【ベルリン/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】
核兵器なき世界の達成にむけた国連総会のオープン参加国作業グループは、持続可能な開発目標とともに、2015年が翌年に積み残した重要な課題である。
国連総会はまた他にも多くの重要な決議を採択している。139か国が「核兵器の禁止・廃絶に向けた法的欠落を埋める」ことを誓った。144か国が「いかなる状況の下でも」核兵器が二度と使用されないことが人類の利益にかなうと宣言した。132か国が核兵器は「本来的に道徳に反するもの」だと述べた。
国連総会は12月7日、核兵器なき世界を達成するための「法的措置や法的条項、規範」を起草する作業グループを設置するための投票を行った。138か国の支持を受けたこの新たな国連機関は、核兵器を即時に禁止する条約の諸要素を考案する取り組みに注力すると広く期待されている。
作業グループの創設は、2015年5月22日に終了した核不拡散条約(NPT)運用検討会議の最終文書草案で勧告されていた。「軍備管理協会」が指摘するように、この提案は、核軍縮に進展がみられないことに多くの国が不満を抱いていたことから出てきたものだ。
NPTの文書によると、作業グループの目的は、「法的条項あるいはその他の取り決め」を含めた、NPT「第6条の完全履行のための効果的措置を特定」し、そのことをコンセンサスを基礎に行うことにあった。第6条の下では、条約締約国は「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行う」ことになっている。
国連によれば、作業グループは「多国間核軍縮交渉の前進に寄与する可能性のあるその他の措置に関する勧告に実質的に対処する」ことになるという。そうした措置には次のようなものが含まれるが、それに限られるわけではない。
(a)既存の核兵器に伴うリスクに関連した透明化措置。
(b)偶発的、計算違い、未承認、あるいは意図的な核兵器爆発のリスク削減と排除のための措置。
(c)あらゆる核爆発によって引き起こされる様々な人道的帰結の複雑さとその間の相互関係についての意識を高め、理解を深めるための追加的な措置。
日程はまだ固まっていない。しかし、作業グループは2016年にジュネーブで最大15日間の会合を持つことになる。現実的な進展をもたらすために、作業グループは厳密なコンセンサス・ルールに縛られない。その実質的な作業及び合意された勧告について、次の10月に国連総会に報告書を提出することになっている。
国際組織や、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などの市民団体も参加の招請を受けている。ICANのベアトリス・フィン事務局長は、「核兵器を禁止する条約の要素を策定する真摯な現実的作業がいよいよ始まります。大多数の国はこうした行動を支持しているのです。」と語った。
メキシコが主導した作業グループ設置のための決議はその前文で、「ほぼ20年に亘って国連の枠組み内で多国間核軍縮交渉の具体的な成果は見られない。」と述べている。また、核武装国間の緊張の高まりという「現在の国際情勢」は、核兵器の廃絶を「より緊急の」課題にしている、としている。
核武装国でもある、中国・ロシア・英国・米国・フランスの国連安保理5常任理事国は、作業グループの創設に反対した。
5常任理事国は11月に発表した共同声明でその見解について説明している。ICANによれば、声明は、「禁止のような文書」は「NPT体制を損なう」と述べているが、どうしてそうなるのかについては説明していない、という。
5常任理事国は、「厳密なコンセンサス・ルールに縛られた「適切な任務を持った」作業グループなら支持した可能性があった。」と指摘したうえで、「しかし、そうした取り決めでは、議長の任命や議題の採択など、提案されたすべての行動や決定を5常任理事国が集団あるいは個別で阻止することを許してしまう。非核国により大きなフリーハンドを与えたメキシコの手法は「分断を招くもの」だと5常任理事国は批判している。
決議に関する投票に棄権した国の中には、国内に米国の核兵器の配備を認めているドイツがある。ドイツは、国連が作業グループにすべての加盟国の参加を求めているにも関わらず、部会は「包摂的」でないとして棄権した。特定の状況下での核使用は認められると考えている日本とオーストラリアもまた、あいまいな説明によって棄権した。
核兵器を保有しているとされるインドとパキスタンは、作業グループはジュネーブ軍縮会議(CD)の存在をないがしろにするものだと論じた。CDは、1978年の第1回国連軍縮特別総会の結果として、79年にジュネーブに創設された国際社会の唯一の多国間軍縮交渉フォーラムである。
20年近くにわたって停滞しているCDは、世界の3分の2の国々を排除している(そのほとんどは途上国)。CDは2016年の第1会期(1年に3会期開催される)は1月25日から4月1日の間に開催される予定である。
ICANによれば、作業グループ設置に関する国連総会決議の投票は、2013年から14年にかけて3回に亘って開催された「核兵器の人道的影響に関する会議」の成功の結果であるという。
「これらの会議の結果、諸政府や市民社会の間に、核兵器を禁止する条約の交渉を今こそ始めるべきだという期待が高まってきました。今年5月のNPT運用検討会議の失敗は、実際に行動を起こす必要性をさらに明確に示しました。」とICANは述べている。
「人道的見地から明白に容認できない兵器の禁止を無期限に遅らせることはできません。」「こうした行動に反対しつづける一部の国はあるでしょう。しかし、だからと言って私たちが歩みを止めることはないのです。私たちは既に、その他の無差別で非人道的な兵器(=生物・化学兵器等)を違法化してきました。今こそ、最悪の兵器を違法化すべき時です。」(原文へ)
翻訳=INPS Japan浅霧勝浩
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
関連記事: