【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】
米国のロナルド・レーガン大統領とソ連(当時)のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長(当時)が1987年12月10日にワシントンで署名した歴史的な共同声明は「核戦争には勝者はなく、決して戦われてはならないとの冷厳な信念によって、人々は導かれ続けるであろう」と述べた。
それから30年、「国際社会の重要な一面を今日特徴づけている和平プロセスにおいて主導的な役割を果たした」として1990年にノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフ氏は、「軍事ドクトリンが再び核兵器使用を認めているという事実を深く憂慮」している。
ゴルバチョフ氏は、こうした考えを念頭に置いて、2017年のノーベル平和賞が核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN、本拠ジュネーブ)に授与されるとの発表を歓迎した。
「ノーベル委員会は非常によい決定をしました。この賞は、核兵器とはどんなものであり、その廃絶が目指されてきたという事実を、常に思い起こさせてくれるだろう。『核兵器なき世界』以外にどのような目標があるというのだろうか!」―これは、国際社会経済・政治研究基金(ゴルバチョフ財団)のウェブサイトに掲載された声明である。
ノルウェー・ノーベル委員会は、10月6日の受賞者発表で、ICANは「核兵器使用が人類にもたらす壊滅的な惨禍について注意を引こうとし、条約に基づいた核兵器の禁止実現に向けた画期的な努力に対して受賞した」と述べた。
創価学会インタナショナル(SGI)の池田大作会長にとっても、これは大いに喜ばしい出来事であった。東京を本拠とし、全世界に1200万人の会員を擁するこの仏教徒のネットワークは、創価学会の戸田城聖第2代会長が1957年9月8日に「原水爆禁止宣言」を発表して以来60年に亘って、核兵器の廃絶に向けて取り組んできた。
核兵器なき世界の実現が喫緊の課題であると訴え続けてきたSGI会長は、世界192カ国・地域のSGIメンバーを代表し、ICANに対して「衷心からの祝意」を表明した。
「今回の受賞の契機となった核兵器禁止条約は、不可能と思える大きな課題に向けて希望を持って前進し取り組むとき、世界にどれほど大きなインパクトを与えることができるかを示すものです。」と池田会長は祝辞の中で述べた。
池田会長はさらに、「この受賞に、核兵器の廃絶を求めてきた全ての関係者、なかんずく被爆者の方々とそれに連帯する市民社会のメンバーは、どれほど勇気付けられることでしょう。」「2007年のICAN発足以来、SGIはその国際パートナーとして、核兵器のない世界を目指し共に力を合わせて歩みを進めて参りました。私どもSGIにとってもICANによるこの度の受賞は、何ものにも代え難い喜びであります。」と述べた。
「核兵器禁止条約の採択、ICANのノーベル平和賞を受け、核兵器廃絶への挑戦は、いよいようねりを増しつつ、新たなステージに入りました。」と池田会長は主張した。
「私どもSGIは核兵器禁止条約の一層の普及への努力に力を注ぐと共に、一人ひとりの『生命の権利』、人類の『生存の権利』に対する最大の脅威である核兵器の廃絶に向け、さらに不退の決意で皆様と連帯し、尽力して参ります。」と池田会長は強調した。
「新世代」の活動家たち
ICANのベアトリス・フィン事務局長は、「今回の受賞は、とりわけ『新しい世代』の活動家たちの努力が認められたことを示すものです。」と述べた。「新しい世代」の活動家とは、「冷戦後に育ち、なぜ核兵器が依然として存在するのか理解できない人たち」のことだ。
フィン事務局長はまた、「とりわけ、ノーベル平和賞は、核兵器禁止条約の成立に尽力した被爆者の功績が認められたものでもあります。」と語った。7月7日に核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す交渉会議で採択された同条約は、核軍縮に向けた法的拘束力がある多国間の取り決めとしては、この20年で初のものであった。フィン事務局長は、広島原爆の被爆者であるサーロー節子氏の言葉を引用して、「7月7日は核兵器の終わりの始まりです。」と語った。
