【ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】
ヘレナ・マガフさんは、係争の対象になっていた土地が自分のものであると認める文書を手に、笑顔を見せた。文書が彼女の手に渡され、隣人との激しい紛争が解消されたのだ。
「とてもうれしいです。これで、ここが自分の土地と言い張る人間はもう出てこないと思います。」とマガフさんは語った。
タンザニア南西部モロゴロ州キロンベロ地区のサンジェ村に住むマガフさんは53歳の未亡人だ。夫の死後、彼女の30ヘクタールの土地を奪おうとする隣人との係争に8年間も巻き込まれてきた。
しかし、土地部門の透明性と効率向上をめざしたタンザニア政府のイニシアチブにより、マガフさんは土地の正当な所有者と認められた。
農場でトウモロコシやコメ、ヒマワリ、野菜を栽培しているマガフさんは、「慣習的占有権証明書」(CCRO)と呼ばれる文書を発行された。
マガフさんにとって、土地所有権の確認を得れたことは重要な節目であり、これでようやく農業に専念できる心の平静と安心を取り戻すことができた。
年間所得がおよそ450万タンザニアシリング(約2000ドル)のマガフさんは、「一生懸命働いて子どもを育てていく、やる気と熱意が出てきました。」と語った。
タンザニアは、広大な土地と安い労働力ゆえに、農業の大規模な投資先として大きな注目を集めてきた。農民たちは、作農や漁業、畜産のための土地を有しているが、所有権を証明するための文書はほとんどもっていない。
地域コミュニティーにとっては、土地の所有権を持つということは、永年使用権を確保する文書証拠を持つということであり、この文書はまた、銀行からの融資を受けるための担保としても利用できる。
かつて村の土地を保護していた法律が弱体化し、先住民族や農民は、専門家らが「外国人投資家が進めている大規模な土地収奪」と指摘する行為によって、広大な土地を失ってきた。
適切な土地所有権、あるいは土地の所有を示す証書がない状態で、村の土地はしばしば、村の腐敗した指導者らと結託した外国企業による奪取に対して脆弱になっていた。
土地取得に関するタンザニアの法制は、公的な投資監視機関である「タンザニア投資センター」を通じて土地を取得するよう企業に指示しているが、実際には村の人間との直接交渉に及ぶ投資家もいる。
この状況は紛争を引き起こすだけではなく、信頼を損ね、投資家が政府からの保護を受けれる可能性も弱めてきた。
しかし、地域コミュニティーはこうした動きを座視していたわけではない。抗議活動を行ったり、裁判所に提訴したり、土地を地図に正確に記して監視するなど、様々な工夫を凝らして、共有地の保護と失われた土地を取り戻す取り組みを行ってきた。
地域の慈善団体や村の議会、地域当局からの支援も得ながら、タンザニア各地の地域コミュニティーが、共有地に関してより強力な法的保護を得るために、地図製作と文書化を進めている。
2015年、タンザニア北部ロリオンド村のマサイ族の畜産家らが地元の裁判所で国を訴えた。野生動物のための通り道を作るとの名目で2014年に立ち退きを迫られた際に収用された村の土地の法的所有権を確認する際、証人に脅迫が加えられた、というのだ。
トランスペアレンシー・インターナショナルの「2014年度版グローバル腐敗バロメーター」によると、タンザニアの土地登録は、複雑なプロセスで、しばしば腐敗と非効率さを伴うものだという。
米国際開発庁(USAID)は、農村における土地所有権への理解を深めるために、2014年以来、「タンザニア土地所有権確認支援プロジェクト」を590万ドル規模の予算で進めている。タンザニア南部高地で地元農民に土地所有権を確保させ、「慣習的占有権証明書」(CCRO)の発行を促進させよう、というものだ。
この取り組みでは、地元の土地計画関係者が土地の評価や記録の保存に関する訓練を受け、紛争解決のスキルを身につけた。
