【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】
核軍縮への寄与という点でドナルド・トランプ政権は何をすべきと考えているかを尋ねられたスウェーデンのボッセ・ヘドベルク駐アイスランド大使は、「この問題に関する米新政権の見解に対して、現時点では北欧諸国共通の立場はないものと理解しています。メディアからの情報をみるかぎり、新大統領は、米国の核兵器を削減するよりも、核能力強化のための投資を進めようとしているようです。」と答えた。
スウェーデンは、3月21日・22日にジュネーブで開催された軍縮会議に出席した北欧で唯一の国である。フィンランドとノルウェーはジュネーブ軍縮会議の構成国ではあるが、会議には参加しなかった。
3月27日、ニューヨークの国連本部では、核兵器を禁止しその廃絶を究極の目的とした条約を交渉する歴史的協議が開始される。これは、国連総会第一委員会におけるこれまでの交渉の成果である。例えば昨年10月27日の会合では、核軍縮に関する多くの決議が採択されている。
北欧諸国の中では、中立国のスウェーデンだけが、世界全体で核兵器の究極的廃絶を呼びかける主要な決議案であるL.41「多国間核軍縮交渉の前進」(オーストリアやメキシコなど43カ国が共同提案)に賛成した。
ジュネーブ軍縮会議で発言したスウェーデンのマルゴット・ヴァルストローム外相(上部の写真の人物)は、核不拡散条約(NPT)の新たな再検討サイクルが5月に開始されると指摘した。
「この条約は、まちがいなく核軍縮及び核不拡散の要です。しかし、今日までそのポテンシャルが完全に発揮されているとは言いがたい。核軍縮の公約の履行には重大な欠陥があり、その責任の大半は核保有国にあります。自らの核戦力を解体するとの約束を核保有国が無視し続けることはできません。ロシアと米国は、核兵器削減の再開をリードすべき立場にあるのです。」とヴァルドストローム外相は語った。
「NPT運用検討会議に関連して核兵器国がなすべき重要な措置は、例えば、法的拘束力のある消極的安全保証、核搭載可能な巡航ミサイルの禁止、戦術核兵器に関する協議など、他にもたくさんあります。そして、恐らくより重要なのは、警戒態勢の解除等のリスク軽減措置です。」とヴァルドストローム外相は付け加えた。
「核兵器国に対して、不安定化をもたらしかねない警告即発射態勢を放棄するよう強く求めています。偶発的な核兵器の使用を避けるために作戦上の即応態勢を緩和することは、あらゆる人々の利益となります。」とヴァルストローム外相は語った。
フィンランド外務省軍備管理・軍縮・核不拡散室のピア・ノルドベルク参与は、「北欧諸国は、核軍縮も含めて軍備管理や軍縮の問題について定期的に協議を行っています。例えば、国連第一委員会で共同声明を発しています。私たちは核兵器なき世界という共通の目標を有しています。フィンランドにとって、NPTは国際安全保障と核軍縮における要なのです。」と語った。
ノルドベルク氏は、「フィンランド政府はまた、具体的な核軍縮を推進するうえで核保有国が果たす役割を強調しています。」と指摘するとともに、「そうした好例には、ロシア連邦と米国が締結した新戦略兵器削減条約(新START条約)があります。我が国は米ロ両国に対して、条約の履行を継続し、さらに削減を推進するよう強く促しています。」と語った。
「米国に関して言えば、我が国との良好で建設的な対話と実際的な協力が継続することが重要です。私たちは、既存の軍備管理・軍縮の枠組みと合意を尊重・履行し、さらなる協力に向けた信頼を構築していく必要があります。新たな軍拡競争を望んでいる国などありません。NPTを正しく機能させるようにすることが最も重要です。核軍縮におけるほんの小さなステップでも、世界的な安全保障を高めることができるのです。」とノルドベルク氏は語った。
ノルウェーはまだこの問題に対処していない。ボルゲ・ブレンデ外相の政治参与であるボール・ルドヴィ・トルハイム氏は、「私の知る限り、ノルウェー議会ではトランプ政権の核政策についてはまだ討議していません。これはおそらく、今後どうなるかについて判断するには時期尚早だからでしょう。」と語った。
デンマークの状況も似たようなものだ。「トランプ政権の核軍縮に対する態度についてデンマーク議会が討議したとは聞いていません。防衛委員会は、外相と国防相を呼んでトランプ政権の拷問と水責めに関する見解について審議を行ったが、核軍縮については審議していません。」とジェスパー・ティングハース防衛委員会委員長は語った。
アイスランドでは、トランプ政権発足直前の1月に政権が交代した。外務省高官のウルダール・ギュナールスドティール氏によれば「この問題はまだ議論されていない」という。
左派緑の党運動の所属で外務委員会委員でもあるシュタイナン・トーラ・アルナドッティル議員は1月、「アイスランドは核兵器禁止に関する国連協議に参加するのか」とのグドゥロイグル・トール・トールダルソン外相に対する質問の形で、この問題を取り上げようとしている。「北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が協議への不参加を望んでいるのは承知しています。しかし外相はこの問題にまだ答えていません。」とアルナドティール議員は絶望した口調で語った。
ウフェ・エルマン-ジェンセン氏はデンマークの元外相で、今でも社会問題について活発な発言を続けている。ジェンセン氏は「これはあくまでも個人的な考え」と断ったうえで、「トランプ氏が核抑止を条件付きのものにしたことを懸念しています。というのも、核抑止はそれが無条件であるからこそ有効だからです。同時にトランプ氏は、一部の非核保有国が自らの核抑止力を開発すべきだと示唆しています。トランプ氏ができる最善のことは、NATOを通じて米国が欧州に与えている安全の保証は完全に無条件のものであるということに対する疑念を完全に払拭することに最大限努めるとともに、核兵器を制限する諸条約を順守する姿勢を示すことです。」と語った。
トランプ大統領は、2月にロイター通信が行ったインタビューの中で、「私は核のない世界を誰よりも見たいと思っている人間だ。しかし、それが友好国であっても、他国に劣るつもりは決してない。核兵器をどこの国も持たなければ素晴らしいし、それが理想だ。だが各国が核兵器を持とうとするなら、われわれはその頂点に立つ。」と語った。
3月16日に発表された予算案でトランプ大統領は、核兵器関連予算を11%、国防予算全体を8%増加させる一方で、環境問題や外交関係の予算は削減される見込みだ。また、核軍縮関連事業は廃棄される見込みである。
しかし、アイスランド人でビフロスト大学のマグナス・スヴェイン・ヘルガソン非常勤講師(経済史、米国政治)は、予算はおそらく承認されないだろうと見ている。「トランプ大統領の言葉と行動にはズレがあります。決定するのはトランプ大統領ではなく、議会なのです。」とヘルガソン氏は語った。
レックス・ティラーソン国務長官とジェイムズ・マティス国防長官が核軍縮に関連した決定に関与しうる立場である。ティラーソン氏は上院の指名公聴会において核不拡散の重要性に触れ、マティス氏は上院軍事委員会で「核備蓄に注意を払い、根本的な疑問が問われ、答えられねばならない」と述べている。
しかし、ヘルガソン氏はそうした見方を取らず、「ティラーソン氏はおそらく近代米国史上最も弱い国務長官です。ティラーソン氏やマティス氏の言うことに注目しても仕方ありません。それよりも、スティーブン・バノン主席戦略官・大統領上級顧問に着目すべきです。バノン氏こそが、トランプ大統領のブレーンです。」と語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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