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マリア・フェルナンダ・エスピノサ氏、国連事務総長選に名乗り
「予防外交」と制度改革を掲げる実務派候補
【国連ATN=アハメド・ファティ】
マリア・フェルナンダ・エスピノサ氏が国連事務総長選への出馬を表明した。その人物像は外交官たちにとって馴染み深く、同時に軽視し難いものである。危機対応で名を上げたスター候補でもなければ、既存秩序を揺さぶる異端の挑戦者でもない。むしろ国連が直面しているのは「目的の危機」ではなく「実行の危機」だと訴える、経験豊富な多国間外交の実務家である。|ENGLISH|
これは華々しい主張ではない。しかし、決して軽い主張でもない。
加盟国と市民社会との約3時間に及ぶ対話セッションと、その後の短時間の記者会見で、エスピノサ氏は自らを「予防」「実行」「組織運営の規律」を重視する候補者として位置づけた。エクアドル元外相、元国連大使、第73回国連総会議長としての経験を強調しながら、国連は必要な原則をすでに備えているにもかかわらず、それを現場での迅速かつ一貫した行動へと結び付けることにしばしば失敗していると繰り返し訴えた。
この主張によって、同氏の立候補は他の候補者とは異なる位置づけを得た。
ミチェル・バチェレ氏が人権と正統性を掲げる候補、ラファエル・グロッシ氏が危機対応の実務家、レベカ・グリンスパン氏が制度戦略家、マッキー・サル氏が政治的橋渡し役だとすれば、エスピノサ氏はまた別のタイプの候補として浮かび上がる。予防重視の理念を掲げる組織改革派であり、次期事務総長の役割は新たな理想を語ることではなく、まず国連という機構をより効果的に機能させることにあると考えている。
それは会場を熱狂させるような主張ではないかもしれない。しかし、資金不足、分断、そして制度疲労に苦しむ国連にとって、それは極めて現実的な選択肢でもある。
冒頭演説でエスピノサ氏は、その構想の全体像を示した。
同氏は、国連は依然として不可欠な存在である一方で、しばしば対応が遅く、組織が断片化し、支援対象である人々の日常的なニーズから乖離していると指摘した。そして、より信頼性が高く、効果的な組織への改革を訴えた。より早く行動し、より耳を傾け、その評価はニューヨークで開催した会議の数ではなく、現場で何を変えたかによって測られるべきだと述べた。
また、次期事務総長には指導力と同時に傾聴力も求められるとし、自らの立候補を「信頼」「成果」「実行力」の上に位置づけた。そして、国連は関連性や予算を競い合う諸機関の寄せ集めではなく、「一つの組織」であるべきだと強調した。
この考え方は、加盟国から寄せられた多くの質問とも共鳴した。
アフリカ諸国は、安全保障理事会改革、国連とアフリカ連合の協力公約の履行、気候資金、開発政策、人材登用の地域的公平性について質問した。
欧州連合(EU)は、人権が国連システムの中でどのような位置を占めるべきか、また人権分野への予算配分が極めて少ない現状について問いかけた。
小島嶼国や太平洋諸国は、国連総会の役割や気候危機への対応をめぐり、多くの小国にとって多国間主義は選択肢ではなく生存のための手段であることを国連が理解しているのかと問い質した。
アラブ諸国グループは、パレスチナ問題、人道法、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、そして国際法の一貫した適用について明確な立場を求めた。
また、途上国グループは繰り返し、流動性危機、債務問題、開発資金の確保、そして国連改革が効率化の名の下に開発分野を弱体化させることにならないかについて懸念を示した。
エスピノサ氏の回答は派手さこそなかったが、一貫していた。
人権については、国連の三本柱である平和、安全保障、開発、人権は切り離して考えることはできないと述べた。平和なくして開発はなく、開発なくして人権はなく、人権なくして平和もないとし、人権分野への資金配分不足を問題視した。
