INPS Japan/ IPS UN Bureau Report世界の「市民空間」が縮小―民主主義の危機とZ世代の抵抗

世界の「市民空間」が縮小―民主主義の危機とZ世代の抵抗

【ニューヨークIPS=マンディープ・S・ティワナ】

2025年は、民主主義にとって惨憺たる年だった。世界人口のうち、組織し、抗議し、声を上げる権利が概ね尊重されている場所に暮らす人々は、いまやわずか7%強にすぎない。市民的自由の状況を世界的に測定する市民社会の調査パートナーシップ「CIVICUS Monitor(シビカス・モニター)」によれば、これは昨年同時期の14%超からの急落である。

市民的自由は健全な民主主義を支える基盤であり、市民社会の締め付けがもたらす結果は明らかだ。21世紀最初の四半世紀を終えようとするいま、世界は19世紀並みの経済的不平等に直面している。最富裕層である上位1%の資産は急増する一方で、世界人口の約8%に当たる6億7000万人超が慢性的な飢餓に苦しむ。ガザ、ミャンマー、スーダン、ウクライナなどで死と破壊が続くなか、政治エリートと密接に結び付いた兵器製造企業は莫大な利益を得ている。こうした紛争を煽る政治指導者たちが、自らの動機を問われるのを避けるために市民的自由を抑圧しているとしても、驚くにはあたらない。

リマからロサンゼルス、ベオグラードからダルエスサラーム、ジェニンからジャカルタに至るまで、あまりにも多くの人々が、自らに関わる意思決定に参加する力を奪われている。だが同時に、これらの場所は今年、政府に抗議する重要なデモの舞台にもなった。権威主義が台頭するなかでも、人々は自由を求めて路上に出続けている。本稿執筆時点でも、ブルガリアの首都ソフィアでは蔓延する汚職に抗議する大規模デモが続き、政府は辞任を余儀なくされた。

Civicus Monitor

歴史が示すとおり、大規模デモは社会の大きな前進をもたらし得る。20世紀には、市民運動が女性参政権の実現、植民地支配からの解放、人種差別に対処する公民権立法の採択を後押しした。21世紀に入ってからも、婚姻平等を含むLGBTQI+の権利拡大、気候危機や経済的不平等を可視化する抗議行動など、前進は続いてきた。だが2025年、抗議の権利は、まさにそれが効果を持ち得るがゆえに、権威主義的指導者から攻撃を受けている。世界各地で記録される市民的自由の侵害のうち、最も多いのは抗議参加者の拘束であり、次いで、汚職や権利侵害を告発するジャーナリストや人権擁護者の恣意的拘束が続く。

この後退は、主要な民主主義国でも起きている。今年、CIVICUS Monitorは、アルゼンチン、フランス、ドイツ、イタリア、米国を、市民の活動空間の評価で「妨げられている(obstructed)」へと格下げした。これは、当局が基本的権利の十分な享受に重大な制約を課していることを意味する。こうした後退を押し進めているのは、憲法上の抑制と均衡を弱め、少数者に経済・政治・社会生活で公正な発言権を与えない「選挙多数を盾にする政治」を進めようとする、反権利のナショナリスト/ポピュリスト勢力である。

反権利勢力による民主主義の劣化は、長年にわたり進められてきた動きが、いま表面化しつつある。今年、ドナルド・トランプの政権復帰によって、その流れは加速した。トランプ政権は、国際的な民主主義支援プログラムへの支援を直ちに停止し、その一方で、市民的自由を抑圧し、深刻な人権侵害が指摘されてきた指導者との関係を強めた。トランプは、エルサルバドルのナジブ・ブケレ、ハンガリーのヴィクトル・オルバン、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ、ロシアのウラジーミル・プーチン、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンらを相次いで厚遇し、価値や規範よりも力を優先する外交姿勢を鮮明にしている。これは、市民社会が何十年もかけて積み上げてきた成果を損ないかねない。

影響はすでに表れている。従来、市民社会活動の資金を担ってきた多くの富裕な民主主義国が、拠出を大幅に減らしている。同時に、残る支援についても、軍事・経済上の狭い戦略的利益に結び付ける傾向が強まった。これは、中国、エジプト、イラン、ニカラグア、ベネズエラといった強権国家が、国内で説明責任を求める動きを弱めようとする試みに、結果として手を貸す形にもなっている。エクアドルやジンバブエなどでは、市民社会組織が海外から資金を受け取ることを制限する法律が導入された。

Civicus Monitor 2025

こうした動きは、平等、平和、社会正義のために取り組む市民社会の努力に悪影響を及ぼしている。だが2025年には、粘り強い抵抗と一定の成果もあった。Z世代(Gen Z)の抗議者が示した勇気は、世界中の人々を鼓舞している。ネパールでは、ソーシャルメディア禁止令を契機とした抗議が政権の退陣につながり、政治の立て直しに向けた希望を示した。ケニアでは、国家暴力にもかかわらず、若者が政治改革を求めて街頭に立ち続けた。モルドバでは、逃亡中の寡頭政治家が潤沢な資金を背景に展開した偽情報キャンペーンが、国政選挙を人権の価値から遠ざけることに失敗した。米国では、「No-Kings(ノー・キングス)」抗議に加わる人の数が増え続けている。

世界人口の90%超が、制度的に十分な市民的自由を否定されて暮らしている現実を前に、反権利勢力は勢いづいているのかもしれない。しかし、民主的な抗議は、とりわけZ世代の間で醸成されつつある。政治的・経済的機会を奪われる一方で、より平等で、公正で、平和で、環境的に持続可能な別の世界が可能だと理解している世代である。事態は決して終局ではない。困難な時代であっても、人々は自由を求める。そして突破口は、すぐそこにあるのかもしれない。(原文へ

マンディープ・S・ティワナは、世界市民社会アライアンスCIVICUSの事務総長。

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