【国連IPS=ナウリーン・ホセイン】
採択から1年以上が経過した「国連未来のための協定(UN Pact for the Future)」は、今日の課題に国際協力で取り組むための重要な枠組みとして位置づけられている。持続可能な開発とグローバル・ガバナンスに向けたその議題は極めて野心的であり、ゆえに、地域社会への直接的な影響という実施段階では大きな課題が伴う。協定の目標達成には、政府、市民社会、国際機関の連携が不可欠である。

英国を拠点とする国際 NGO「インターナショナル・コミュニティーズ・オーガニゼーション(ICO)」の活動は、その実践例と言える。ICOは2016年以来、紛争影響地域に暮らす少数派コミュニティのエンパワーメントに取り組み、教育や能力開発を通じて支援してきた。特に、代表性が低く歴史的に排除されてきた集団の関与を高め、外交対話や地域主導の取り組みに参加できる基盤整備に力を注いでいる。
ICOは12月3日、国連本部において旗艦報告書『私たちの未来のために:国連の協定実施に向けたベストプラクティス』を発表した。これは、各加盟国が「未来のための協定」の目標を実行に移すための実務的指針となる報告であり、バーレーン、ガイアナ、ハンガリー、クウェート、サモア、シンガポール、タジキスタン、ウガンダなど複数の国連常駐代表部が共催した。
同協定は、持続可能な開発、平和と安全保障、そしてグローバル・ガバナンスの再定義に向けた加盟国共通の約束である。しかし、理念を国家・地域レベルの実行に落とし込む過程には依然として大きな隔たりがある。ICOの「ベストプラクティス」報告書は、その知見を政策実装に応用可能な方法論として整理し、各国の意思決定者に具体的指針を示している。
ICO創設者で事務総長のジェームズ・ホームズ氏は、「協定は、国家の強さを軍事力や経済規模だけで測るのではなく、社会の包摂性や、そこに暮らすすべての人々の尊重によってこそ測られるべきだと示しています。少数派、脆弱な立場の人々、歴史的に周縁化されてきた人々をどう扱うかこそ、私たちの進歩の真価であり、協定が成功しているかを測る指標なのです。」と語った。
第76回国連総会議長を務めた ICO 国際大使アブドラ・シャヒド氏も、国家の結束と市民参加の重要性を強調した。「国連未来のための協定は、人類共通の課題に改めて団結して取り組むことを求めています。真の平和は交渉の場だけで築かれるものではなく、地域のコミュニティを力づけ、誰一人取り残さない取り組みを通じてこそ実現されます。」

グテーレス国連事務総長が2024年9月の「未来サミット」で述べた言葉も引用された。
「21世紀の課題には、ネットワーク化され、包摂的で、人類すべての知見を活かす21世紀型解決策が必要です。」シャヒド氏は、ICOの報告書はこの理念を体現していると指摘した。
報告書発表の場には、国連加盟国代表や市民社会関係者が多数出席し、協定およびICOの活動に対する支援を表明した。

「国連未来のための協定採択から1年が経ち、この議論はまさに機が熟しています。」と、未来のための協定実施担当国連局長テンバ・カルア氏は語った。「世界は採択時より複雑化していますが、協定は依然として多国間主義を支え、地政学的困難を乗り越える羅針盤であり続けています。」
カルア氏はさらに、AIガバナンスに関するパネル設置、カタールでの社会開発、スペインでの開発資金会議など、協定に沿った国連の取り組みを紹介し、事務総長にとっても協定は「戦略的最優先事項」であると語った。
ICOの国連プログラム・マネージャー、ミア・サウジャーニ氏は、報告書で示された結論と提言について説明した。各国には、地域社会の主体性強化と能力育成が不可欠であり、特に紛争環境では、制度や社会構造が急速に変化する現実に適応する柔軟性が求められると語った。
「協定は、特に周縁化されたコミュニティにとって、実現可能な変革の機会です。そのためには、私たち全員の責任ある行動が求められています。」
イベント後、ホームズ氏は各国から寄せられた支援に手応えを感じていると語り、今後さらに多くの国と共同プロジェクトを進める見通しを示した。「少数派コミュニティの支援に焦点を置くことで、ICOは協定実施において大きな役割を果たせます。」
シャヒド氏は、「コミュニティ間の橋渡しが進むほど、国家が外交(いわゆるトラックI外交)を効果的に展開できる。」と語った。
実施にあたっては、島嶼国が直面する特有の課題も共有された。サモアやトンガのような太平洋島嶼国にとって、気候変動やエネルギー問題、そして途上国に不利な国際金融構造は依然深刻である。
トンガ常駐代表ヴィリアミ・ヴァインガ・トネ氏は、「私たち太平洋島嶼国にとって、進展とは言葉ではなく、村々や離島、脆弱な人々が実際に恩恵を感じられる変化なのです。」と語った。
進捗を測定する透明性と説明責任を担保する仕組みも不可欠だと指摘された。
報告書の公表時期は、今年始動した「UN80改革イニシアチブ」と一致する。協定が「何を達成するか」を示すなら、UN80は「どう実行するか」を示すものだ。
サモア常駐代表 ファトゥマナヴァ=オ=ウポルⅢ世 ルテル博士は、「地球規模、国連、地域、国家の各レベルの行動がすべて連動しなければなりません。もはや沈黙の中で個別に動く時代ではありません。構造はつながっており、重複を避け、協力しなければなりません。」と語った。
マラウイ常駐代表アグネス・チンビリ=モランデ博士は、市民が国連の存在意義を問う今こそ、地域社会との信頼関係を再構築する必要があると強調した。「私たちは地域社会のために働いているのであり、自分のためではありません。その声に耳を傾け、私たちの活動が生活に変化をもたらしているかを確かめなければなりません。」と語った。
シャヒド氏は、国連の成功は市民社会との協働にかかっていると指摘した。
パンデミック下での2021~22年の総会議長任期を「希望の議長職」と定義づけ、国際協力を擁護し、総会を幅広い市民社会に開く取り組みを進めたのも同氏である。

「希望のメッセージは1年で終える必要はありません。ICOは私が地域の家庭レベルで人々に働きかけ、あきらめず前進する力を届けるためのプラットフォームです。」とシャヒド氏は語った。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
関連記事:













