気候変動により、デング熱を運ぶ蚊とウイルスがネパールの山岳地帯へ拡大
【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=ユーリ・セガレルバ】
ネパールでは近年、かつては存在しなかったヒマラヤの高地の谷間へとデング熱が広がりつつあり、深刻な懸念が高まっている。
2025年には、国内16の高地郡のうち15郡で感染が報告された。これは、デング熱を媒介する蚊とウイルスが標高2,400メートルを超える地域まで到達した前例のない事態である。トリブバン大学の研究では、ジュムラ(標高2,438メートル)でネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)、およびその幼虫の存在が確認された。|英語版|
ソルクンブ郡では体系的な科学調査はまだ実施されていないものの、渡航歴のない住民の感染例が報告されており、エベレストの麓にも媒介蚊が生息している可能性が示唆されている。
蚊が2,438メートルへ

つい最近まで、これらの蚊が確認されていたのは標高2,100メートル以下に限られていた。しかし過去2年間でデング熱はほぼ全国へ拡大し、2024年から2025年にかけて77郡中76郡で感染が確認された。
疫学・疾病管理局(EDCD)によると、2024年1月以降の感染者数は42,647人に達し、19人が死亡している。ただし、実際の感染者数はこれを大きく上回るとみられている。
ネパール保健研究評議会(NHRC)はベルギー・アントワープ熱帯医学研究所と協力し、蚊のサンプルを採取。温暖化への適応や殺虫剤耐性の獲得状況を分析している。研究者たちは採集した標本を観察、撮影、分類し、生存や分布、耐性のパターンを記録している。
高地で生き延びる蚊を追う研究

カトマンズのNHRC研究所では、サントス・パンデイ氏、プラティマ・バンダリ氏、サンギタ・チャン氏らが顕微鏡で媒介蚊を観察している。昆虫学部門では実体顕微鏡を用いてネッタイシマカとヒトスジシマカの微細な違いを識別し、疾病リスクの評価や監視対策に役立てている。

顕微鏡下の雌のネッタイシマカでは、幼虫と成虫の色や形状の変化を調べることで、殺虫剤耐性や高地環境への適応の兆候を探っている。すべての標本は分析とデジタル保存のため撮影される。

2024年、シュクララジ熱帯感染症病院で治療を受けたスシラ・デヴィ・シャーさん(38)は、激しい筋肉痛や眼痛、頭痛、発熱に苦しんだ。これらはデング熱の主な症状であり、治療が遅れると重症化する恐れがある。

NHRCのシヴァ・ラジバンシ氏は蚊や幼虫を捕獲し、生息域を調査している。この研究は、気温上昇によって蚊が生息・繁殖できる地域の拡大を把握し、予防対策につなげることを目的としている。
気候変動が生む新たな脅威
専門家らは、デング熱がネパールの山岳地域へ広がった最大の要因として地球温暖化を挙げる。気温上昇によって、かつて感染リスクが低いと考えられていた高地でも蚊が生存・繁殖できるようになったためである。
デング熱を媒介する蚊は主に早朝と夕方に活動し、人々を吸血する。
さらに、道路網の整備による国内移動の活発化や国際的な人の往来の増加も、ウイルス拡散を後押ししている。その結果、医療体制が脆弱なヒマラヤの集落にも感染が及ぶようになった。
こうした遠隔地では、多くの住民が今もチベット伝統医学「ソワ・リグパ(Sowa Rigpa)」に頼っている。地域社会で厚い信頼を集めるアムチ(伝統医)が長年にわたり医療の担い手となってきた。
伝統医療とデング熱

標高2,743メートルのジョムソムでは、乾燥期のさらなる乾燥化と激しいモンスーン嵐など、異常気象が目立つようになっている。平均気温も上昇しており、蚊媒介感染症にとって好条件が整いつつある。2025年にはムスタン郡で9件のデング熱感染が報告された。