「アクションエイド」の上級政策分析担当ダグ・ヘルツラー氏は、土地の権利を強化し貧しいコミュニティーを保護する動きは、貧困と闘う上で重要だと指摘した。「土地所有権に関するプログラムは地域の長期的な権利を保護し、投資家による土地収奪を阻止する点できわめて重要です。」とヘルツラー氏は語った。
農業はタンザニア経済の中心であり、人口の8割以上が農業に生計を依存している。しかし、タンザニア国家統計局によると、同国には農業生産に適した土地が4400万ヘクタールもあるにも関わらず、わずか1080万ヘクタールしか耕作の対象になっていないという。
最新の調査によれば、世界的に見れば、先住民族と地域コミュニティーは、地球の土地の半分以上を伝統的な仕組みの中で管理しているが、法的な面からみると保有割合はわずか10%であり、さらに低い割合の土地しか、登録されたり所有権が確認されたりしていないという。
2018年版「世界資源研究所」の調査によると、地域コミュニティーと先住民族は、共有地が強力な商業的利益によってますます土地収奪のターゲットにされる中で、自らの土地の所有権を主張しなければならないという厳しい闘いを強いられている。
この調査によれば、先住民や地域コミュニティーが土地の所有権を確保するために長年苦しい闘いを強いられてる一方で、政界に強力なコネクションを持つ裕福な企業が政府の官僚機構と巧みに渡りをつけ、わずか30日で土地の所有権を取得することもあるという。
「世界資源研究所」のアナリストであるローラ・ノーテス氏は「タンザニアでは、企業が村の土地を取得する際には地域コミュニティーと協議することとされています、実際には『一般的用途地』と分類された土地の権利を取得することが可能で、これについては、協議する必要はないとされています。」と語った。
共有地に関する慣習的な土地所有の枠組みが弱体化するなかで、地域コミュニティーは自らの土地の登録と文書確認作業を進めるうえで、様々な障害に直面している。時には数年もかかる面倒な手続きを余儀なくされることもある。
「南アフリカ貧困地・農業研究所」に在籍するタンザニア人の研究者エマニュエル・スレン氏は、「政府当局から様々な文書や承認を得るために、貧しい村々や個人に相当な負担がかかっています。このプロセスはしばしば、ただでさえ蓄えが乏しい村々の資源が枯渇するほどの危機に追いやっています。」と語った。
諸政府や企業は、天然資源を採掘したり、バイオ燃料農産物を育てたり、あるいは単に投機目的で土地を取得することに熱心だが、先住民族社会にとってみれば、それはしばしば、生活や収入、社会的アイデンティティーの基盤となる先祖代々の土地を失うことを意味する。
「村の境界を確定する行為は、しばしば村落住民との間に熾烈な係争を引き起こす火種となります。なぜならこうした紛争には、膨大な時間とカネがかかることになるからです。」とスレン氏は語った。
多くの国では法律で慣習的権利を認めているが、法的保護はしばしば脆弱で、ほとんど履行もされていない。共有地はより強力な主体による収奪に対して脆弱な立場に置かれている。
マサイ族やハッザ族といった牧畜や狩猟を主とする先住民族社会は、長年にわたって土地を追われてきたが、伝統的な土地利用の慣行よりも外国投資家を優先する政策に対抗して行動をとるようになってきている。
地元のNGO「ウジャマー地域リソースチーム」の支援を得て、自分たちの土地と従来の生活様式を喪失する危険に常に直面しているグループが、土地を守るための闘いを繰り広げている。
2003年以来、同NGOは、先住民族集団のために20万ヘクタール以上の土地を確保してきた。今後、北部タンザニアにおいて97万ヘクタール以上の土地を保護することが目標だ。
この取り組みの先駆者であるエドワード・ルール氏は、「計画通り目標を達成する自信があります。土地は先住民族にとってきわめて重要なものなのです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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