INPS Japan/ IPS UN Bureau Report世界大戦はすでに始まっているのか

世界大戦はすでに始まっているのか

【ウクライナ・キーウIPS=ニコライ・カピトネンコ】

近年、世界で深まる緊張と暴力、不確実性を直視せずにいることは、ますます難しくなっている。戦争の数は増え、軍事支出も拡大し、大国の発言は一段と強硬さを増している。中東における最近の緊張激化は、第3次世界大戦の始まりをめぐる議論を再び呼び起こした。イスラエルと米国によるイラン攻撃の影響は、少なくとも原油価格を注視する人々にとって、この地域をはるかに超えて波及している。

多くの大国の利害が交錯するなか、第三国も次の一手を見極めようとしながら、相次いで立場を表明している。核兵器がある以上、第3次世界大戦は起こり得ないという見方から、すでに始まっているという認識まで、意見は大きく割れている。では、実際に何が起きているのか。

ジャーナリズムと学術のあいだにある概念

歴史家が「世界大戦」と語るとき、それは過去の二つの特異な戦争を指す。規模の大きさ、多数の国家を巻き込んだ点、戦闘の激烈さ、そしてその後に及ぼした影響の性質が、これらを他のあらゆる戦争とは一線を画すものにしている。

こうした戦争が他とどう異なるのかを理解するには、20世紀の各武力紛争における人的被害、防衛支出、あるいは破壊の規模を示す図表に目を通せば十分である。

By Yousuf Karsh – Flickr: Sir Winston Churchill, Public Domain

もっとも、歴史家の見方は一様ではない。政治家としての方が知られるウィンストン・チャーチルはかつて、七年戦争を世界大戦と表現した。この18世紀の長期戦は、当時の主要列強の大半を直接戦闘に巻き込み、戦場はヨーロッパ、北米、大西洋、インド洋にまたがり、深刻な地政学的帰結をもたらした。これを世界大戦と呼んでも不思議ではない、という発想である。

これに対し、より保守的な歴史家であれば、こう反論するかもしれない。それは工業化国家同士による総力戦ではなく、戦闘の規模も、動員された軍隊の数も比較的限られていた。結果は重大だったとしても、体制そのものを組み替えるような性質のものではなかった、と。

過去数年、世界の武力紛争の数は増加を続けており、2024年は第2次世界大戦後で最も多い年となった。

「世界大戦」という言葉は、ジャーナリズム上の概念であると同時に、学術的概念でもある。効果を高め、注目を集め、あるいは比喩的な類推を行うために、第1次・第2次世界大戦以外の出来事にも用いられることがある。たとえば17世紀の三十年戦争、19世紀のナポレオン戦争、さらには冷戦さえも、世界大戦と呼ばれる場合がある。

その論理に従えば、今日ですら世界大戦の一部の要素を見ることはできる。ここ数年、武力紛争の件数は増え続けており、2024年は第2次世界大戦後で最悪の年となった。ある推計によれば、この年には36カ国で61件の武力紛争が記録され、過去30年の平均を大きく上回った。

An RQ-4 Global Hawk unmanned aircraft like the one shown is currently flying non-military mapping missions over South, Central America and the Caribbean at the request of partner nations in the region./ By U.S. Air Force photo by Bobbi Zapka, Public Domain
An RQ-4 Global Hawk unmanned aircraft like the one shown is currently flying non-military mapping missions over South, Central America and the Caribbean at the request of partner nations in the region./ By U.S. Air Force photo by Bobbi Zapka, Public Domain

世界の軍事支出も増加している。現在、その規模は世界経済の2.5%に達し、2011年以降で最高水準となり、2021年以降は上昇傾向が続いている。もっとも、これは依然として冷戦期の水準、すなわち通常3~6%だった時代に比べればかなり低い。こうした数字を見れば、近年、世界の安全保障環境が悪化していることは明らかである。だが、それはどれほど深刻なのか。

より学術的な立場からいえば、世界大戦とは、主要大国の大半が関与し、地球規模の広がりと総力戦としての性格を持ち、莫大な損失と破壊を生み、その終結によって世界そのものを大きく変えてしまう戦争である。そこでは、大国同士の直接的かつ大規模な武力衝突が不可欠の条件となる。

そして、これこそが「第3次世界大戦はすでに始まっている」という見方に対する最大の反論である。現代世界の不安定化がどれほど進もうと、大規模な地域紛争がどれほど激化しようと、国家がどれほど軍備に資金を投じようと、それだけでは世界大戦とはならない。必要なのは、大国が関与する大規模な軍事作戦である。

