【シドニーIPS=キャサリン・ウィルソン】
多くの国では当たり前とされている新生児の出生登録だが、これは子どもの健康、保護、そして生涯にわたる福祉に深く関わる極めて重要な行為である。今世紀初頭には世界的に出生登録率が上昇したものの、過去10年間で再び低下傾向に転じている。特に太平洋諸国やサブサハラ・アフリカの一部では深刻な課題に直面しており、技術革新の導入、政治的意思の強化、そして親たちの意識向上が、こうした傾向を逆転させる鍵となる。
国連児童基金(UNICEF)の報告によると、現在5歳未満の子どものうち約75%が出生登録を受けており、2000年の60%から改善している。
しかし、ニューヨークのUNICEF本部で子どもの保護を担当するバスカル・ミシュラ氏は、近年の進展が鈍化していると警鐘を鳴らす。
「特にサブサハラ・アフリカでは急速な人口増加が登録システムの能力を上回っており、インフラの脆弱さや資金不足、政治的な優先順位の低さも要因となっています。さらに、登録には高額な手数料や煩雑な手続き、アクセスの困難さといった障壁もあります。」とミシュラ氏はIPSの取材に対して語った。
こうした障害は、出生登録率が41%にとどまる東アフリカや、26%の太平洋諸国にも見られる。国別では、タンザニアが29%、パプアニューギニアが13%、ソマリアとエチオピアはわずか3%にすぎない。世界で推定6億5400万人の5歳未満の子どもたちのうち、約1億6600万人が未登録であり、2億3700万人が出生証明書を持っていない。
「システムと社会的な障害、さらに新型コロナウィルスの余波によって過去の成果が後退しました。2030年までにすべての子どもの出生登録を達成するという持続可能な開発目標(SDGs)を実現するには、現在の進捗スピードを5倍に加速させる必要があります。」とミシュラ氏は強調する。

この課題に取り組んでいる国の一つが、太平洋諸国で最も人口の多いパプアニューギニア(PNG)だ。約1100万人が暮らすこの国は、山脈が連なる本島と点在する島々から成り、多くの人々が山道や未舗装の道路を何時間もかけて移動しなければならない環境にある。
人口の80%以上が農村部に住んでおり、北東部のマダン州では、カントリー・ウィメンズ・アソシエーションが妊産婦への保健啓発に取り組んでいる。
「一部の女性は非常に遠隔地に暮らしており、医療施設に行くには何時間もかかります。そのため、出産は村で行うのが一般的です。医療施設が老朽化している上、医療従事者もいない地域もあります。これが最大の課題です」と同団体マダン支部のタビサ・ワカ氏は語る。
母親が子どもの出生を登録するには、バスを乗り継ぎながら悪路を進み、登録所まで長距離を移動しなければならず、交通費の負担も重い。
「情報不足も大きな障害です。農村の母親たちは出生登録の重要性を知らされていませんし、地域の伝統や慣習によって、出産は村でしかできないとされているところもあります。」とワカ氏は続ける。政府の統計によれば、PNGでは出生の半数以上が医療機関ではなく自宅で行われている。
それでもPNGでは近年、大きな進展が見られる。2023年から2024年にかけて、出生証明書の発行数は2万6000件から7万8000件へと3倍に増加。昨年7月にはUNICEFの支援で、手持ち型の出生登録デバイス44台が政府に提供され、地域への訪問登録が開始された。

さらに昨年12月、同国議会は国民身分登録制度を整備する法案を可決。ジェームズ・マラぺ首相は11月に「私たちの政府は全国にわたる包摂的な政策を推進しており、正確かつ信頼できる身元情報は、公共サービスの提供や国民の福祉に極めて重要です」と述べている。
UNICEFパプアニューギニア事務所の子どもの保護担当責任者ポーラ・バルガス氏は、「目標は年間50万人の出生登録です。その実現には、技術の拡充とキットの全国展開、そして証明書発行の分権化が必要です。」と指摘する。「現時点では、手作業で出生証明書に署名する権限がある職員が国内に1人しかおらず、これが大きなボトルネックになっています。」
一方、世界の未登録児の半数以上が暮らすサブサハラ・アフリカでは、エチオピアも同様の課題に直面している。
アフリカ東部の角(ホーン)に位置するエチオピアは、PNGの2倍以上の面積を持ち、出生率は人口1000人あたり32人で、世界平均の16人の2倍となっている。1億1900万人を超える人口の大半が広大な遠隔地に住んでいる。
政府は出生登録を無料としており、医療拡充員への研修も進めているが、都市部と農村部との格差は依然として大きい。登録完了のために複数回役所に行かなければならず、距離と交通費が農村の親たちにとっては大きな負担となっている。南部諸民族州(SNNP)では出生登録率がわずか3%で、首都アディスアベバの24%と比べても大きな差がある。
エチオピア・ゴンダール大学の公衆衛生学助教授タリク・ニガツ氏は、次のような改善策を提案する。「出生登録サービスを保健システムに統合し、リソースを確保して介入を支援し、リアルタイムでの出生報告が可能なインフラを整備すべきです。」
UNICEFもまた、エチオピアの不安定な地域や人道危機下にある遠隔地の医療従事者にモバイル登録キットを提供している。ミシュラ氏は「これにより、緊急時や避難中に生まれた子どもたちも法的な身元と保護から取り残されることがないようにしています」と述べた。エチオピアでは2020年から2022年の内戦後、北部ティグレ地域で人道危機が続いている。
一部の地域社会には出生登録に対する誤解や迷信も残っていると、ニガツ氏は指摘する。
「生後すぐに人間として“数える”と不運を招くという迷信が一部にあります。新生児が生き延びるか分からない段階では、人間として認めるべきではないと考えられているのです。」この背景には、エチオピアの新生児死亡率が1000件中30件と高く、そのうち半数が出生24時間以内に亡くなるという現実もある。

出生登録が一生の重要性を持つことを、社会全体で理解しなければならない。公式な存在を持たない無数の子どもたちは、貧困からの脱出、性的搾取や虐待、児童労働や人身売買のリスクから身を守ることが難しくなる。法的保護や投票権、正規雇用、財産権の取得にも障害が生じる。
しかし出生登録は、子どもたちの保護と福祉に向けた第一歩にすぎない。
「登録が効果を持つのは、それがワクチン接種、病院での出産、学校入学などのサービスと連携している場合に限ります。」とミシュラ氏は語った。
そしてより広い視点で見ると、出生および人口データの正確な把握は、政府が公共サービスや国家開発を計画する上で不可欠であり、SDGsの進捗を評価するためにも極めて重要である。(原文へ)
This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).
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