域当局、NGO、コミュニティを結ぶ重要な架け橋として機能してきた。

「もし2026年にUNAIDSが閉鎖されれば、影響は甚大です。特にベトナムのように、コミュニティ主導の組織がデータ、技術ガイダンス、調整、政策形成の場としてUNAIDSに依存している国では深刻です」と、ベトナム最大級のLGBTQ+団体のひとつ、Lighthouse Vietnamのドアン・タイン・トゥン事務局長は語った。

多くの国でHIV患者(PLHIV)やハイリスク層への差別や犯罪化が進むなか、UNAIDSは人権擁護の中心的役割を果たしてきた。同機関は、性的少数者、薬物使用者、セックスワーカーなどの権利保護を支援し、画期的な法律の制定にも貢献してきた。

「UNAIDSがなければ、これらのコミュニティは急速に周縁化され、犯罪化が進みます。UNAIDSが示してきたように、権利侵害はHIV感染を増加させます。ゲイやトランスの人々を犯罪化すれば感染は増え、セックスワーカーを犯罪化すれば感染は増え、安全な注射所を禁止すれば感染は増えます」とルコムニク氏は語った。

「権利が脅かされているこの時期に、最も強力に人権を擁護してきた国連機関を閉じれば、権利侵害もHIV感染も確実に増加します」と続けた。

「UNAIDSがなくなった場合、ハイリスク層へのアドボカシーを誰が担うのか。政府に対して問題提起できるのはどこなのか」と、UNAIDSアジア太平洋・東欧・中央アジア地域支援チーム長のイーモン・マーフィー氏は語った。

UNAIDS workers provide support to communities in need of their services. The organization and its workers have been badly affected by the impact of a sudden acceleration of cuts to international HIV financing. Credit: UNAIDS

アクレカル氏もこう強調する。「私たちの重要な役割のひとつは、コミュニティの声を代弁することです。この声は地域・国家・世界レベルで守られなければなりません。」

さらにUNAIDSは、各国政府以上にコミュニティの状況を把握できる立場にあり、精密なデータ収集と分析を通じて、効果的な政策形成や目標設定を支えてきた。

「UNAIDSが示した国際エイズ対応目標は、各国が戦略計画を策定し、効果の高い介入を実施する基盤となりました」と、Pan African Positive Women’s Coalition−Zimbabweの国家ディレクター、テンデイ・ウェスターホフ氏は語る。

「UNAIDSは各国の取り組みを監視する『Global AIDS Programme』報告書を作成してきました。閉鎖されれば、各国の進捗監視に大きな空白が生じます。」

今年初め、国際HIV/AIDS資金の73%を担っていた米国が支援を撤回し、現場の団体は次々と閉鎖に追い込まれている。

UNAIDSの試算では、この資金削減により、2029年までに新規HIV感染が6.600.000件、エイズ関連死が4.200.000件増加する恐れがある。

こうした状況でUNAIDSを閉鎖すれば、特にすでに資金不足に苦しむ国やコミュニティでは、HIV対策の持続可能性がさらに損なわれかねない。

「米国の突然の資金削減は、ハームリダクション(減害)サービスを壊滅させ、薬物使用者ネットワークを閉鎖に追い込みました。UNAIDSまで閉鎖されれば、政府がサービスや支援を縮小する“理由”にされかねません。」とタスリム氏は指摘する。

「低・中所得国では、薬物使用者向けサービスの多くが国際支援に依存しています。UNAIDSを早期に閉鎖すれば、これらのサービスは国家の優先順位から真っ先に外されるでしょう。」

トゥン氏も警告する。「世界のHIV資金が縮小する中でUNAIDSを解体すれば、国際・地域間の連帯やコミュニティの関与が弱まり、データシステムも脆弱化し、長年の成果が失われる恐れがあります。」

とはいえ、活動家らはこの提案がまだ確定ではないことを指摘する。

「2026年にUNAIDSを終わらせる提案は事務総長が示したものですが、最終的な判断はPCBにあります。」とルコムニク氏は言う。

UNAIDS側は、機関自体がすでに抜本的改革を進めていたことを強調する。PCBは2025〜2027年の再編計画を決定し、2027年に再評価を行い、2030年までに主要機能を国連機構や他のアクターに移行する構想があった。

その最初の段階として、今年UNAIDSは世界のスタッフと事務所を50%以上削減する大規模リストラを始めている。

アクレカル氏は語る。「私たちの改革は、資金の不安定化に対応するためでもありますが、それ以前から必要とされていたものです。2030年以降、HIV対策が各国で持続的に支えられる状態へ移行するため、機関の姿を変える必要がありました。」

「事務総長の提案が撤回されるかは分かりません。しかし、私たちが進めていた改革計画と調和させる道はあると考えています。UNAIDSは変わることを恐れていません」と述べた。

もし閉鎖が現実となった場合、UNAIDSは他の国際機関や地域のアクターが役割を引き継ぎ、対策を維持してくれることを期待している。

「私たちはHIV対策の一要素であり、他のプレーヤーにも重要な役割があります。今後もHIV対策の国際的連帯を維持し、最も重要な部分と当事者を守っていかなければなりません。」とアクレカル氏は語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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