パレスチナ問題と中東情勢については、二国家解決を支持し、民間人保護の重要性を強調するとともに、UNRWAの任務継続を支持した。また、国連事務総長は総会と安全保障理事会の取り組みを対立する政治的路線として扱うのではなく、より緊密に連携させるべきだと述べた。
開発問題に関しては、グローバル・サウス諸国の不満や課題に最も寄り添う姿勢を示した。
開発政策はニューヨークで設計されるべきではなく、各国自身が主導し、それぞれの現実に根ざしたものでなければならないと主張した。また、画一的な制度モデルではなく、各国の事情に即した支援が必要だと強調した。
さらに、財政的余地の拡大、国際金融システム改革、気候資金へのアクセス改善、債務再編、そして構造的制約に直面する国々への実践的支援の必要性を繰り返し訴えた。特に、小島嶼開発途上国(SIDS)、後発開発途上国(LDCs)、中所得国が抱える資金や技術へのアクセス格差について深い理解を示した。
しかし、彼女の主張の中で最も特徴的だったのは「予防」の概念であった。
エスピノサ氏は、事務総長室に直属する「早期警戒・早期対応ハブ」の創設を提案した。これは新たな巨大官僚機構ではなく、24時間体制でリスクを監視し、より迅速な政治的対応を可能にする仕組みだという。
また、シャトル外交、静かな外交(quiet diplomacy)、そして加盟国、とりわけ安全保障理事会との継続的な対話の重要性を繰り返し強調した。
その語り口は、危機が表面化してから注目を集める調停者というよりも、世界が危機を認識した時には国連はすでに手遅れになっていることが少なくないと確信する実務家のそれであった。
記者会見では、その考え方がさらに明確になった。
アントニオ・グテーレス現事務総長との違いを問われると、エスピノサ氏は再び「実行力」の問題に立ち返った。
国連は優先順位を明確にし、業務を合理化し、成果重視の文化を築く必要があると述べ、自らを「行動する人間」であり、「結果を出す人間」であると表現した。候補者がしばしば使う表現ではあるが、彼女の場合、それはこれまでの発言内容とも整合していた。
また、「初の女性事務総長誕生」の可能性について問われると、「80年も経ったのだから、なぜ今でないのか」と答えた。ただし、それは単に女性であればよいという意味ではなく、「正しい女性」であり、「正しいリーダー」でなければならないと付け加えた。
この回答は、彼女の強みと限界の双方を象徴していた。
エスピノサ氏は信頼性があり、経験豊富で、国連制度を熟知している。組織の仕組みを理解し、改革や公平性、実施能力について加盟国がどのように考えているかも把握している。
さらに、見過ごされがちな政治的強みも持つ。特定の陣営にとって明確なイデオロギー上の挑発者として映らない点である。
一方で、他の候補者がそれぞれの得意分野で見せたような圧倒的存在感を示したわけでもなかった。
グロッシ氏の危機対応能力、バチェレ氏の規範的な影響力、グリンスパン氏のより洗練された制度改革論に比べれば、エスピノサ氏の魅力はより堅実で着実なものだ。
彼女が訴えているのは、次期事務総長には組織運営を立て直し、実行重視の文化を強化し、次の危機が深刻化する前に「予防」を実際に機能する仕組みへと転換できる人物が求められているということである。
それだけで十分かどうかは分からない。
しかし少なくとも今回の選挙戦において、それは単なる「つなぎ」の主張ではない。
そして彼女の立候補が投げかける本質的な問いはここにある。
財政的、政治的、そして戦略的な圧力にさらされる国連は、次の指導者として「道徳的な声」を求めるのか、「危機管理者」を求めるのか、「地政学的仲介者」を求めるのか。それとも、国連の使命そのものは正しいと信じながら、その実行力の立て直しに取り組む「規律ある制度改革者」を求めるのか―。
INPS Japan/ATN
Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/maria-fernanda-espinosa-enters-the-u-n-race-as-a-process-reformer-with-a-prevention-pitch
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エベレストの麓まで到達した蚊たち
気候変動により、デング熱を運ぶ蚊とウイルスがネパールの山岳地帯へ拡大
【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=ユーリ・セガレルバ】
ネパールでは近年、かつては存在しなかったヒマラヤの高地の谷間へとデング熱が広がりつつあり、深刻な懸念が高まっている。
2025年には、国内16の高地郡のうち15郡で感染が報告された。これは、デング熱を媒介する蚊とウイルスが標高2,400メートルを超える地域まで到達した前例のない事態である。トリブバン大学の研究では、ジュムラ(標高2,438メートル)でネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)、およびその幼虫の存在が確認された。|英語版|
ソルクンブ郡では体系的な科学調査はまだ実施されていないものの、渡航歴のない住民の感染例が報告されており、エベレストの麓にも媒介蚊が生息している可能性が示唆されている。
蚊が2,438メートルへ
つい最近まで、これらの蚊が確認されていたのは標高2,100メートル以下に限られていた。しかし過去2年間でデング熱はほぼ全国へ拡大し、2024年から2025年にかけて77郡中76郡で感染が確認された。
疫学・疾病管理局(EDCD)によると、2024年1月以降の感染者数は42,647人に達し、19人が死亡している。ただし、実際の感染者数はこれを大きく上回るとみられている。
ネパール保健研究評議会(NHRC)はベルギー・アントワープ熱帯医学研究所と協力し、蚊のサンプルを採取。温暖化への適応や殺虫剤耐性の獲得状況を分析している。研究者たちは採集した標本を観察、撮影、分類し、生存や分布、耐性のパターンを記録している。
高地で生き延びる蚊を追う研究
カトマンズのNHRC研究所では、サントス・パンデイ氏、プラティマ・バンダリ氏、サンギタ・チャン氏らが顕微鏡で媒介蚊を観察している。昆虫学部門では実体顕微鏡を用いてネッタイシマカとヒトスジシマカの微細な違いを識別し、疾病リスクの評価や監視対策に役立てている。
顕微鏡下の雌のネッタイシマカでは、幼虫と成虫の色や形状の変化を調べることで、殺虫剤耐性や高地環境への適応の兆候を探っている。すべての標本は分析とデジタル保存のため撮影される。
2024年、シュクララジ熱帯感染症病院で治療を受けたスシラ・デヴィ・シャーさん(38)は、激しい筋肉痛や眼痛、頭痛、発熱に苦しんだ。これらはデング熱の主な症状であり、治療が遅れると重症化する恐れがある。
NHRCのシヴァ・ラジバンシ氏は蚊や幼虫を捕獲し、生息域を調査している。この研究は、気温上昇によって蚊が生息・繁殖できる地域の拡大を把握し、予防対策につなげることを目的としている。
気候変動が生む新たな脅威
専門家らは、デング熱がネパールの山岳地域へ広がった最大の要因として地球温暖化を挙げる。気温上昇によって、かつて感染リスクが低いと考えられていた高地でも蚊が生存・繁殖できるようになったためである。
デング熱を媒介する蚊は主に早朝と夕方に活動し、人々を吸血する。
さらに、道路網の整備による国内移動の活発化や国際的な人の往来の増加も、ウイルス拡散を後押ししている。その結果、医療体制が脆弱なヒマラヤの集落にも感染が及ぶようになった。
こうした遠隔地では、多くの住民が今もチベット伝統医学「ソワ・リグパ(Sowa Rigpa)」に頼っている。地域社会で厚い信頼を集めるアムチ(伝統医)が長年にわたり医療の担い手となってきた。
