SDGsGoal17(パートナーシップで目標を達成しよう)国連アジェンダ2030:政府に責任を迫る市民社会

国連アジェンダ2030:政府に責任を迫る市民社会

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム」が「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」と持続可能な開発目標(SDGs)に関する初めての検討会議を7月11日から20日に開催する中、市民社会の連合がそれぞれの知見を持ち寄ってニューヨークに集まり、国連加盟国に対して、それらの事実に注目するよう訴えている。

というのも、このハイレベルフォーラムは、2015年9月25日に世界の指導者によって採択された「2030アジェンダ」のフォローアップと実施状況を検討するための国連の中心的な場(プラットフォーム)だからだ。この年次フォーラムは、「2030アジェンダ」の履行とフォローアップに関する政治的リーダーシップや指針、勧告を打ち出す閣僚宣言を採択し、SDGsの進展状況を確認し、証拠と科学的知識、さらに国ごとの経験に裏付けられた一貫性のある政策を促進し、新たな問題に対処することを目的としている。

したがって、「2030アジェンダ」の実施状況やその構造的障害や課題に関する第三者的な監視と再検討が、SDGsの成功にとって主要な要素になる。「持続可能な開発に向けた2030アジェンダに関する熟考グループ(Reflection Group)」が市民団体やネットワークと共に、2030アジェンダの履行とその実現を阻む構造的障害について検討した初の年次報告書「スポットライト」を作成したのは、このためである。

「報告書は、とりわけ、不平等の問題や富裕層・権力者の責任、実施の方法、構造的な問題に焦点をあてながら17の開発目標の達成状況にスポットライトを当てている。」と「ソーシャル・ウォッチ」は述べている。

この報告書には次のような問いが提示されている。SDGsを達成するうえで現在主な障害になっているものは何か? 目標の実施に影響を与えたり、妨げになったりさえする、越境的な効果はあるのか? とりわけ「2030アジェンダ」に反映されているような現在の政策的アプローチは、問題や障害に対する正しい反応なのか(あるいは、それらは問題の一部なのか)? 何がなされるべきなのか? 具体的に(国際レベルで)どの政策変更が必要なのか?

7月12日に国連で発表された報告書「スポットライト」には、国別報告書の一部に関する知見も公表されている。

Juerg Staudenmann/ Alliance Sud

「私たちはもはや、一方で国内問題を語り、他方で外国の問題を語るということをやめるべきです。」「これらは今や一つの同じ問題なのです。すべての行動が、特定の一国のみに対してではなく、世界に対する影響という観点から評価されなくてはなりません。」と、スイスの開発NGO「Alliance Sud(スイスの組織発展のための連合)」のヨルグ・シュタウデンマン氏は語った。

スイスに関する市民社会の報告書は、問題の多い租税回避や汚職、違法な資金の流れを助長しているスイス銀行制度の秘密主義が途上国に与えるマイナスの影響について的確に指摘している。

こうしたシャドー報告書(=政府が作る国家報告書に対して、NGOがそれぞれの見方でつくるレポート)は、諸政府に責任を取らせるうえで、市民社会でよく使われているツールとなっている。2030アジェンダの履行が開始されて間もない現在、公表されたシャドー報告書が主に焦点を当てたのは、方法論や指標の開発と議論、各国別戦略策定に向けた諸政府の状況のモニタリング内容、SDGs達成に向けた進展を妨げかねない障害の特定である。

エキポ・プエブロ」のアレリ・サンドバル氏は、「メキシコのエネルギー部門の枠組みには、様々なSDGsとそのターゲットを達成するうえで、障害となるものがあります。」と指摘したうえで、「メキシコ憲法は、関連するその他の土地利用法よりも、炭化水素(石油や天然ガスの主成分)掘削を最優先するよう改定されています。」と解説した。

サンドバル氏はまた、「メキシコの現在の立法、政策、事業の一部の側面で人権や持続可能性のアプローチが満たされていないこと」への懸念を示し、具体的な事例として食料や住宅、性と生殖に関する健康、治安、麻薬に関する政策を挙げた。

