ニュースイランが中国・ロシア・EU・フランス・ドイツ・英国と共に核合意の有効性を再確認

イランが中国・ロシア・EU・フランス・ドイツ・英国と共に核合意の有効性を再確認

【ブリュッセルIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

イランの有名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が11月27日にテヘラン近郊の街頭で暗殺された事件に対するイランの反応についての憶測が広がる中、イラン核合意(JCPOA)の当事国は、合意を尊重するとの意向を改めて表明するとともに、それぞれの責任ある関与を維持し続ける必要性を強調した。

この意向表明は12月21日、E3/EU+2(中国・フランス・ドイツ・ロシア・英国・欧州連合外務・安全保障政策上級代表)とイランとの間で行われたオンライン形式の閣僚会合で確認された。会合の議長はジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表が務めた。

閣僚らは、すべての当事国によるJCPOAの完全かつ効果的な履行が依然として重要であることに合意し、核拡散の防止や、制裁解除の約束など、合意履行をめぐる問題に対処する必要性を強く主張した。

Killing of Mohsen Fakhrizadeh/ By Fars News Agency, CC BY 4.0

ドイツ外務省によると、閣僚らは、JCPOAにおける核不拡散に関するコミットメントの履行を監視・検証するよう国連安保理に義務付けられた唯一の公正かつ独立の国際組織として国際原子力機関(IAEA)が持つ重要な役割を強調し、IAEAと誠実に協力し続けることが重要であると述べた。

閣僚らは、国連安保理決議第2231号(2015)で承認されたJCPOAは、世界の核不拡散の取り決めの主要な要素であり、地域と国際の平和に貢献する多国間外交の重要な成果であると述べた。

閣僚らは、米国が合意から離脱したことへの深い遺憾の意を繰り返し表明し、国連安保理決議第2231号は完全に有効であると述べた。米国は、「イラン核合意」あるいは単に「イラン合意」として知られるJCPOAからの離脱を2018年5月8日に表明していた。

閣僚らは、米国をJCPOAに復帰させるように対話を継続することに合意し、この問題に対して前向きに共同で取り組んでいく用意があることを強調した。

専門家らは、ファクリザデ氏の死がイランの核開発プログラムに与える影響について確信を持てずにいる。ファクリザデ氏は、2000年代前半にイランが秘密裏に行っている核兵器開発を主導したとされる。最近では、イラン国防省・軍兵站部門における准将であり、同省の国防技術革新研究機関(DRIO)のトップの地位にあった。また、イスラム革命防衛隊と関係のあるイマム・ホセイン大学で物理学を教えていた。

ファクリザデ氏は、何らかの立場で核合意交渉に関わり、その仕事ぶりによってイランで最高の勲章を授与されたとされている。しかし、彼がイランの核計画において生前に何らかの積極的な役割を果たしていたとしても、それがどんなものであったのかは判然としない。

Mohsen Fakhrizadeh/By Tasnim News Agency, CC BY 4.0

ムハマド・サヒミ氏によると、イランの先進的な防衛開発研究を監督する立場にあるDRIOにファクリザデ氏の死が与える影響は、彼自身の役割と、同機関の人材状況について把握できない限り、どの程度のものになるかわからないという。しかし、研究開発プロジェクトの性質や、イランの軍産複合体における知識の制度化、DRIOが比較的豊かな人材を擁していたことを総合すると、ファクリザデ氏の死は限定的な意味合いしか持っていない、とサヒミ氏は外交専門ニュースサイト「Responsible Statecraft」に記している。

またサヒミ氏の分析は「イラン・レビュー」に転載されている。このサイトは、「非国家・非党派の主要な独立系ウェブサイトで、イランの政治、経済、社会、宗教、文化、外交政策、地域・国際問題に対する科学的・専門的なアプローチを代表して分析を提供するもの。」である。

サヒミ氏は南カリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授で、この20年間、イラン政治と核計画に関する論文を多数発表してきた。

今回の襲撃の首謀者は、任期が残り数週間となったドナルド・トランプ政権の間にイラン政府を米国との軍事紛争に引きずり込みたかったのかもしれないが、イランの意向が変化した兆しはない、とサヒミ氏は述べている。

イランの指導層や政界各派が復讐を呼びかけているが、イランは、「戦略的忍耐」政策の下で2018年5月以来の米国の「最大の圧力」攻勢に耐えてきた、とサヒミ氏はいう。近年では最も厳しい制裁、激しいサイバー攻撃、核施設を含めたイランの重要インフラに対するサボタージュ攻撃、政府幹部の暗殺などが、この攻勢の中で行われてきた。

