【国連IPS=ブトロス・ブトロス・ガリ】
民主主義の普及が世界をより平和にするというのは本当だろうか。「民主主義による平和」論(デモクラティック・ピース)の考え方は、ドイツの哲学者イマヌエル・カントが恒久平和構想の一部として1795年に定式化したものだ。
この考え方は理想主義的過ぎるとして長らく軽んじられてきたが、1980年代に入って再び流行りだし、ついには米国政府の公式教義となった。
しかし、この理論は、民主主義国が平和主義的だということを言っているのではなく、民主主義国どうしが戦争をしないということを言っているに過ぎない。
「民主主義による平和」論は次の3つの説明を提示する。
第一。戦争の費用と便益をめぐる討論に市民が参加することで、軍事的な冒険が市民の福祉に与える危険、さらには、政治家が次の選挙で落選するリスクが明らかにされる。
第二。とりわけ立法・行政の分離を定めた憲法上の制約、および、民主主義国の意思決定過程の複雑化により、指導層の自律性が失われ、彼らによる恣意的な行き過ぎが防がれる。
第三。民主的な政治文化は交渉を通じた解決を好み、国内においてコンセンサスを作り出すための規範と手続きを国際的に広める。
しかしながら、これは、民主主義国が互いに戦争をしないということに過ぎず、民主主義国はしばしば、非民主的で「野蛮」な国に対しては平和的でない態度で臨む。
西側の民主主義国が行った植民地主義的な征服からクーデター支援、米国が最近イラクに対して仕掛けた「予防戦争」に到るまで、「もし民主主義国が当然に平和を望むのならば、民主主義国の軍隊は当然に戦争を望む」と言ったトゥクヴィルの観察を正当化する事例には事欠かない。
もうひとつ、民主主義に現在移行しつつある国々の問題もある。ハンガリー・ポーランド・チェコ共和国・ブラジル・チリ・韓国・タイ・台湾、そして程度は低いがフィリピンなどは成功した方だろう。
また、民主化の途上で武力紛争が起こった事例もある。アルメニア対アゼルバイジャン、ロシア対チェチェン、クロアチア対セルビアなどがそうだ。
民主化の中で少数民族に発言権が十分与えられないこともある。これについては、コソボや東ティモールなどの例がある。
重要なのは、民主的プロセスに必要な主体や制度を発展させるための長期的方針だ。政治政党、司法制度、市民社会、自由な報道、非政治的な職業軍人システムなどを作らなくてはならない。
西側民主主義国は、こうした方針を推し進めることが長期的に彼らの利益にかなう最もよい方法であることを理解しなくてはならないだろう。
翻訳/サマリー=INPS Japan浅霧勝浩