【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】
注いだカップから豊饒な香りが立ちのぼるジンジャーミントティーの味ほど、素晴らしいものはない。ダルエスサラームにある「ソルト・レストラン」の客なら誰でもわかることだが、この美味な飲物はお金で買える最高の楽しみと言えるだろう。
緑豊かな高級住宅地オイスターベイに佇むしっとりとした雰囲気の外観と荘厳なフランス風建築を誇るこのレストランは、多くの紅茶愛好家を引き寄せている。
絶妙な味付けをしたジンジャーティーは、ミルクや砂糖、あるいはレモンを加えても、プレーンのままでも、絶品だ。
茶葉の育て方や加工の仕方によって味が変わるこの濃い色の飲み物は、街の一流ホテルからショッピングプラザ、田舎のスーパーマーケットに至るまで、人々の生活に浸透してきている。
顧客はしばしば、微かに謎めいた感覚に捕らえられながら、驚きをもってお茶を嗜む。タンザニアのティーブレンダーが作った最高級ティーブランドがどんな味なのか、想像もつかないからだ。
スワヒリ語で「私たちの仕事」を意味する「カジ・エトゥ」(Kazi Yetu)は、タンザニア産茶葉に価値を付加することで、巨大な農産物バリュー・チェーンの中で、女性に仕事と経済的機会を与えている新興企業だ。
この会社は、フェアトレードで調達した茶葉を加工・調合・包装・輸出する企業で、タンザニア経済に貢献している。
アフリカの農産品は海外で加工・調合・包装されることが多いが、タンザニアを含めた原産国が必ずしもスケール・メリットを享受できているわけではない。
起業家のタヒラ・ニザリ氏(32)と、彼女のビジネス・パートナーであり夫でもあるヘンドリック・ブールマン氏は、こうした現状を覆す取り組みに挑戦している。
アフリカ東部と南アジアで非営利開発部門を経済的に包摂する開発機関で働くなど、申し分のない学歴と豊かなビジネスの経験をもつニザリ氏は2018年、意欲的なビジョンを持って「カジ・エトゥ」を立ち上げ、付加価値を通じてアグリビジネスの経済的潜在能力を引き出すべく奔走してきた。
ニザリ氏が言うところの「追跡可能な製品」を生産する女性従業員だけの「カジ・エトゥ」の工場は、ダルエスサラームにあり、いわば活動の中心拠点になっている。
ニザリ氏は、地域と世界両方のレベルで綿密な市場調査を行って機会を把握し、タンザニアの農民のネットワークと関係を築くことで、地元の味のアクセントを利かせた主力商品「タンザニア・ティー・コレクション」の7つのブレンド商品を提供している。また、持ち前の鋭い感性で、同胞の多くが気づいていないような農業分野に多くのチャンスがあるとみている。
「タンザニアの若い人は農業で起業することにあまり魅力を感じていないようだけど、私たちは、利益も上がる農業のバリューチェーンに沿って新しい機会を創出しています。」とニザリ氏は語った。
そして、その優れたコミュニケーション能力と、官民両部門の地元のパートナーとの垣根を越えた交流によって、女性を貧困の苦しみから救い出す収入創出の機会を生み出そうと努力している。
「カジ・エトゥ」は、社会的企業として、新興のアグリビジネスとパートナーを組み、パッケージやブランディング、マーケティングを通じて価値を付与し、機会を創出して、国際市場とつながっている。
小規模農家や女性起業家の生活を変革し、収入向上をはかるニザリ氏とブールマン氏の仕事は、事業を始めた時から、将来に向けての明確なビジョンを持っていた。
「私たちは、投資と成長を持続可能な形で加速するような社会的企業を作りたかった。」とニザリ氏は振り返る。
「カジ・エトゥ」は、消費者の幅広い需要を満たすために、タンザニア全土の農家から倫理的に調達(エシカルソーシング)した茶葉にハーブを配合した様々なブレンド茶を製造している。
「世界の消費者は、商品がどのように作られ、サプライチェーンの中で商品が人々にどのように影響を与えているのかを知りたがっています。」とニザリ氏は語った。
彼女によれば、今年初め発生した新型コロナウィルス感染症の拡大で、会社や物流、消費者、施設が悪影響を被り、ほとんど倒産寸前まで追い込まれた。2020年度はほとんどの期間で、観光客がタンザニア行きの旅行をキャンセルしたからだ。
「4月には、工場を一時的に閉鎖して、安全を確保するために従業員たちを自宅待機にせざるを得ませんでした。また、ほとんどの国の政府が渡航制限とロックダウンをかけていたため、空路と海路で商品を輸出することが物流面で困難になりました。」とニザリ氏は語った。
資金繰りが悪化し、物流面で困難をきたしたにも関わらず、その後「カジ・エトゥ」の活動は徐々に回復した。
会社は現在、欧州市場を主に念頭に置いて、ドイツでオンラインストアを経営している。ニザリ氏は、オンライン消費者の反応はきわめて良好と感じており、オンライン販売に期待を寄せている。
「欧州の消費者を開拓できるのは嬉しいし、事業は北米や中東にも拡大しつつあります。」と彼女は語った。
「カジ・エトゥ」は、ドイツにある支社を通じて、同じような意志を持つ社会的企業と連携し、価値を創出してアフリカのマーケットに進出しようとしている。
彼女のビジネスパートナーやサプライヤーの間で高まるニーズを把握し、それに応えるために、「カジ・エトゥ」は、協力者に対して、有機農業の原則にこだわった教育訓練を提供している。
「私たちは農家と協力して、彼らの特定のニーズを把握し、ビジネスの拡大に寄与しています。」と語った。
彼女の会社は、例えば、食用ハーブの乾燥に太陽光をエネルギー源とする乾燥機を必要とする北部キリマンジャロ地域の小規模農家を支援している。
「私たちは太陽光乾燥機の設置を支援し、相手は分割で返済しています。」とニザリ氏は語った。
「カジ・エトゥ」は、ダルエスサラーム市内に貯蔵・製造・包装のための施設を複数持ち、12人の女性従業員を雇っている。
「お茶の包装機械を導入して、農家からの購入量を増やし、女性にもっと職を与えたいと考えています。工場では2022年までに女性を65人雇い、取引先の農家も7500戸まで拡大したい。」とニザリ氏は抱負を述べた。
会社は、公正に生産された、オーガニックで自然志向の商品を求めるお茶好きの消費者をターゲットとしている。
「オーガニック商品を扱うスーパーや商店を狙っています。」と彼女は語った。
カナダ生まれ、ドバイ育ちのニザリ氏は、タンザニアに深く刻まれた彼女の家族のルーツゆえに成功を収めたといえる。彼女の母は、キリマンジャロ山麓のモシで育った。
「私の祖父は農場と、街の中心部に店を構えていました…私は、自分のルーツがあるここに戻りたいといつも思っていました。」と、夫がアフリカ東部・西部において多くのアグリビジネスに関わっているニザリ氏は話してくれた。
子どものいないニザリ氏は、「ピリピリ」と名付けた、元は野犬だった愛犬と一緒にインド洋沿いの海岸を散歩するのを楽しんでいる。(原文へ)
INPS Japan
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