伝統医療とデング熱
標高2,743メートルのジョムソムでは、乾燥期のさらなる乾燥化と激しいモンスーン嵐など、異常気象が目立つようになっている。平均気温も上昇しており、蚊媒介感染症にとって好条件が整いつつある。2025年にはムスタン郡で9件のデング熱感染が報告された。
アムチのケドゥプ・ローデン・グルン氏は、脈診や尿・舌の観察、患者との対話を通じて診断を行う。ソワ・リグパは病原体そのものではなく、人間全体のエネルギーバランスに着目するため、「デング熱」に相当する概念は存在しない。
伝統的な手法で作られるソワ・リグパの薬草薬。乾燥・加工された薬草は手作業で粉砕され、受け継がれてきた伝統処方に従って調合される。その後、代々伝承されてきた技術と簡素な道具を用いて、粉末薬や丸薬、塗り薬へと仕上げられる。薬は患者に渡される前に、宗教儀礼に基づく加持が施される。
ジョムソムの診療所で若い患者を診察するケドゥプ・ローデン・グルン氏。仏教僧院文化を背景とするアムチ(チベット伝統医)の多くは、治療を慈悲と奉仕の行為と位置づけ、営利目的ではなく天職として医療に従事している。
インドのアーユルヴェーダや仏教思想の影響を受けたソワ・リグパは、身体・精神・環境・霊性を相互につながったものとして捉える包括的な医療体系である。
予防こそ最大の武器
デング熱の拡大を防ぐため、ネパール保健当局は蚊よけ剤や蚊帳の利用、家庭周辺の環境整備、停滞水の除去、媒介蚊監視の強化などを柱とする予防戦略を進めている。
気候変動の影響を受けやすくなった地域社会が、新たな健康危機に迅速に対応できる能力を高めることが目標だ。
デング熱には主要な2系統に対するワクチンが存在するものの、高価で副作用もあるため、現時点では予防と媒介蚊管理が最も有効な対策とされている。
標高2,413メートルのファプルにあるソルクンブ郡立病院。高地に位置するこれらの医療施設は、限られた医療資源を活用しながら、地域住民のさまざまな医療ニーズに対応している。
デング熱が疑われるナラ・マヤ・カトリさん(87)から、迅速診断検査用の血液サンプルを採取するビジャイ・シン・クシュワハ氏。近年、この地域でも同様の症例が増えており、病院ではこうした患者への対応が日常的なものとなりつつある。
NHRC研究所では、スニタ・バラル氏らが蚊の研究を続けている。
昨年、NHRCの蚊の繁殖地でデータロガーを設置するプラモド・シュレスタ氏。気温と湿度をリアルタイムで測定し、蚊の発育や生存、卵のふ化に影響を及ぼす環境条件を追跡している。ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの媒介蚊は限られた気候条件で繁殖するため、こうしたデータは気候変動への適応状況を把握する上で重要な手掛かりとなる。
アナプルナ山群へと流れ上るポカラ盆地の霧。デング熱を媒介する蚊もまた、山岳地帯へと分布域を拡大している。気温上昇と季節外れの降雨は蚊の繁殖に好条件をもたらし、より高い標高での生存を可能にしている。デング熱の拡大を防ぐには、住民への啓発と予防対策が引き続き重要となる。
高地へ拡大する蚊
地球規模の気温上昇により、ヒマラヤでは蚊がこれまで以上に高い標高でも生息・繁殖できるようになっている。その結果、デング熱、マラリア、日本脳炎、ジカ熱などの蚊媒介感染症は、分布域の拡大と感染拡大の両面で深刻化している。
低地では蚊は一年を通じて繁殖するが、高地では侵入種の蚊は季節的に出現し、在来種と共存している。ネパールでは、デング熱を媒介する蚊はこれまで夏季に標高2,000メートル以下でのみ確認されていた。しかし近年、ジュムラでは標高約2,500メートル地点で媒介蚊とその幼虫が確認されており、ソルクンブにも分布が広がっていることを示す証拠が見つかっている。
昨年、ネパールの77郡のうち75郡でデング熱患者が報告された。その背景には、気候変動、都市化、住民の認識不足に加え、国内外における人や物の移動の活発化がある。
