SDGsGoal17(パートナーシップで目標を達成しよう)米国の関税政策、世界貿易機関の信頼性を揺るがす恐れ

米国の関税政策、世界貿易機関の信頼性を揺るがす恐れ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

トランプ政権による国連やその他の国際機関への敵対姿勢が高まる中、先週ニューヨーク・タイムズのコラムニストが「ちょっと過激かもしれない」として提案したのは、米国が国連から完全に脱退するという案だった。

このコラムニストは、国連本部ビル(39階建て)の「素晴らしいイーストリバーの眺め」を皮肉交じりに称賛し、それを高級マンションに転用したらどうかと提案した。

United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.
United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.

今年2月、ホワイトハウスが発表した大統領令のタイトルは「米国の国連機関からの脱退および資金拠出の終了、ならびにすべての国際機関への支援の見直し」であった。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

トランプ大統領は、これまでに国連人権理事会、世界保健機関(WHO)、気候変動枠組条約から脱退し、さらに国連教育科学文化機関(UNESCO)やパレスチナ難民支援のための国連機関(UNRWA)からの脱退も示唆してきた。また、ローマに本部を置く世界食糧計画(WFP)との契約を打ち切ると発表したが、これは後に「誤り」だとして撤回された。

トランプ氏が関税政策を一部撤回したように、国連機関からの離脱も覆す可能性はあるのか? それは非常に考えにくい。

世界中に広がる米国の関税措置は、長年にわたり築かれてきた国際貿易の基本原則を脅かし、ジュネーブに本部を置く世界貿易機関(WTO)の信用をも損ねている。WTOは国際貿易のルールを扱う唯一の国際機関とされている。

貿易専門のシンクタンク「Hinrich Foundation」の政策部門トップであるデボラ・エルムス氏は、「WTOはもう終わったようなものだ。ただ、今後重要なのは他の加盟国がどう対応するかだ」と語る。「制度を守る姿勢を示すのか? それとも重要な原則や規則を無視するのか?」

トランプ大統領は先週、90日間の猶予を設け、関税の一部を撤回したと発表した。ただし中国はその対象外で、中国からの輸入品には125%の関税が課される。

他国に対しては、10%の一律関税を導入するが、カナダとメキシコは別枠の関税措置となる。欧州連合(EU)には20%、日本には24%、ベトナムには46%の関税が課されていたが、それら一部が撤回された。

中国政府は報復措置として、米国からのすべての輸入品に対して関税を課すと表明。「これは国際貿易のルールに反し、中国の正当な権益を損なう、典型的な一方的ないじめの手法だ」と中国財政部は非難した。

CIVICUS(市民社会組織の世界的連合)の暫定共同事務局長マンディープ・S・ティワナ氏は、「我々は国際秩序の崩壊を招く、価値なき取引外交の時代に入っている」と警鐘を鳴らした。権威主義とポピュリズムの台頭によって、情報を操作し、個人崇拝によって統治する指導者が増え、国際的な規範が破壊されつつあるという。

「市民社会と独立メディアは権力の乱用を抑制する重要な役割を担っているが、前例のない攻撃にさらされている」と彼は指摘する。これは第1次・第2次世界大戦前の状況に類似しており、人類はすでにこの道をたどったことがある。

ティワナ氏は、「市民の組織化と行動こそが、憲法と国際法に刻まれた理想を守る最後の砦である」と述べた。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、関税による経済的影響について記者団に対し、「貿易戦争は極めて否定的な結果をもたらす。勝者はいない。全員が損をする」と語った。

「とりわけ、脆弱な開発途上国が最も深刻な影響を受けるだろう。世界経済が景気後退に陥れば、最も貧しい人々に壊滅的な影響が及ぶ」とも警告した。

Conscience International会長で米国平和学者のジム・ジェニングス博士は、関税を巡る「Hands Off」抗議運動の広がりが、19世紀の保護主義論争を再燃させる恐れがあると述べた。

当時、ウィッグ党(現在の共和党)は高関税を支持し、民主党は労働者階級に配慮し自由貿易を主張していた。リンカーン大統領もかつて関税支持を公言していたが、1860年にはその主張が政治的に不利だと悟って撤回している。

「今日のトランプ氏の言動は市場を混乱させ続けており、ウォール街が求める“安定性”は失われている。アマチュアが経済を操っているようなものだ」とジェニングス氏は批判した。

また、グローバル経済が第3次世界大戦の瀬戸際にある今、貿易戦争は「最も避けるべき事態だ」と強調した。

Democracy Without Bordersの事務局長アンドレアス・ブンメル氏も、米議会が大統領の貿易戦争を静観していることに懸念を表明した。

Ngozi Okonjo-Iweala, Managing Director, World Bank.

一方、米国務省は4月9日、14カ国での国連世界食糧計画(WFP)の緊急支援事業に対する予算カットの一部を「誤って行った」として撤回したと発表した。

中国はWTOに提訴し、米国の関税は「国際経済と貿易秩序の安定を脅かす典型的な一方的ないじめ行為」だと非難している。

WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、「今回の措置と、今年初めから導入されたその他の措置を合わせると、今年の世界の物品貿易量は1%程度縮小する可能性がある」と警告した。

これは当初の成長予測から約4ポイントの下方修正に相当する。「このような関税の応酬がさらなる貿易縮小を招く恐れがある」と述べ、WTO加盟国に冷静な対応を呼びかけた。

なお、現在でも世界貿易の約74%は、WTOの「最恵国待遇(MFN)」の下で行われており、これを守ることが重要だと強調した。(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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