【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】
「妊婦の命が危険にさらされる緊急帝王切開だった。明かりは懐中電灯だけで、水もない。爆発音が途切れない中で手術をした。」こう語るのは、ウクライナ東部ハルキウ州立臨床病院の産科部長、オレクサンドル・ジェレズニャコフ医師である。|英語版|ロシア語|

同医師は、ロシアによる全面侵攻開始以来、自身が関わった医療行為の中でも「最も困難なものの一つ」だったと振り返る。だが、ロシア軍の砲撃にさらされる前線の都市で、極限状況下の医療に携わったのは一度にとどまらない。むしろ彼と同僚にとって、そうした現場は日常になりつつあるという。
「前線の都市にいる以上、これがいまの現実だ。警報は鳴りやまず、爆発音もほぼ毎日のように聞こえる。だから私たちは、ほとんど毎日こうして働いている」と、同医師はIPSの取材に語った。「命を救うため、未来を救うために、やるべきことをやるだけだ。そういう瞬間に考えるのは、命を救うことだけである。命は常に勝たねばならない。だから私たちは、この条件の下でも働くのだ。」
ジェレズニャコフ医師の勤務先も、ウクライナ各地の多くの医療施設と同様、戦争開始以来、繰り返し攻撃を受けて損傷してきた。世界保健機関(WHO)は、2022年2月24日の全面侵攻開始以降、医療への攻撃を記録・検証しており、その件数は公表時点によって数千件規模に上る。
この中には母子保健施設への攻撃も含まれる。影響は深刻で、最近公表されたデータは、妊産婦の健康に重大な悪影響が及んでいることを示した。

国連人口基金(UNFPA)が2025年12月10日に公表した分析によれば、紛争の長期化に伴い、ウクライナでは妊娠中または出産時に死亡するリスクが急増している。病院への反復的な攻撃と基礎サービスの崩壊により、女性はより危険な条件での出産を余儀なくされている。医療従事者は、暴力、慢性的ストレス、避難・移動、産科医療の広範な混乱が重なり、妊娠合併症の増加と、防ぎ得た死の増加を招いていると警告する。
同機関が国家統計を分析したところ、妊産婦死亡率は2023年から2024年にかけて約37%増加した。全国データがそろっている最新年は2024年である。妊産婦死亡率は出生10万件当たり、2023年の18・9人から2024年には25・9人へ上昇した。UNFPAは、その大半が予防可能な死亡であり、医療体制が極限の負荷の下でかろうじて機能している現実を映し出していると指摘する。
重篤な妊娠・出産関連合併症も増えている。最も危険な産科救急の一つである子宮破裂は44%増加した。妊娠高血圧症候群は12%超増え、重度の産後出血も約9%増加した(いずれも2023年から2024年)。受診までの遅れ、ストレス、避難、紹介ルートの寸断などが主な要因とされる。

前線地域の状況はとりわけ深刻である。UNFPAによれば、ヘルソンでは早産が全国平均のほぼ2倍に達し、死産率も国内最高水準にある。背景にはストレス、不安定な治安、医療へのアクセス困難があり、これらが早産や前期破水を引き起こし得るとしている。
医療体制への負荷を示すもう一つの指標が帝王切開率である。全国では28%を超え、WHOが示す推奨範囲(10~15%)をすでに上回る。前線地域では欧州でも高水準にあり、ヘルソンは46%、オデーサ、ザポリージャ、ハルキウは各32%に達する。UNFPA関係者によれば、これらの高率は、比較的安全な短い時間帯に合わせて分娩を計画せざるを得ない現実を反映している。同時に、外科的介入を要する妊娠合併症の増加を示す場合もある。
UNFPAウクライナ事務所の広報部長、アイザック・ハースキン氏はIPSの取材に対して、こう語った。「医療、とりわけ産科・新生児施設への攻撃は、妊産婦の健康に明確で深刻な結果をもたらしている。ウクライナは、妊婦、新生児、そして彼らを支える医療従事者のリスクを鋭く高める条件の下で、また一つ冬を迎えることになる。」
12月初旬には、UNFPAが支援するヘルソンの産科病院が砲撃を受けた。攻撃の最中、病院スタッフは分娩中の女性と新生児を、防護された地下の産科病棟へ移した。これは、激しい戦闘下で母子を守るため、政府がUNFPAなどの支援を得て整備してきた施設の一つである。