INPS Japan
台頭するロヒンギャ抵抗運動―ムハンマド・ユーナス博士、軍事・政治同盟の必要性を訴える
【イスラマバードINPS Japan/London Post=モハンマド・ラーシド】
マレーシアのクアラルンプールで行われた独占インタビューで、ロヒンギャの長年の指導者であり、ロヒンギャ連帯機構(RSO)に関わってきたムハンマド・ユーナス博士は、医師から活動家へと転じた自身の歩みを語るとともに、ロヒンギャの人々が直面している長期化した危機について率直な見解を示した。|ENGLISH|
数十年にわたりこの問題に関わってきたユーナス博士は、安全な市民権、尊厳、自衛の必要性を強調した。同時に、ミャンマー軍事政権、アラカン軍(AA)、中国、米国、インド、バングラデシュが絡む複雑な地域地政学の中で、ロヒンギャが置かれている状況についても語った。
ユーナス博士は、アラカン、現在のミャンマー・ラカイン州で生まれ育った。1969年に医学部を卒業し、医師として勤務した。博士によれば、1962年にミャンマーで軍が政権を掌握して以降、アラカンのイスラム教徒を取り巻く状況は悪化し、法も秩序も機能しない軍政下で、日常生活そのものが抑圧に覆われるようになったという。
市民権が次第に疑問視され、奴隷のように扱われる一般のロヒンギャの苦しみを目の当たりにした博士は、1975年、ミャンマーでの安定した職業生活を捨て、バングラデシュでロヒンギャ運動に加わるという重大な決断を下した。
「私は医師として十分な収入を得ていました。家族でさえ、私が去るつもりでいることを知りませんでした。」と博士は振り返る。「しかし、アラカンのイスラム教徒が迫害され、未来も権利もない状況を見て、私たちのような者が共同体の経済、宗教、社会生活のために闘わなければならないと感じたのです。正当な権利のためには、命懸けで立ち上がるしかありませんでした。」
亡命生活と変化するバングラデシュの政策
ユーナス博士は、幾度にもわたる避難の波について詳述した。1978年、ミャンマーの社会主義軍事政権下で実施された「作戦」により、殺害や村落の焼き打ちが起き、約30万人のロヒンギャが逃れた。当時、博士はすでにバングラデシュにいた。シェイク・ムジブル・ラーマン政権初期の政府は、この問題への認識が限られていた一方、その後のカレダ・ジア政権下では、二国間合意に基づき20万人以上の帰還が実現した。ただし、ロヒンギャの移動の自由はなお制限されたままだった。
シェイク・ハシナ長期政権下で状況は急激に悪化したと、ユーナス博士は述べる。博士によれば、同政権はインドと緊密に協議しながら政策を進めていたという。「インドが認めることは実行され、そうでなければ何も行われませんでした。」と博士は語った。ロヒンギャの活動には情報機関への事前報告が求められ、全体として支援は後退した。
2024年8月にハシナ政権が崩壊し、ムハンマド・ユヌス教授を首席顧問とする暫定政権が発足して以降、キャンプの状況には一定の安定が見られるようになった。ユーナス博士は、バングラデシュの新指導部が犯罪や過激化といった内部問題に対してより厳格な姿勢を取っていることを認めた。その背景には、帰還への道を閉ざされた若者たちの不満があると博士は見る。「こうした権力者たちに声を聞かせるには、武装闘争しかないと考える人々もいます。」と博士は述べる一方、キャンプ内の全員がそうした動きに関わっているわけではなく、暫定政権はこうした傾向の抑制に努めていると強調した。
保証なき帰還は安全ではない
2026年以降の帰還の可能性について、ユーナス博士は懐疑的な見方を示した。博士は、バングラデシュ暫定政権には帰還を実現したいという真摯な意思があるとしながらも、現地の現実を指摘した。すなわち、ミャンマー軍事政権もアラカン軍(AA)も、ロヒンギャを平等な市民として受け入れる意思を示していないということだ。ラカイン州17郡区のうち約14郡区を支配しているとされるAAは、なお支配をめぐる争いが続き、軍政側の反攻にも直面しているが、多くのロヒンギャからは、軍よりも危険な存在と見なされている。抑圧が続いているとの報告もある。
