INPS Japan/ IPS UN Bureau Report2025年の市民社会の潮流:9つの世界的課題と1つの希望の光

2025年の市民社会の潮流:9つの世界的課題と1つの希望の光

【ロンドン/モンテビデオIPS=アンドリュー・ファーミン、イネス・M・ポウサデラ】


2024年は、激動の一年だった。人権のための闘いにおいても厳しい試練の年となった。社会正義を追求し、権力者に責任を問う市民社会の取り組みは、あらゆる場面で試された。それでも市民社会は闘い続け、不正義を告発し、時には大きな犠牲を払って勝利を収めてきた。しかし、2025年も決して楽観できる状況ではない。2024年に浮き彫りとなった主要な課題は、2025年さらに深刻化することが予想される。

  1. 紛争とその影響の拡大
Andrew Firmin
Andrew Firmin

より多くの人々が、紛争やその結果である人道的・人権的災害、大規模な避難、長期的なトラウマに直面する可能性が高まっている。2024年のメッセージは、主に「不処罰」の問題を示している。イスラエルやロシアを含む紛争の加害国は、国際的な圧力を退け、責任を逃れることができるという自信を深めるだろう。ガザでの停戦やロシア・ウクライナ紛争の停止が一時的に実現したとしても、大規模な残虐行為の責任者が正義を追及される可能性は低いと見られる。また、ミャンマーやスーダンなど、国際的な注目をほとんど受けていない紛争においても、不処罰が横行する可能性が高い。

さらに、戦争における人工知能(AI)や自律型致死兵器システム(LAWS)の使用についての懸念が高まっているが、この分野は規制が著しく不十分なままである。レバノンやシリアでの最近の出来事が示すように、イラン、イスラエル、ロシア、トルコ、米国などの国々の計算が変化する中で、凍結状態にあった紛争が再燃し、新たな紛争が発生する可能性がある。シリアの場合のように、これらの変化は突発的な好機を生むことがあるが、国際社会と市民社会は、その機会を迅速に活用する準備が求められる。

2. トランプ政権下での世界的影響

トランプ政権の2期目は、多くの現在の課題に対して世界的な影響を与えるだろう。イスラエルへの圧力を軽減し、気候危機への対応を妨げ、既に欠陥があり困難に直面している国際統治機関にさらなる負担をかけ、世界中の右派ポピュリストやナショナリストを勢いづかせる可能性が高いと見られる。これらの影響は、市民社会の自由(結社、表現、平和的集会の自由)に依存する市民社会の活動空間に対して、否定的な結果をもたらすだろう。また、新政権の政策優先順位の変化により、市民社会への資金提供も大幅に削減される可能性がある。

Inés M. Pousadela
Inés M. Pousadela

3.気候変動への取り組みの分岐点

2025年は、パリ協定の下で各国が温室効果ガス排出削減および気候変動への適応に向けた新たな計画を策定する必要がある年だ。このプロセスは、ブラジルで開催されるCOP30気候サミットで最高潮を迎える。このサミットは、産業革命前の水準と比較して地球の気温上昇を1.5度に抑えるための、世界最後のチャンスとなる可能性がある。しかし、それを実現するためには、各国が化石燃料企業に対抗し、狭い短期的利益を超えた視点を持つ必要がある。これに失敗した場合、議論の焦点は適応策に移る可能性がある。

気候変動への移行費用を誰が負担するのかという未解決の問題は引き続き中心的な課題となるだろう。一方で、熱波や洪水などの極端な気象現象は引き続き地域社会を壊滅させ、高い経済的コストをもたらし、移住を促し、紛争を悪化させることが予想される。

4. 経済的不安の増大

世界的に経済の機能不全が増加すると予想され、より多くの人々が基本的な生活必需品、特に住宅を手に入れるのに苦労するようになるだろう。価格の上昇は、気候変動や紛争がその一因となっている。苦しむ大多数と超富裕層の間の格差が一層目に見えるようになり、物価や税金の上昇への怒りが、特に機会を奪われた若者を街頭へと駆り立てるでだろう。それに対して国家による弾圧が頻繁に行われることが予想される。現状への不満が続く中、人々は政治的な代替案を模索し続けるだろう。この状況を右派ポピュリストやナショナリストが引き続き利用することが予想される。一方で、特に若い労働者を中心に労働権の要求が増加し、富裕税や普遍的なベーシックインカム、短時間労働制などの政策への圧力も強まるだろう。

5. 選挙と政治の動向

過去最多の有権者が投票に参加した年が終わったが、今後も多くの選挙が予定されている。選挙が自由で公正に行われる場合、特に経済的困難を背景に、現職者が拒否される傾向が続くと見られる。右派ポピュリストやナショナリストが最も利益を得る可能性が高いが、彼らが政治体制の一部として認識されるほど長くその地位を保持すれば、最終的にはその地位も脅かされるだろう。そして、その際には権威主義、弾圧、排除された集団のスケープゴート化を通じて対応すると予想される。その結果、政治的に操作された女性嫌悪、同性愛嫌悪、トランスジェンダー嫌悪、反移民の言説がさらに広がる可能性がある。

