SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)フィジーの真実和解委員会、数十年の政治危機を経て信頼と平和の回復へ

フィジーの真実和解委員会、数十年の政治危機を経て信頼と平和の回復へ

【シドニーIPS=キャサリン・ウィルソン】 

トンガ西方の中部太平洋に位置するフィジーは、豊かな自然とビーチリゾートで名高い一方、38年間にわたり、民主的に選ばれた政権が転覆され、人権が損なわれる政治的混乱を繰り返してきた。これまでに4度の武装クーデターが発生している。

しかし、2022年の総選挙で平和的な政権交代を果たしたシティベニ・ラブカ首相と連立政権は、過去と向き合い、より平和で強靭な未来を築くため、「真実和解委員会(TRC)」の設置を進めている。

ラブカ首相(第1回目のクーデターを主導した人物)は昨年12月に成立した関連法案を支持する議会演説で、この委員会が「クーデター期の政治的激変に関する真実を、自由かつ率直に語り合う場をつくり、生存者に癒やしと決着を促す」役割を果たすと説明。現在は、国の和解と民主的規範への回帰を監督することを誓っている。

TRCの任務は、1987年、2000年、2006年に起きたクーデター、その際の人権侵害、そしてフィジーの先住民とインド系住民の間で権力闘争を絶え間なく引き起こしてきた不満を調査することにある。焦点は真実の共有と再発防止であり、加害者の訴追や被害者への賠償は行わない。

今年1月、委員長に就任したマーカス・ブランド博士(国連や欧州連合で要職を歴任し、移行期司法の分野で豊富な経験を持つ)は、「この委員会はフィジー国民が自らの歴史と向き合うためのものです…目的は責任を追及して傷を深めることではなく、より良い未来に向けて前進することです」と語った。委員には他に、元高等法院判事セコベ・ナキオレブ氏、元テレビ記者ラチナ・ナス氏、元フィジー航空機長ラジェンドラ・ダス氏、リーダーシップ専門家アナ・ラケレタブア氏の4人が加わる。

首都スバに拠点を置くNGO「太平洋平和構築センター」のフローレンス・スワミ事務局長は、IPSに対し、TRCは国民の間に信頼を築くために重要だと述べた。「第一歩として、人々が自分の体験を安心して語れる安全な場をつくることが大切です」と強調する。

The Fiji Parliament, Suva, Fiji. Credit: Josuamudreilagi

フィジーの政治的混乱は過去に根を持つ。19世紀のイギリス植民地支配期、先住民の土地権を強化し、収奪を防ぐ政策が取られた。これらの権利は1970年の独立時に制定された最初の憲法でも再確認された。

一方で、砂糖プランテーションでの労働と植民地開発促進のため、インドからの計画的移民が進められた結果、社会構造は大きく変化。20世紀半ばには、インド系人口が先住民人口を上回り、平等な権利を求める声が高まった。

Fiji’s capital city Suva. Credit: Maksym Kozlenko
Fiji’s capital city Suva. Credit: Maksym Kozlenko

こうして政治は権力闘争に巻き込まれ、1987年、当時軍将校だったラブカ氏が初のインド系政権(ティモシ・ババドラ首相)を転覆。ラブカ氏は1992年から1999年まで首相を務めた後、マヘンドラ・チョードリー首相率いるインド系政権が誕生したが、2000年に民族主義者ジョージ・スペイト氏が第2次クーデターを起こし、国会で政府要人を数週間拘束した。さらに2006年にはフランク・バイニマラマ陸軍司令官が第3次クーデターを実行し、当時のカラセ首相政権を汚職と分断政策の是正を名目に打倒。以後8年間、軍事政権を率い、2014年の総選挙まで続いた。

クーデターは大きな人的被害をもたらした。特に2006年以降、無法状態、民族間暴力、軍・警察の暴力、体制批判者の逮捕や拷問が頻発。2009年に政府が施行した非常事態令は、加害に関与した国家当局者に免責を与えた。アムネスティ・インターナショナルは翌年、恣意的逮捕や脅迫、ジャーナリストや批判者への暴行など全ての人権侵害の即時停止を求めた。

現在、人口約90万人のうち、メラネシア系が約56%、インド系は海外流出の影響で約33%となったが、社会の分断は根強く、過去の傷も癒えていない。

「多くのインド系移民は、より良い仕事や賃金を得られるという虚偽の口実でフィジーに連れて来られました…先住民はこの重大な決定についてほとんど意見を聞かれませんでした」と、南太平洋大学ジャーナリズム学科長のシャイレンドラ・シン博士はIPSに語る。

TRCは今後18か月間、公聴会を開く予定で、ラブカ首相は自らの関与について最初に証言すると約束している。「すべてを真実として誓って話すつもりです…少なくとも人々に、なぜそうしたのかを理解してもらいたい」と今年1月にメディアに語った。委員会は被害者と生存者を中心に据える方針で、「彼らの経験は説明責任を促し、癒やしを進め、より統一的で思いやりある社会を築く上で不可欠」としている。

一方で、対立や痛みの記憶を呼び覚ますことによるリスクや、分断の再燃防止の必要性を指摘する声もある。国内専門家は、TRCを超えて、長年の不満の原因である不平等や政治的疎外といった構造的課題に取り組み、「すべての人が生まれた国に帰属意識と忠誠心を持てるようにする」必要があると訴える。特に「先住民の政治的支配に対する不安」と「インド系住民が国家から平等に扱われていないという疎外感」への対応が求められる。

過去のクーデターで決定的役割を果たし、国内秩序維持を名目に行動を正当化してきたフィジー軍も、民主的統治の定着には不可欠だ。2023年には、軍が政治・選挙への介入を終わらせるための内部和解プロセスが始まり、今年4月にはTRCとの公式会合で「過去の過ちを繰り返さず、民族や背景、政治信条を問わず全市民に奉仕する憲法秩序の守護者であり続ける」と誓った。

委員会は約2年間の活動終了後、社会的結束を支えるための施策や政策改革に関する最終報告書を提出する予定だ。スワミ氏は「提言が紙の上だけで終わらず、実行されることが重要です。誰が責任を持って実施するのか、制度をどのように説明責任に服させるのかが問われます」と強調する。

将来について、スワミ氏は「誰もが安全を感じ、平等な機会があり…誰もが自分の可能性を最大限に発揮できる国」にフィジーがなることを願っていると語った。(原文へ

This article is brought to you by IPS Noram in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International in consultative status with ECOSOC.

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