SDGsGoal14(海の豊かさを守ろう)アラル海は不死鳥の如く「灰」のなかから蘇りつつある

アラル海は不死鳥の如く「灰」のなかから蘇りつつある

【ニューヨークIDN=ラドヴァン・アキーム】

「世界最悪の環境災害一つ」に数えられるアラル海の縮小により被害を受けた地域は、中央アジア諸国の国境を越えて広範囲に及んでおり、国際社会による早急な対策が求められている。

アラル海の干上がった湖底から舞い散る塩分と有害物質を含んだ埃は、風に運ばれてアジアや欧州に暮らす人々や、遠くは人口が疎らな北極圏にまで達する事態となっている。

A comparison of the Aral Sea in 1989 (left) and 2014 (right)./ NASA
A comparison of the Aral Sea in 1989 (left) and 2014 (right)./ NASA

縮小が始まる前のアラル海は、カスピ海、北米の五大湖、アフリカのチャド湖に次ぐ、世界第4位の湖水面積(日本の東北地方とほぼ同じ:INPS)を誇り、中央アジアの砂漠地帯に位置するオアシスとして近隣の諸都市を潤していた。当時のアラル海は豊かな漁場であり、沿岸諸都市はリゾート地としても恩恵を受けていた。しかし1960年代以降、湖面が急速に縮小しはじめた。この主な原因は、当時のソ連中央政府が、アラル海に流入するアムダリヤ川とシルダリア川の水量を綿花栽培と稲作の灌漑用水として大規模に流用するプロジェクトを開始したためである。その結果80年代末には、かつての豊かなオアシスは、塩分を含む白いひび割れた湖底が露出し、錆びついたかつての漁船が島々のように点在する砂漠地帯に変貌してしまった。

以来、大きく縮小したアラル海の救済を目指すプロジェクトが着手されるようになった。かつてのアラル海の北部に残った湖面地帯(=小アラル海)では、(1991年にソ連から独立した)カザフスタンが救済プロジェクトを展開し、成果を見せている。当初は、シルダリア川から流入する水が砂漠に流出するのを防ごうと、地元住民が土盛りの堤防を建設するところから始まった。(2005年にはカザフスタン政府が本格的なコカラル堤防を建設:INPS)

堤防で南端を堰き止め水位が回復してくると、動植物がこの地に戻れるよう生物学者らが専門的な支援を行った。こうした努力が実り、小アラル海の水位は50センチにまで回復、1リットル当たりの塩分濃度も低下し、再び魚が生息できる環境が整いつつある。現時点で約20数種類の魚が再び生息するようになっている。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

カザフスタン領内のこうした取り組みにより、小アラル海は徐々に回復しつつある。しかし、その範囲は、かつてのアラル海の水域の20分の1に過ぎず、残りの地域の大半は、今でも生物が生息できない砂漠のままである。

カザフスタン政府は行動計画の策定に続いて世界銀行から「シルダリア川流路管理及び北アラル海プロジェクト」(2フェーズ、総額20億ドル)に対する融資を獲得することに成功している。小アラル海の再生が成し遂げられたことにより、科学者等の間では、アラル海そのものの再生も可能ではないかとの期待が高まっている。しかし、それを実現するには、十分な資金と科学的なアプローチを伴う政治的な意思がなければならない。

そのためにはまず最初に、ウズベキスタントルクメニスタンで長年使用してきた運河を改善する必要がある。第2に、アムダリヤ河口デルタに作られている人口湖(毎年夏季には干上がってしまう)の使用をやめ、湖面が残っている大アラル海西部に水の流れを再誘導する必要がある。そして第3に、深刻な生態系上の危機にも関わらず、ウズベキスタンとトルクメニスタンで引き続き産業規模で生産されている大量の水を必要とする綿花や稲作栽培を放棄する必要がある。

もしこのまま有効な対策が講じられず、アラル海が消滅することになれば、その悪影響は長期にわたり世界中に及ぶ大惨事となることを誰もが認識している。アラル海の縮小により、これまでに影響を受けた人々の数は既に500万人を上回っている。これらの人々は、この環境上の大惨事に直面して、呼吸器疾患、食道疾患、喉頭がんと診断されたり、中には失明した人々もいる。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

こうした状況を背景に、アラル海救済国際基金の設立国5か国(カザフスタン、キルギスタジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は、2018年8月24日に実に9年ぶりとなるサミットをトルクメニスタンで開いた。この間、各国はアラル海について真剣な交渉を必要とする様々な課題を抱えていたが、様々な対立から機会を逸していた。

ところが現在は、全体的な議題のなかでも最も問題含みの課題についてさえ合意していく意向を表明するなど、これら中央アジアの5か国は、このところ目に見えて関係改善の方向で推移している。こうしたことから、アラル海を巡る協力関係についても、同様の前向きな動きがみられるのではないかと期待されている。

大アラル海を救うためにかかるプロジェクト費用は、小アラル海対策のものを遥かに上回ると見られている。しかし、国際社会が抱えている懸念と、国際調査チームが導き出した、アラル海が完全に消滅した場合に予想される恐るべき結果に鑑みれば、大アラル海救済のための十分な資金支援を集めることは問題ないだろう。消滅しつつある湖とそこに水を供給する一本の水系によって繋がっている5か国の間には、アラル海の救済に向けて政治的意思を喚起せざるを得ない十分な理由がある。

したがって、もしウズベキスタンが、大アラル海を救済する用意があることを宣言するならば、関連当局は、干上がった湖底で石油・ガスの採掘・生産をするプロジェクトを断念する必要があることを覚悟しなければならない。つまり、一方では自然環境と住民の健康、そして他方では炭化水素(=石油や天然ガスの主成分)の生成からあがる架空の収入の、どちらかを選択するよう迫られることになる。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

トルクメニスタンでサミットを開いた主催者らは、この点を念頭に、環境保護の利点を訴えて、主要な金融機関や国際機関、外資系企業、ビジネス界全般の関心を喚起しようとしている。

アラル海救済国際基金の設立国5か国の首脳がおよそ10年ぶりに集って今年8月に開催した歴史的なサミットが契機となり、大アラル海救済に向けた新たな歴史が開かれ、中央アジアにおける地域間パートナーシップが力強く促進されていくことが望まれる。(原文へ

INPS Japan

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