「もちろん、平和賞によってトランプ(米大統領)に核兵器を放棄させることができるとは思いません。」「私たちは、核兵器が人々にとって受入れ難いものにしようとしているのです。…なぜなら、政府は最終的には国民の求めることをしなければならないからです。」とフィン事務局長は10月9日にニューヨークの国連本部で行われた記者会見で述べた。
9月20日に署名開放された核兵器禁止条約は、これまでに50カ国が署名し、3カ国(タイ、南米ガイアナ、バチカン)が批准している。しかし、条約が発効するにはあと47カ国の批准が必要だ。ICANの大きな目標は、2018年末までに核兵器禁止条約に50カ国の批准を得ることです。」とフィン事務局長は記者らに語った。
ICANアジア太平洋局長のティム・ライト氏は、「日本が核兵器禁止条約に署名・批准していないことは、1945年の広島・長崎の原爆を生き延びた被爆者への裏切りです。」と指摘したうえで、「被爆者の方々は、人類への深刻な警告を発しています。私たちは彼らの証言に耳を傾け、その呼びかけに応えねばならなりません。」と語った。日本は自ら核兵器は保有していないが、米国の「核の傘」に守られている。
日本の外務省はICANのノーベル平和賞受賞について、「ICANの行ってきた活動は,日本政府のアプローチとは異なりますが、核廃絶というゴールは共有しています。今回の受賞を契機として,国際社会で核軍縮・不拡散に向けた認識が広がることを喜ばしく思います。」との丸山則夫外務報道官の談話を発表した。
丸山外務報道官はこの談話の中で、ノーベル委員会が受賞発表の中で北朝鮮の核開発に言及している点を指摘したうえで、「北朝鮮の核・ミサイル問題はこれまでにない重大かつ差し迫った脅威であり、国際社会と連携してあらゆる手段により圧力を最大限まで高め,北朝鮮の政策を変えさせる必要があります。我が国は、核兵器の非人道性に対する正確な認識とともに、こうした厳しい安全保障環境に対する冷静な認識に基づいて、非核兵器国のみならず核兵器国の協力も得て、現実的かつ実践的な核軍縮・不拡散の取組を進めて行くことこそが、真に核兵器のない世界を目指す上で必要であると考えています。」と述べた。
丸山外務報道官はさらに、「広島・長崎の被爆者は、核兵器のない世界の実現に向けて被爆の実相を世界に伝えてきました。」と指摘したうえで、「核兵器廃絶に向けた被爆者・被爆地の長年の努力に対し、この機会に改めて敬意を表したいと思います。」と述べた。
ノルウェー・ノーベル委員会のベリト・レイス=アンデルセン委員長は、委員会の決定に関する説明の中で、「ICANは、国際法による核兵器禁止に向けた取り組みで主導的役割を果たした。」と述べた。7月7日、122カ国の国連加盟国が核兵器禁止条約の採択に賛成した。この条約は50カ国が批准した段階で発効し、全ての締約国に対して、国際法の下で法的拘束力を持つものとなる。
レイス=アンデルセン委員長はさらに、「委員会は、核兵器禁止条約だけでは核兵器を一発も削減できないことや、現段階では核保有国とその同盟国は賛同していないことを認識している。」と述べた。
実際、米国はすぐさま「今日の発表によってこの条約に関する米国の立場にいささかの変更もない。米国は『核兵器禁止条約』に賛成もしないし、署名もしないということだ。」とする声明を発表した。
レイス=アンデルセン委員長は、「委員会は、核兵器なき世界の実現に向けた次のステップでは、核保有国を巻き込まねばならないと強調したい。従って今年の平和賞はこれらの国々に対し、世界に存在するおよそ1万5000発の核兵器の段階的で偏りのない、注意深い監視の下での廃棄を目指した真剣な交渉の開始を求める呼び掛けでもあります。」と述べた。
同委員長はさらに、「核不拡散条約(NPT)は、核軍縮を促進し、核兵器のさらなる拡散を予防する主要な国際法律文書であり続けるだろう。」と述べ、核兵器を現在保有する国のうち5カ国(米国・ロシア・英国・フランス・中国)は、1970年のNPTへの加入を通じて、この目標の実現を既に約束している事実を指摘した。 後編に続く (原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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