SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)小規模農家は「受益者」ではなくより良い未来を創るパートナーだ

小規模農家は「受益者」ではなくより良い未来を創るパートナーだ

【ナイロビIPS=ナウリーン・ホセイン】

エリウド・ルグットさんは何世代にもわたる農家の家系に生まれたが、家族は彼が家を出て別の職業に就くことを期待していた。彼は経済学を学び、ビジネスやマーケティングの仕事に就いたが、COVID-19パンデミックで職を失い、実家に戻ることになった。そして彼は、家族の農場の生産性を立て直したいと考えた。

粟、ソルガム、トウモロコシなどを育てていた農場は、長年で生産量が60%も減少していた。これは家族にとって深刻な打撃であり、その原因の一部は気候変動による土壌劣化や害虫被害にあった。また、両親が同じ種と農法を何年も変えずに使い続けていたことも一因だった。

「母は新しいアイデアに前向きでした」とルグットさんは語る。母の後押しで、父から1エーカーの土地を借りることができた。父は当初、収入源が減ることを理由に強く反対したが、最終的には認めた。ケニアのルグットさんの地域のように、男性が土地の所有や使用において大きな権限を持つ社会では異例のことだった。

この1エーカーの土地で、ルグットさんは温室を建て、自身の農法や技術、新しい種を導入した。ピーマン、在来野菜、果物など、家族が育てていた穀物とは異なる季節に育つ作物を栽培したところ、大きな成果を上げ、収益も大幅に増加した。父は最初その結果が信じられず、夜中に何度も温室の周りを歩いて確認したという。

また、ルグットさんは父のためにYouTubeの農業動画を見せ、他の農家の事例を共有することで父の意識も徐々に変わっていった。

ルグットさんはこうした経験を活かし、現在は小規模農家向けにスマート技術を搭載したサイロを製造・販売する「Silo Africa」の共同創業者として活躍している。これは家族の農場で害虫やコクゾウムシによる被害を防ぐための工夫が原点となっている。現在はケニア国内だけでなく、アフリカ全土への展開を目指している。

2022年、ルグットさんは潘基文世界市民センター(BKMC)の「ユース・アグリ・チャンピオンズ・プログラム」に参加し、それが人生の転機となったという。食と農業に関する気候対策やインパクトの拡大について学ぶ中で、仲間たちと土地所有の問題や農業実践について共通の課題を共有し、ベストプラクティスを分かち合った。

最も重要だったのは、BKMCが「自分たちの声を届ける場を与えてくれたこと」だとルグットさんは語る。「私たち若者には、声を上げる機会がこれまでなかったのです」と。

彼はCOP28などの国際会議にも参加し、世界の指導者や学者、政策立案者たちと同じ舞台で意見を述べることができた。初めは緊張したが、若い農業者も「自分たちの課題を伝えることができる」と知った。そして、その視点には重みがあると確信した。

小規模農家についての誤解を払拭できたことも嬉しかったという。農家は「学ぶ意欲がある」。気候変動の影響を受けながらも、既に適応の努力を重ねている。ただし、必要なのは「情報へのアクセス」であり、研究者たちにはその情報を現場に届く形で「翻訳」してほしいと訴える。

毎年、ユース・アグリ・チャンピオンズは国連気候変動会議で「要求文書(デマンドペーパー)」を提出し、気候資金の増加、能力開発、気候スマート技術へのアクセス拡大を求めている。「この文書が、そして私たちの代弁者が、私たちの声となってくれている。」とルグットさんは語った。

ただし、国連気候変動会議や国際農業研究機関(CGIAR)の科学週間などの場でも、農業の研究や支援を行う団体の関与はあるものの、当事者である農家──「受益者」と呼ばれる人々の参加はまだ少ない。発表される研究や解決策は、技術的な専門用語で語られ、一般の農家には届きにくいとルグットさんは指摘する。

「研究者、科学者、ドナーにしかわからない言葉で語られている。」と彼は言う。「だが、技術を必要とする当事者──“受益者”と呼ばれている人々──は、その場にいない。十分とは言えないが、これが私たちの出発点だ。」

「若者として、小規模農家として、私たちは『受益者』として見られがちです。しかし、私たちは単なる受益者ではなく、『より良い未来を創るパートナー(共に変革を担うパートナー)』です。私たちは非常に革新的であり、この業界のさまざまな関係者と対等な立場で協力し、農業をより良くしたいと考えています。」

農家を「解決策を待つ存在」と見なすのは危険だ。なぜなら、実際には現場の農家こそが日々革新し、貢献しているからだ。厳しい環境下で食料不安と向き合う彼らは、課題に最前線で取り組んでいる。

ルグットさんは、若い農家たちは食料安全保障をめぐる進歩と革新の担い手だと強調する。そのためには、政府、金融機関、農業関連のNGOなどのさらなる支援が必要だと語る。「大きなオフィスで働いている人たちは、毎日3食食べている。その3食を保証しているのは私たちだ。―それでも私たちは“受益者”なのだろうか? それとも変革の“担い手”なのか?」(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

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