「ロヒンギャは、この二つの勢力を信頼していません」と博士は述べた。「市民権が回復され、国際的保護の下で、平和で尊厳ある安全な帰還が保証されない限り、人々は戻りません。誰も、同じ苦しみの中へ戻りたいとは思っていないのです。」
博士は、最近の変化にも言及した。ミャンマー軍は、AAと戦わせるため、RSOに関係する一部勢力を含むロヒンギャ系武装集団に武器を供与していると報じられている。軍は、ロヒンギャ共同体を疎外した過去の過ちを認識し始めたともいう。しかし、紛争、爆撃、移動制限が続く中で、根本的な変化がない限り、帰還は現実的ではない。
地政学のチェス盤:中国、米国、インド、そしてその先
ユーナス博士は、主要国がこの危機にどのような影響を及ぼしているかについても分析した。博士は、中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)やアラカンにおける港湾・パイプライン事業について、帰還そのものとは直接関係しないものの、安全保障とは結び付いていると述べた。帰還を左右するのは経済事業ではなく、安全と市民権の保証だという。博士によれば、中国はAAによる中国関連インフラへの攻撃に苛立ち、軍政とAAの双方に圧力をかける一方で、ミャンマー軍には高性能兵器を供給している。北京はこれまで、経済的圧力を背景に他の武装勢力との停戦を仲介してきた経緯があり、地域の安定化を図るため、ロヒンギャの帰還を静かに後押しする可能性もあると博士は見ている。
「中国は賢明で、現実的です。他国の土地を占領する国ではありません」と博士は述べた。その上で、ロヒンギャがアラカン北部、すなわちカラダン川以東のイスラム教徒が多数を占める地域を確保できれば、信頼できないAAよりも中国の利益を守ることができるとの見方を示した。博士は、南部のAAに対抗するため、軍政とロヒンギャの同盟を中国が仲介する可能性にも言及した。
一方、米国とインドの関与について、ユーナス博士は地政学的動機に基づくものとして警戒感を示した。博士は、米国が中国に対抗するため、インド太平洋地域で足場を築こうとしており、セント・マーティン島やチッタゴン丘陵地帯もその対象になり得ると主張した。これは、グワダルや南シナ海をめぐる戦略と似ているという。インドについては、北東部の「セブン・シスターズ」における分離主義の拡大を警戒し、海へのアクセスにつながり得るアラカンで、イスラム教徒が多数を占める支配地域が生まれることに反対していると述べた。米印がAAに接近しているとの報道は、ロヒンギャへの真の支援ではなく、代理戦争的な力学への懸念を生んでいる。「ロヒンギャは罪のない人々です。私たちは利用されないよう、慎重でなければなりません。」と博士は警告した。
イスラム諸国やイスラム協力機構(OIC)について、ユーナス博士は批判的だった。危機のたびに声明は出されるが、実効的な影響力は伴っていないという。国連についても、博士はしばしば西側の利益に沿って動いていると見る。博士は、イスラム圏であるか否かを問わず、いかなる勢力からであっても、資金面、武器面、その他の形でより強力な支援が必要だと訴えた。
自衛と自治を求める訴え
今後5年以内に権利を取り戻せるかを問われると、ユーナス博士は率直に答えた。「自力だけでは不可能です。ロヒンギャは強力な勢力から真剣な支援を受けなければなりません。私たちは反撃する準備があります。決して諦めません。」
博士は、武器と資金の支援があれば、ロヒンギャには闘う能力があると述べた。過去の訓練経験にも触れたが、未確認の人物や勢力とは距離を置き、孤立した過激主義ではなく、組織的かつ真剣な国際支援が必要だと強調した。