イスラエルと米国が、イランの核・ミサイル計画を遅らせる目的をもった秘密戦争の一環として、ファクリザデ氏を少なくとも15年間に亘って追い続けてきたという見方で、専門家らは一致している。イスラエルは、イランが核兵器とその運搬手段の製造を実際に目指していると主張してきた。しかし、欧州連合が「犯罪的」とみなし、「司法外執行に関する国連特別報告者」のアグネス・カラマード氏が非難した複数回に及ぶ暗殺は、その目的を達したのだろうか。

答えはノーだ。なぜなら、「科学者が一人、また一人といなくなっても、イランの核計画は前進し続いているからだ。」

電磁気学とその核開発への応用に関する権威であるアルデシール・ホセインプル博士は2007年1月15日に、暗殺された初の主要なイラン人科学者となった。イランの核開発に関するIAEAの最新の報告書は、暗殺のちょうど2か月前にあたる2006年11月15日に発表されていた。

報告書は、イランは濃縮ウランを製造しておらず、濃縮に必要な数の遠心分離機も建設していないと確認していた。その後、2010年1月から2012年1月までの間に、4人のイラン人科学者が暗殺された。

サヒミ氏は、しばしば無視されている事実を指摘している。それは、①イランがJCPOAの規定に従って、低濃縮ウランの97%をロシアに輸出したこと、②1万3000基以上の遠心分離機を非稼働状態にしたこと、③フォルドウ施設から遠心分離機を撤去したこと、④アラクの研究炉を破壊したこと、⑤NPTの追加議定書の履行を開始し、それにより、イランのNPT順守を確認するために同国の核施設へのより積極的な査察を行う権利がIAEAに与えられたことである。

こうしたイラン側の努力にもかかわらず、「トランプ政権は2018年、国連安保理決議第2231号に違反してJCPOAから離脱し、イランに対する最も厳しい経済制裁を課した。」とサヒミ氏は記している。

Photo: Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.

それに加えて、この20年間、米国とイスラエルは、あらゆる手段を使ってイランのミサイル計画を妨害しようとしてきた。イランには、近代的な空軍がなく、ミサイル計画が唯一の通常兵器による防衛手段となっている。

イランの核濃縮施設の破壊を狙ったマルウェアを含む「スタックスネット攻撃」を例外として、イラン関係者の暗殺やサボタージュの攻撃ははどれとして「イランのミサイル・核計画を遅らせることができなかった。」実際のところ、イランの科学は自力で前進しており、あるプログラムの指導者が殺害されても、他にそれを引き継ぐ者が多くいるのである。

「イランの戦略的な重要性を考えるならば、米国やイスラエルに対するイラン民衆の態度の変化が、こうしたサボタージュや殺害行為の最も考えられる帰結であろう。しかし、そうした行為は、将来的に何も生み出さない。」とサヒミ教授は警告した。

『ニューヨーク・タイムズ』紙のデイビッド・E・サンガー氏は、ファクリザデ氏暗殺の別の側面に着目して、今回の暗殺は「ジョセフ・バイデン次期大統領が、対イラン外交を開始すらしていない段階で、イラン核合意を復活させる努力を座礁させかねないものだ。」と警告した。しかしそれこそが、今回の作戦の主要な目標だったのかもしれない。

Joe Biden in his West Wing Office at the White House/ By The White House from Washington, DC – V011013DL-0556, Public Domain

サンガー氏は、諜報筋の話として、イスラエルが今回の暗殺の裏で糸を引いていることはほぼ間違いないと記している。イスラエルのスパイ機関モサドは、その正確にタイミングを計った活動で有名だからだ。「そのうえ、イスラエル側は、こうした見方を否定していない。」とサンガー氏は指摘している。

実際、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランはイスラエルの生存上の脅威であり、今回暗殺されたファクリザデ氏は、人口800万のイスラエルを脅威にさらす爆弾を製造できるイスラエル最大の敵だと名指してきた経緯がある。

「しかし、ネタニヤフ氏にはまた別の目論見もあった。」とサンガー氏は記している。「決して過去の核合意へと回帰させてはならない。」まさにイラン核合意への回帰を公約していたジョー・バイデン氏が次期大統領になることが明らかになった直後に、ネタニヤフ氏が名言にしていたことである。

他方で、ジョナサン・パワー氏のような専門家は、イランの第13回大統領選挙が来年6月18日に予定されていることに着目している。穏健派のハサン・ロウハニ大統領が退任し、核合意回帰への交渉に熱心でない強硬な保守派が新大統領に就任する可能性が高い。

パワー氏は、新たな核合意は1か月もあればまとめることが可能であるという。「トランプ大統領が反故にした前の状態に即時回帰するという主張を双方が尊重できれば、それは可能だ。それにより、中東はより安全で平穏になる。そして、同じような誠実さをもって、より対立の大きい別の問題に関して交渉をすることで、中東をより安全な場所にすることができるだろう。」と、ジョナサン・パワー氏は記している。(原文へ

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