攻撃で全員が生存し、砲撃の最中に地下で女児が誕生した。だがハースキン氏は、これを「妊娠と出産がいま、どのような条件で行われているかを示す痛烈な例である。どの女性も、どの医療従事者も、本来直面すべきではない条件だ。」と語った。
ウクライナの戦争がもたらす破壊は、妊産婦医療にとどまらず、より広い生殖医療にも影響を及ぼしている。IPSは、ウクライナの女性たちから、妊産婦医療へ安全にアクセスできるか不安であることに加え、乳児を育てる環境への懸念から妊娠を避けている、という声を聞いた。
米国の人権団体「フィジシャンズ・フォー・ヒューマン・ライツ(PHR)」で国際アドボカシーを担当し、ウクライナ・プログラム調整官を務めるウリヤナ・ポルタヴェツ氏はIPSの取材に対して、「紛争の影響を受ける地域の女性には固有のリプロダクティブ・ニーズがある。しかし、産科病院が繰り返し爆撃され、エネルギー基盤が標的となって病院機能が制限され、妊婦が設備の整わない避難用シェルターに追い込まれる状況では、それに応えるのは非常に難しい。妊娠を考える女性は、病院が安全か、医療サービスにアクセスできるか、そして出産後、電気・暖房・水のない環境で子どもの世話ができるか―そうした要因を踏まえて判断せざるを得ない。」と語った。
ジェレズニャコフ医師も「こうした傾向は観察されている。」と付け加えた。「女性は、砲撃下での出産で自分と胎児の命を恐れるだけではない。住まいの安全、仕事、子育てに必要な日常の条件が失われた、不確かな将来も恐れている。理不尽な戦時下では、それは合理的な恐怖である。出生率が急落している理由の一つだ。」

一方で、戦争の影響は、女性が妊娠しにくくなる形でも現れているという。「慢性的ストレスや不安、睡眠障害は、コルチゾールの上昇を通じてホルモンバランスを崩し、生殖機能に直接影響する。持続的なストレスは、視床下部―下垂体―卵巣系の機能不全などホルモン異常を引き起こし得る。結果として、二次性不妊や早発卵巣不全、子宮内膜症の増加につながる。若年女性で、更年期様の状態が増えていることもすでに見られる。」と同医師は語った。
こうした「妊娠しにくさ」と妊産婦の健康への脅威は、ウクライナが人口危機に直面するさなかに進んでいる。UNFPAによれば、ロシアがクリミアを違法に併合し、ウクライナ東部の分離主義武装勢力への支援を強めた2014年以降、ウクライナは避難・移動、死亡、国外流出などを通じて推計1000万人の人口を失った。出生率も落ち込み、女性1人が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は1人未満と、世界でも最低水準の一つになっている。
UNFPAは、妊産婦死亡の増加、合併症の増加、出産の安全性をめぐる広範な不安が悪循環となり、家族や地域社会、国家の復興に長期的な影響を及ぼし得ると警告する。
「これは人道危機であるだけでなく、敵対行為が終わった後もはるかに長く尾を引く人口危機でもある。妊産婦の健康を守ることは、ウクライナの長期的な復興と将来の安定に欠かせない。」とハースキン氏は語った。
実際、医療施設が広範に破壊された近年の他の紛争では、戦争が終わった後も長く、妊産婦医療や生殖医療への影響が続くことが示されている。損壊した施設の再建が進みにくいことに加え、避難・移動の継続や医療人材の不足が、女性が必要なサービスにアクセスする上での障壁となる。

「たとえばシリアを例に挙げたい。医療システムの再建は進み、施設の復旧もあって状況は改善している。だが、戦前の水準に戻るには数十年を要する。そして妊産婦医療は、紛争中も紛争後も優先順位が下がりやすい。資源は救急や外傷医療に向かいがちだ。シリアの女性は、今後も長い年月にわたり妊産婦医療へのアクセスに苦しむだろう。」国際人権団体に所属し、戦地医療に詳しい専門家は、安全上の理由から匿名を条件に、IPSに対してこう語った。
ジェレズニャコフ医師は、ウクライナの人口危機がさらに悪化することは避けられないと認める。「見通しとしては、さらに悪くなる。妊産婦医療システムの破壊は、戦争がすでに生み出している問題―女性と子どもの国外流出、命の損失、経済不安、心理的圧力―を一段と深刻化させる。」と語った。
ただし、いまからでも母子医療を改善する手だてはあるという。具体的には、プライマリ・ケアの強化、医療情報のデジタル化(電子カルテを含む医療情報システム)の改善、予防への投資、メンタルヘルス支援、医療提供体制の環境整備、法規制の整備、生殖医療に関する啓発を通じた死亡と障害の低減などが挙げられる。
また、比較的安全な地域に、国際パートナー(UNFPAやWHOなど)の支援を受けた「医療ハブ」を設け、サービス提供を確保する形で国際協力を発展させることも有効だとする。
「敵対行為が続く中であっても、私たちはシステムを適応させるために働くことができるし、そうしなければならない。」と同医師は語った。
そして同医師は、何が起ころうとも医療スタッフは仕事を止めないと誓った。砲弾が降り注ぐ中、懐中電灯の明かりだけを頼りに行った緊急帝王切開を思い起こしながら、「このような条件の下で子どもが生まれることは、いつも奇跡だ。それは、あらゆる困難を超えて働き続ける強い動機になる。」と語った。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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