博士が描く将来像の中心にあるのは、アラカン北部における自治である。難民が帰還すれば、その地域ではロヒンギャが多数派となり得る。博士は、それがAAに対抗するミャンマー軍との連携にもつながり、すべての当事者、そして中国の事業にとっても利益になると主張した。「私たちは約束を裏切りません。善良なムスリムとして、私たちは言葉を守ります」と博士は述べ、ロヒンギャは地域の安定に向けた信頼できるパートナーになり得ると訴えた。
ユーナス博士は最後に、人道回廊を利用してAAやバングラデシュのチッタゴン丘陵地帯の反政府勢力に武器を流そうとする米国の動きがあるとする疑惑にも触れた。博士は、中国が一帯一路構想(BRI)関連投資を守るためには、信頼できないAAとロヒンギャのどちらを選ぶのかを決めなければならないと訴えた。
今回のインタビューは、ロヒンギャ危機が単なる人道上の悲劇にとどまらず、深く絡み合った地政学的闘争でもあることを浮き彫りにしている。ラカイン州では戦闘が続き、AAが同州の大部分で優位に立つ一方、外部勢力の支援を受けた軍政側の抵抗にも直面している。安全で尊厳ある帰還はいまだ実現の見通しが立っていない。ユーナス博士が訴える武装による自衛と現実的な同盟の必要性は、数十年にわたり無国籍と暴力に苦しんできた共同体の絶望と決意を映し出している。
ロヒンギャにとって、前に進む道には、真の安全、市民権の回復、そして国際的保証が不可欠である。アラカンに恒久的な平和を築くためには、地域の諸勢力がそうした条件の実現を支援しなければならない。
INPS Japan
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|視点|グワダルにおける米国の戦略転換(ドスト・バレシュバロチスタン大学教授)
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暴力、気候ショック、飢餓がサヘルを崩壊の瀬戸際に追い込む
【国連IPS=オリトロ・カリム】
ここ数年、アフリカのサヘル地域における人道危機は大きく拡大している。その主因は、特にサヘル中央部で急増する暴力である。国連は、この危機について、2012年に顕在化して以来「見出しから大きく消え去った」と指摘しているが、地域全体では今なお数百万人が人道支援を切実に必要としている。民間人の避難、気候ショック、広範な飢餓は国境を越えて急速に広がっている。|ENGLISH|
「サヘルの人々は世界的危機の傍観者ではない。彼らは、世界で最も深刻かつ見過ごされている緊急事態の中心にいる。」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)西・中央アフリカ地域代表のシャルル・ベルニモラン氏は語った。「あらゆる資金不足には人間の犠牲が伴う。事業が削減されれば、子どもは一食を失い、女性と少女は保護を失い、家族は希望を失う。資金崩壊を、数百万人にとっての死刑宣告にしてはならない。」
OCHAは6月3日、サヘルに関する「2026年人道ニーズ・対応概要(HNRO)」を発表し、チャド、マリ、ニジェール、ブルキナファソ、ナイジェリア北東部、カメルーン極北州に広がる深刻かつ悪化する人道危機の実態を示した。OCHAによると、同地域全体で約2430万人が人道支援を緊急に必要としている。国連児童基金(UNICEF)によれば、このうちサヘル中央部だけで750万人の子どもが含まれる。
国連西欧地域広報センター(UNRIC)の統計によれば、世界のテロ関連殺人の大半はサヘルで発生している。さらにOCHAは、2025年を通じて一部地域で民間人に対する搾取が急増し、地域経済に深刻な混乱が生じ、コミュニティ全体が住む場所を追われたと記録している。
支援ニーズの規模が最も大きいのはサヘル中央部で、国内避難民は約300万人に上る。その内訳は、ブルキナファソが約200万人、ニジェールが54万8000人、マリが41万5000人である。さらに、周辺諸国には約100万人の難民がいる。UNICEFの統計では、今年、暴力の直接的影響によって360万人以上が強制的に避難を余儀なくされた。