6. AIとデジタル技術の課題

現行モデルが人間が生成した素材の限界に達することで生成AIの発展が減速するとしても、国際的な規制やデータ保護の進展は引き続き遅れるだろう。活動家に対する顔認識などのAIを活用した監視技術の使用は増加し、より一般化する可能性がある。また、特に紛争や選挙を巡って偽情報の課題がさらに深刻化すると予想される。

一部のテクノロジーリーダーは右派ポピュリストや権威主義者の側につき、自身のプラットフォームや富をその政治的野心のために提供している。新興の代替ソーシャルメディアプラットフォームには一定の可能性があるが、成長するにつれて同様の問題に直面する可能性が高い。

7. 移住と難民問題の拡大

気候変動、紛争、経済的困難、LGBTQI+アイデンティティへの抑圧、さらには市民的および政治的な抑圧が、今後も避難や移住を促進する要因となり続けるだろう。移民の多くは、依然として困難で資金が不足した状態のグローバルサウス諸国に留まることが予想される。一方で、グローバルノースでは右派の台頭が、より制限的かつ抑圧的な政策、例えば移民を危険な状況にある国へ追放する政策を推進すると見られる。海や陸の国境で支援を行いながら移民の権利を守る市民社会への攻撃も一層激化する可能性がある。

8. 女性とLGBTQI+の権利に対する反動

女性とLGBTQI+の権利に対する反動も続く。米国の右派勢力は、特にコモンウェルス・アフリカ諸国において、グローバルサウスで反権利運動を資金提供し続ける。一方、欧州の保守団体も、スペインの一部の組織が長年ラテンアメリカで行ってきたように、反権利キャンペーンを輸出し続けるだろう。また、ロシアの国営メディアを含む多様な情報源からの偽情報が引き続き世論に影響を及ぼすだろう。このため、市民社会は主に既得権益の維持や後退の防止に注力せざるを得なくなるだろう。

9. 市民社会への圧力の増大

これらの傾向の結果として、市民社会組織や活動家が自由に活動する能力は、ほとんどの国で引き続き圧力を受けることになる。市民社会の活動が最も必要とされる時期に、基本的な市民的自由への制限が強化される見通しだ。これには、NGOに対する規制法や市民社会を外国勢力のエージェントとして認定する法律、抗議活動の犯罪化、活動家やジャーナリストの安全に対する脅威の増加が含まれる。市民社会は、自らの活動空間を守るためにより多くのリソースを割かざるを得なくなり、その結果、権利の促進と進展のために利用可能な資源が減少することになる。

希望の光

これら多くの課題にもかかわらず、市民社会はあらゆる分野で努力を続けていく。市民社会は、アドボカシー、抗議活動、オンラインキャンペーン、戦略的訴訟、国際外交を組み合わせながら行動を続ける。また、課題の相互連関性や国境を超えた性質についての認識が高まる中、国家の枠を超えた連帯行動を強調し、異なる文脈での多様な闘争とのつながりを構築していくだろう。

厳しい状況の中でも、市民社会は2024年にいくつかの注目すべき勝利を収めた。チェコ共和国では市民社会の努力が強姦法の画期的な改革を実現し、ポーランドでは緊急避妊薬を処方箋なしで利用可能にする法律が制定され、以前の制限的な立法を覆した。タイでは市民社会の広範なアドボカシー活動の結果、東南アジアで初めて婚姻平等法が可決され、ギリシャでは主にキリスト教正教会を信仰する国として初めて同性婚を合法化した。

市民は民主主義を守った。韓国では多くの人々が街頭に繰り出し、戒厳令に抵抗した。バングラデシュでは抗議活動が長年続いた権威主義的政府の退陣をもたらした。グアテマラでは、市民社会が組織した大規模な抗議活動により、有力エリートたちが選挙結果を尊重するよう求め、腐敗と闘うことを掲げる大統領が就任した。また、ベネズエラでは、何十万人もの人々が選挙の正当性を守るために組織し、選挙で権威主義的政府を打ち負かし、結果が認められない場合には厳しい弾圧にも屈せず街頭に立ち続けた。セネガルでは、市民社会が選挙の延期を防ぎ、野党の勝利を導いた。

気候変動と環境に関する訴訟においても、市民社会は勝利を収めた。エクアドル、インド、スイスでは、政府に対して気候変動が人権に与える影響を認識し、排出削減や汚染防止を強化するよう訴訟を通じて強制した。また、市民社会は裁判を通じて政府に対し、イスラエルへの武器輸出を停止するよう求めた。オランダでは成功した判決が下され、他の訴訟も進行中だ。

2025年、市民社会の闘争は続く。より平和で、公正で、平等で、持続可能な世界が可能であるという希望の灯火を掲げ続けるだろう。この理念は、困難な状況の中でも達成され続ける具体的な成果と同様に重要であり続ける。(原文へ

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