【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】
2020年は、伝染性の強いウィルスが世界をシャットダウンし、貧富の差が広がり、この数十年で初めて貧困が急拡大し、より平等な社会を作るという国連の取組みが押し戻されて、2015年9月に国際的に合意された「持続可能な開発目標」が危機に瀕した年として記憶されることになるだろう。
12月初めの時点で、2億3500万人という記録的な数の人々が2021年に人道支援を必要とすることになるだろうと国連は警告していた。2020年からは40%近い増加になるが、そのほとんどがコロナ禍による影響と言えるだろう。
国連のマーク・ローコック事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官は、「私たちが今見ている光景は、来たる時期の人道上のニーズに関して言えば、これまでで最も厳しく暗いものです。新型コロナウィルスの感染拡大が、最も脆弱な国々で数多くの人命を奪ってきました。」と語った。
ローコック事務次長は、「各地で赤信号が灯り、警告音が鳴っています。もし2021年を大きな飢餓を引き起こさずにやり過ごすことができたなら、それは大きな成果ということになるでしょう。」と述べ、人道支援関係者を待ち受けている問題は極めて大きく、さらに状況は悪化しつつあると警告した。
児童の貧困を削減する取り組みも、2020年は壁にぶつかった。国連児童基金(ユニセフ)と世界銀行は、約3億6500万人の児童が、新型コロナウィルスの感染拡大以前から貧困下にあり、コロナ禍によってこの数値はさらに拡大するものと見ている。このことは、児童の貧困を削減する取り組みにとって大きな試練となっている。
これは深刻な影響を及ぼすことになる。つまり、極度な貧困は、身体・認知面の発達に関連して何億人もの子どもたちから真の能力を発揮する機会を奪い、成人してから良い仕事に就く能力を脅かしてしまうのである。
「これらの数値を見るだけでも誰もがショックを受けることでしょう。各国政府は、長年見られなかったレベルの貧困が無数の子どもたちやその家族を襲う事態を防ぐために、子どもたちを対象にした救済計画を急いで策定する必要があります。」と、ユニセフの事業責任者であるサンジェイ・ウィジェセカラ氏は語った。
国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー事務局長は、この状況の別の側面に着目して、「女性がコロナ危機の矢面に立たされています。つまり、(男性よりも)女性の方が、収入源を失ったり、社会的保護の措置から漏れてしまうことが起こりやすいのです。」と、9月時点の統計を念頭に指摘した。
統計によれば、女性の貧困率は9%(4700万人相当)以上上昇している。この結果は、この数十年に及ぶ、極度の貧困を根絶するための取り組みの成果を反転させてしまうものだ。
UNウィメンのプムズィレ・ムランボ=ヌクカ事務局長は、女性の中で極度の貧困が増えていることは、現在の社会や経済の構造に「根本的な欠陥があることを明確に示したものです。」と語った。
他方、シュタイナー事務局長は、この危機の現状にあっても、女性の生活を大幅に改善するための方法は存在すると指摘した。例えば、もし各国政府が、女性の教育機会を増やし家族計画を強化し、賃金を男性と比較しても公正かつ平等なレベルに保てるようにできるのであれば、1億人以上の女性・女児が貧困から抜け出すことが可能だという。
4月に国連が作成した報告書は世界の被害状況を明らかにし、貧困と飢餓が悪化しつつあること、食糧危機にすでに見舞われている国々は新型コロナウィルスの感染拡大に極めて脆弱な状態にあることを指摘した。
「私たちは、重要なフードサプライチェーンを稼働させ続け、命を救う食料に人々の手が届くようにしなくてはならない。」と報告書は述べ、「危機に直面している人々に食料を与え、命を繋ぐ」人道支援を維持する緊急の必要性を強調した。
地域社会は、感染予防のための移動制限がある中で、公共交通機関(市営バス)を移動フード・ハブとして利用したり、旧来からの宅配サービスや移動市場などを利用したりすることで、貧者や弱者に食料を与える革新的な方法を模索してこなければならなかった。
「これらはすべて、ラテンアメリカの諸都市が国連食糧農業機関(FAO)の警告を考慮しながら人口を支えている事例である。FAOは、多くの都市住民にとっての健康上のリスクはコロナ禍において非常に高く、とりわけ、スラムなどの無認可居住区に暮らす12億人が特に危険な状態にあると警告している。」とUNニュースは指摘している。
国際労働機関(ILO)は2月、非正規部門の20億人の労働者が特に感染リスクに晒されていると宣言した。さらに3月の追加発表では、数多くの人々が職を失うか、ワーキングプアの状況に陥りかねないとの見通しを示した。
「これはもはや、単なる世界的な健康上の危機であるというだけではなく、人々に大きな影響を及ぼす労働市場や経済面での危機でもあります。」とILOのガイ・ライダー事務局長は語った。ILOは、職場における労働者保護、経済・雇用刺激策、企業・雇用・収入の支援など、人々の生活へのダメージを軽減する提言を行っている。
コロナ渦はこの数十年で初めて極度の貧困を押し上げて、開発をめぐる重要な成果をわずか数カ月で台無しにしてしまったが、他方で、このパンデミックが、より強力な社会的保護のしくみを構築するのに必要な変革の起爆剤にもなりうる、と国連のアントニオ・グテーレス事務総長は語った。
これは昨年12月に開催された「世界社会開発サミット」25周年記念のイベントでの発言で、グテーレス事務総長は、危機の長期的な影響を軽減するために指導者たちが大胆かつ創造的なアクションを取るよう呼びかけた。
グテーレス事務総長は、「コロナ禍は、不適切な社会保護のしくみ、医療など公共サービスへのアクセスの不平等、ジェンダーや人種、そして私たちが現在目の当たりにしているあらゆる不平等の拡大からもたらされる社会的・経済的リスクへの関心を高めました。」と語った。
そして、「従ってそれは、21世紀の課題に見合った形で、各国レベルでの『新たな社会契約』を構築するために必要な変革への扉を開きうるものです。」と付け加えた。
グテーレス事務総長は、コロナ禍発生前の1年前に行った、不平等に関する自身の発言を振り返って、「国際的な意思決定の場で権力や資源、機会がより適切に配分され、統治のメカニズムに今日の現実がより反映される新たなグローバル・ディールを世界は必要としています。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
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