アムチのケドゥプ・ローデン・グルン氏は、脈診や尿・舌の観察、患者との対話を通じて診断を行う。ソワ・リグパは病原体そのものではなく、人間全体のエネルギーバランスに着目するため、「デング熱」に相当する概念は存在しない。

伝統的な手法で作られるソワ・リグパの薬草薬。乾燥・加工された薬草は手作業で粉砕され、受け継がれてきた伝統処方に従って調合される。その後、代々伝承されてきた技術と簡素な道具を用いて、粉末薬や丸薬、塗り薬へと仕上げられる。薬は患者に渡される前に、宗教儀礼に基づく加持が施される。

ジョムソムの診療所で若い患者を診察するケドゥプ・ローデン・グルン氏。仏教僧院文化を背景とするアムチ(チベット伝統医)の多くは、治療を慈悲と奉仕の行為と位置づけ、営利目的ではなく天職として医療に従事している。
インドのアーユルヴェーダや仏教思想の影響を受けたソワ・リグパは、身体・精神・環境・霊性を相互につながったものとして捉える包括的な医療体系である。
予防こそ最大の武器
デング熱の拡大を防ぐため、ネパール保健当局は蚊よけ剤や蚊帳の利用、家庭周辺の環境整備、停滞水の除去、媒介蚊監視の強化などを柱とする予防戦略を進めている。
気候変動の影響を受けやすくなった地域社会が、新たな健康危機に迅速に対応できる能力を高めることが目標だ。
デング熱には主要な2系統に対するワクチンが存在するものの、高価で副作用もあるため、現時点では予防と媒介蚊管理が最も有効な対策とされている。

標高2,413メートルのファプルにあるソルクンブ郡立病院。高地に位置するこれらの医療施設は、限られた医療資源を活用しながら、地域住民のさまざまな医療ニーズに対応している。

デング熱が疑われるナラ・マヤ・カトリさん(87)から、迅速診断検査用の血液サンプルを採取するビジャイ・シン・クシュワハ氏。近年、この地域でも同様の症例が増えており、病院ではこうした患者への対応が日常的なものとなりつつある。

NHRC研究所では、スニタ・バラル氏らが蚊の研究を続けている。

昨年、NHRCの蚊の繁殖地でデータロガーを設置するプラモド・シュレスタ氏。気温と湿度をリアルタイムで測定し、蚊の発育や生存、卵のふ化に影響を及ぼす環境条件を追跡している。ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの媒介蚊は限られた気候条件で繁殖するため、こうしたデータは気候変動への適応状況を把握する上で重要な手掛かりとなる。

アナプルナ山群へと流れ上るポカラ盆地の霧。デング熱を媒介する蚊もまた、山岳地帯へと分布域を拡大している。気温上昇と季節外れの降雨は蚊の繁殖に好条件をもたらし、より高い標高での生存を可能にしている。デング熱の拡大を防ぐには、住民への啓発と予防対策が引き続き重要となる。
高地へ拡大する蚊
地球規模の気温上昇により、ヒマラヤでは蚊がこれまで以上に高い標高でも生息・繁殖できるようになっている。その結果、デング熱、マラリア、日本脳炎、ジカ熱などの蚊媒介感染症は、分布域の拡大と感染拡大の両面で深刻化している。

低地では蚊は一年を通じて繁殖するが、高地では侵入種の蚊は季節的に出現し、在来種と共存している。ネパールでは、デング熱を媒介する蚊はこれまで夏季に標高2,000メートル以下でのみ確認されていた。しかし近年、ジュムラでは標高約2,500メートル地点で媒介蚊とその幼虫が確認されており、ソルクンブにも分布が広がっていることを示す証拠が見つかっている。
昨年、ネパールの77郡のうち75郡でデング熱患者が報告された。その背景には、気候変動、都市化、住民の認識不足に加え、国内外における人や物の移動の活発化がある。
INPS Japan