SDG Goal No. 17
SDG Goal No. 17

サンドバル氏は「SDGsに関する国の実施計画や指標、フォローアップメカニズムの策定に市民社会が意味ある形で参加すること」を要求しているが、これは、その他多くの市民社会の連合体が各々の国で実現を望んでいることでもある。

エジプト経済社会権利センター」のマヒノール・エルバドラウィ氏によれば、エジプトでは、新たな開発戦略は、議会でも、民衆の参加を通じても、議論されていないという。エルバドラウィ氏は、「政府は、自らを『2030開発プロセスにおける主導国で『自発的な国家レビュープロセス』にも参加している』と宣伝していますが、政府の計画には、成功に向けた計測可能な指標や、目標達成のためのロードマップどころか、レトリックと実行との間の一貫性にすら欠いている状態です。」と説明した。

例えば、2014年憲法は、保健・教育分野に対する最低限の支出レベルを規定しているが、2016~17年度予算はこの最低基準を満たしておらず、政府の「2030ビジョン」における目標の1つとしても目されていない。また、同計画は、2011年以来の経済危機や貧困、政情不安につながった、数十年に及ぶ縁故資本主義や腐敗した組織慣行を覆す改革に取り組むことなく、官民パートナーシップに大きく依存しようとしている。

ソーシャル・ウォッチ・フィリピン」からの報告書でも、財政問題が挙げられている。同報告書は、「不公平な課税がシステムに埋め込まれており、結果として、野放図な企業行動が民衆と環境に害を与えている」と訴えている。マリビック・ラキザ氏は、「約2700万人のフィリピン国民(全人口の26.3%以上)が貧しい暮らしをしていますが、経済成長の果実は、政治経済を支配している1%以下の一握りの富裕層に集中しています。」と説明した。

Wolfgang Obenland/ Global Policy Forum

グローバル・ポリシー・フォーラムのウォルフガング・オーベンラント氏はドイツの市民社会レポートを紹介した。これは同国の環境・開発NGOの連合体による共同の取組みである。オーベンラント氏は、「2030アジェンダによれば、持続可能な開発を既に達成したと考えられる国はどこにもありません。」と指摘したうえで、「ドイツは持続可能性に関する『トレンドセッター』であるとの自負は捨てなければなりません。ドイツはかなりの領域において、パイオニアではなく、むしろかなり遅れています。世界は、ドイツにパイオニアとしての役割ではなく、農業や貿易、交通政策、その他多くの領域で緊急の行動を起こす必要性をドイツが認識するよう求めているのです。それも、ドイツがそのことから意味のある結論を引き出すことを期待しています。」と語った。

オーベンラント氏は、難民支援を政府開発援助(ODA)の一部としてカウントすることが始まった結果として、「2015年に、ドイツのODAによる受益国の第一位がドイツ自身になったことは皮肉なことです。」と語った。

ソーシャル・ウォッチ」のロベルト・ビッシオ氏は、ニューヨークに来て自ら調査結果を発表できなかった多くのNGO連合による報告内容をとりまとめて発表した。その中でビッシオ氏は、多くの国々が直面しているジレンマを顕著に表している好例としてペルーの報告書を引用して以下の部分を紹介した。

「ペルーは、主に、金や銅などの鉱物の価格上昇によって、持続的な経済成長を経験してきた。しかし実際には、国土全体が、鉱業、石油、伐採企業に対する譲歩を強いられており、地元住民としばしば対立が起こっている。」

「収入面の貧困は減少しているが、多次元貧困状態はむしろ悪化している。貨幣の流通や、電気通信・電話の接続の面では進歩がみられるが、犯罪の増加が街頭や都市を覆い、企業の影響力の増大から生じる汚職が政府部門全体に及んでいる。」

従って、ペルーの作家・芸術家であり、社会科学者のエクトル・ベハル氏の言葉を借りれば、「2030年の目標達成への道のりには霞がかかっており、障害に満ちている。」(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

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