4月下旬、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、首都バマコを含むマリ各地の複数の自治体を標的とした大規模攻撃を記録した。これにより多数の民間人被害が発生し、避難はさらに拡大した。その後数日間にも、マリ警察と武装勢力の間で相次ぐ衝突が報告された。
OHCHRはまた、これらの攻撃後、超法規的殺害や拉致など、重大な人権侵害に関する多数の申し立てがあったと報告している。5月には、マリの政治家で弁護士のムンタガ・タル氏が自宅から拉致され、妻も暴行を受けた。タル氏と妻、そして複数の拉致被害者の所在は現在も分かっていない。
さらに、国連人種差別撤廃委員会(CERD)は5月6日、ブルキナファソでフラニ民族に対する人権侵害が大幅に増加しているとの所見を公表した。フラニの人々は、国家主体および非国家主体によって、超法規的殺害、拉致、拷問、強制失踪、恣意的拘禁、財産の破壊にさらされているとされた。
OCHAによれば、武装集団はサヘル中央部とチャド湖流域で影響力を拡大し、コミュニティ全体から保護サービスや統治機能を奪っている。不安定化の拡大により、推定1万2900校が閉鎖され、230万人以上の子どもが教育を受けられなくなっている。その結果、子どもたちは武装勢力による徴用や搾取に一層さらされやすくなっている。
この危機で特に深刻な影響を受けているのは子どもたちである。UNICEFは、子どもに対する重大な人権侵害を1500件以上記録している。学校は引き続き攻撃の標的となっており、5月にはマリのモプティにある学校が爆発物の存在と武装活動の影響を受け、約300人に被害が及んだ。同じ時期、UNICEFはガオの地域保健施設への攻撃も記録しており、これにより約2700人の子どもが医療を受ける機会を妨げられた。
地域全体で繰り返される気候ショックも、危機をさらに悪化させている。サヘルの気温上昇は世界平均を大きく上回る速度で進んでいる。OCHAの統計によれば、2025年だけで約59万人が激しい洪水の影響を受けた。また、長期化する干ばつと広範な砂漠化が地域の農業を破壊し、数百万人の生計を脅かしている。
長引く気候ショックと武力紛争により、サヘルは世界で最も深刻な飢餓危機の一つとなっている。OCHAは、6月から8月にかけて、約1540万人が「危機的」水準以上の食料不安に直面する可能性があり、このうち150万人は「緊急」水準に陥る恐れがあると予測している。
UNRICによれば、マリでは食料配給の削減により、複数地域で飢餓が64%増加し、150万人が深刻な食料不安に陥っている。さらにサヘルでは肥料価格の上昇が農業生産の低迷に拍車をかけ、燃料価格の上昇が食料や支援物資のコストを押し上げている。
支援ニーズが広範かつ拡大しているにもかかわらず、サヘル向けの人道資金は近年急減している。国際社会からの支援は過去10年で最低水準に落ち込み、2025年には必要資金の29%しか確保されなかった。その結果、援助団体は対応規模の縮小を余儀なくされ、最も脆弱な人々への支援を優先せざるを得なくなっている。
「サヘル全域で、人道支援関係者は『人道対応の再編』を進めている。最も差し迫ったニーズに重点を置き、対応を簡素化し、限られた資源で最大限の効果を上げるための取り組みである。」とベルニモラン氏は語った。
同氏はさらに、「これは困難な選択を迫られながらも、効率性を高め、意思決定を被災コミュニティにより近づけることを意味する。また、予測に基づく早期対応、現金支援の拡大、そして、とりわけアクセス困難地域で人々に支援を届ける上で重要な役割を担う国内・地域団体への支援強化も含まれる。」と語った。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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