それは杞憂にすぎないのか
London Post.
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そうした事態は、長く起きていない。第2次世界大戦後から今日までの期間は、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間隔をはるかに上回っている。その背景で中心的な役割を果たしてきたのが核兵器である。核兵器は戦争の代償をあまりにも高く引き上げたため、大国はあらゆる手段でそれを回避するようになった。この抑止の仕組みは80年以上にわたり機能しており、今後もしばらく続くとみられる。

平和、より正確に言えば、大国間戦争の不在は、現在の国際秩序を支える中心的要素の一つであり続けている。国際機関や制度が崩壊したり弱体化したり、地域戦争が勃発したりすることはあっても、大国間戦争の可能性は依然としてきわめて低い。

第3次世界大戦説の支持者たちはしばしば、大国間の全面戦争がなくとも、別の形の対立はすでに進行していると指摘する。たとえばハイブリッド戦争、サイバー攻撃、代理戦争などである。たしかにそれは事実である。だが、こうした衝突はいずれも、破壊力という点では世界大戦より何段階も下にあり、総力戦としての性格も持たない。

歴史を通じて国家は、代理勢力を使って戦ったり、情報戦や通商戦、宗教戦争を繰り広げたりしてきた。だが、そうした戦争を、象徴的な意味を別にすれば、私たちは世界大戦とは呼ばない。

体制転換をもたらす戦争は、必ずしも世界大戦ではない

2003年のイラク戦争と異なり、今回のイラン攻撃が行われているのは、米国の覇権の下ではなく、少なくとも二つの力の中心が複雑に競い合う世界である。このことが新たな含意を生み、他国にも直接・間接に対応を迫っている。たとえば武器や情報の提供、どちらか一方への支持表明などである。

しかし、それによってこの戦争が世界規模のものになるわけではない。武器供与は地域紛争の大半で見られる常態的な慣行であり、同盟国やパートナーによる外交的・財政的支援も珍しくない。たとえ米軍が、ウクライナ製ドローンに見られるように、パートナーの技術や専門知識を利用したとしても、それはウクライナがこの戦争に引き込まれていることを意味しない。ロシア・ウクライナ戦争における米国の対ウクライナ武器供与が、米国自身の参戦を意味しなかったのと同じである。

世界大戦と呼ぶには、なお一つ決定的な要素が欠けている。すなわち、大国間の直接対決である。だが、世界大戦以外にも「システム戦争」と呼びうるものがある。そこでは重要なのは規模そのものよりも、その戦争がもたらす国際秩序の変容である。

先に挙げた三十年戦争、ナポレオン戦争、第1次・第2次世界大戦はいずれもシステム戦争だった。これらの戦争の後には、国際政治のルールが書き換えられ、講和会議や国際会議を通じて新たな秩序が打ち立てられた。システム戦争は、必ずしも世界大戦である必要はない。

覇権の危機、そして覇権をめぐる争いの始まりは、常に新たな戦争、軍拡競争、緊張激化の危険を伴う。

現在の不安定化と多様なリスクの増大は、主として将来の国際秩序をめぐる争いと結びついている。米国と中国は、ほとんど「トゥキュディデスの罠」に近づいている。これは、紀元前5世紀のペロポネソス戦争を引き起こしたのと似た戦略的論理である。当時、覇権国と挑戦国との力の差が縮まったことが、スパルタを予防戦争へと踏み切らせた。

London Post
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今日では、米国覇権の衰退、中国の台頭、そして二極世界への接近が、超大国間の直接的な武力衝突の可能性を大きく高めるのではないかという、十分に根拠のある懸念が存在する。

控えめに言っても断固たる米政権の行動は、ワシントンがなお優位を保っているうちに、中国の地位を戦略的に弱めようとする予防的措置とみることもできる。こうした覇権危機の時期と覇権争いの始まりは、常に新たな戦争、軍拡競争、緊張激化の危険をはらんでいる。

私たちは、まさにそのような危機のただ中にいる。それは、世界各地の地域紛争が単に増えているというだけではなく、地球規模で影響力と権力が再配分されていることの表れであるという意味で、システム的危機である。この再配分は国際秩序の変化を伴わざるを得ない。なぜなら、ゲームのルールは力の均衡と結びついているからである。

もしある時点で、主要国の指導者たちが、戦争のリスクを取り、その代償を払うに値すると判断すれば、このシステム的危機は世界大戦へと転じるだろう。だが、スパルタ人自身の言葉を借りれば、それはあくまで「もし。」の話である。

ニコライ・カピトネンコ氏は、キーウ国立タラス・シェフチェンコ大学国際関係研究所の准教授であり、国際関係研究センター所長。

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