【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】
ハイチ系アメリカ人で建築家のロドニー・レオン氏の作品「帰還の方舟」がニューヨークの国連本部に展示されている。奴隷制度と、400年以上にわたって続いた大西洋奴隷貿易の犠牲者を悼むものだ。
この記念碑は、「奴隷および大西洋間奴隷貿易犠牲者追悼国際デー」にあたる2015年3月25日に建立された。この日はまた、一部の欧州諸国や米国のポピュリストにより顕在化してきている人種差別と偏見の危険に対する意識を喚起することをめざした日でもあった。
それから3年が経過し、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、大西洋奴隷貿易の廃止200周年記念のフォローアップとして、「大西洋奴隷貿易・奴隷制度に関する教育展開プログラム」に関する報告書(2015年8月1日~18年7月31日)を国連総会に提出した。同報告書によると、国連広報局はこの3年間、毎年記念日に併せて以下のテーマ(「アフリカ系ディアスポラの遺産と文化」「アフリカ系の人々の遺産と貢献」「自由・平等を求める勝利と闘争」)を設けた記念イベントを実施している。
マリア・フェルナンダ・エスピノサ・ガルーセ国連総会議長は11月21日、報告書の紹介にあたって、奴隷貿易によって数百万人のアフリカ人が搾取されたと語った。議長は、「この大規模な悲劇の影響はいまだに続いています」と指摘したうえで、加盟国に対して、奴隷貿易に関する理解促進に努めるよう強く訴えた。また、「人種差別に対抗する最大限の努力をしなければなりません。」と述べ、教育プログラムと啓発活動に取り組む重要性を強調した。
エクアドルの国連大使であるエスピノサ議長は、奴隷制度の犠牲者を悼むためには、奴隷の子孫に影響を与えている問題を国際社会が理解しなくてはならない、と述べた。彼女は、世界の4000万人が現代の奴隷制の犠牲者であり、実行3年目にある持続可能な開発目標(SDGs)に沿ってこうした慣行に即座に終止符が打たれねばならないと加盟国に呼びかけた。「搾取と不平等を終わらせよう」と議長は訴えた。
カリブ共同体(CARICOM)を代表して、バハマのシーラ・カーリー大使は、400年以上続いた大西洋奴隷貿易の犠牲者1500~1800万人(推定)のことを決して忘れてはならない、と指摘したうえで、「これは人類の歴史においてもっとも暗いチャプター(一章)です。つまり、人間が単なる商品に貶められ、植民地事業者の富を増やし現状維持をはかるための手段として搾取されたのです。」と述べた。
奴隷の子孫が人口の多数を占めるCARICOMは、奴隷貿易の教訓に着目するあらゆるレベルの取り組みを支持するとカーリー大使は述べ、奴隷貿易の原因と帰結を将来世代に理解させるために教育機関と市民社会に協力してもらうプログラムの立ち上げについて言及した。
「世界は、この筆舌に尽くしがたい悪が社会に再び蔓延ることのないように決してこのことを忘れてはなりません。」とカーリー大使は述べた。国際社会は人種差別と偏見の危険について教育し意識を喚起しなくてはならない。「奴隷貿易の犠牲者に対する追悼の気持ちは、現代的な形態の奴隷制や児童労働、人身売買を打倒する決意を強化する推進力とならねばなりません。」と、カーリー大使は訴えた。
リヒテンシュタインの代表ゲオルグ・ヘルムート・エルンスト・シュパルベル氏は、奴隷制は今も存続しており、「実のところ、今日の世界には、大西洋奴隷貿易が最も激しかった時期よりも多くの奴隷が存在しています。」と述べた。
シュパルベル氏はまた、「現代的な意味での奴隷制と見なしうる状況下に推定4000万人が生きています。」と指摘し、同国の取り組みを紹介した。これは、世界の金融セクターが参考にできる実行可能な措置を創出することを目指したものだ。シュパルベル氏の見解では、戦争犯罪や人類に対する罪のカテゴリーで奴隷制を訴追できる国際司法裁判所(ICC)を巻き込むことが必要だと考えている。
キューバのアナヤンシ・ロドリゲス・カメホ国連大使は、かつての植民地宗主国は、西半球に奴隷貿易を導入することによって「人類に対する罪」を犯したと指摘した。
カメホ大使は、「征服と植民地化、奴隷制、奴隷貿易から利益を得た者には責任があり、これらの恐るべき犯罪に対する責任をとり、賠償をしなくてはなりません。」と強調した。また、キューバの人々は自身のアフリカ系ルーツを大変誇りに思っていると指摘しつつ、現代の奴隷制を廃絶するための努力を一層強化するよう訴えた。
シエラレオネのフランシス・ムスタファ・カイカイ大使は、奴隷貿易の遺産に対抗し、犠牲者の尊厳を回復することの重要性を強調した。カイカイ大使は、教育の役割を強調して、制度的な人種差別、差別一般や偏見のような今日の難題は、奴隷貿易というルーツを知ることなしに理解することができない、と述べた。
大西洋奴隷貿易について、小学校から大学に到るあらゆるレベルで教えられねばならない。「シエラレオネは、記念イベントの隠された真価は、(奴隷貿易で)失われた命や逞しく生きる子孫たちを称えることだけではなく、アフリカ出身者の子孫とアフリカとの間を架橋することにあると考えています。」とカイカイ大使は述べた。
カタールのアラノード・カシム・M・A・アルテミミ大使は、各加盟国は、奴隷貿易の残酷さと人種主義や不寛容の危険を次世代に伝えるための努力を推し進めなければならない、と述べた。民族的・宗教的背景に関わりなくあらゆる人間が保護されねばならないと呼びかけ、カタール政府はあらゆる形態の奴隷制を拒絶すると述べた。同国は、寛容と理解を促進するカリキュラムを採用しており、全国レベル・国際レベルにおいて人身売買と闘うために履行される取り組みについても言及した。
インドのパウロミ・トリパティ大使は、大西洋奴隷貿易は「記録のある人類の歴史上、もっとも悲劇的で非人道的なもののひとつであることは疑いの余地もありません。」と述べた。それは、強欲と、利益の反道徳的な追求の成せる技であった。数多くの人々の人生を破壊し、アフリカや南米、カリブ海地域社会の社会経済的な成り立ちを変えてしまった。「ガバナンスが存在しない無法地帯のグローバル化がもたらしたものの一例だ。」と、トリパティ大使は述べた。
トリパティ大使は、根無し草になったアフリカ出身者たちが人種差別と抑圧に直面した事実に触れ、国連広報局と国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が行っている意識喚起プログラムへの支持を表明した。
ユネスコは1994年、ベナンのキダで「奴隷ルートプロジェクト」を正式に立ち上げた。これは、大きな歴史的出来事を無視したり隠蔽したりすることは、人々の間の相互理解や和解、協力の妨げになるというユネスコの組織理念に発しているものである。(原文へ)
INPS Japan
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