INPS Japan/ IPS UN Bureau Report世界で進行中の紛争は核戦争の危険にさらされているのか?

世界で進行中の紛争は核戦争の危険にさらされているのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ロシア、イスラエルの右派政治家、そして北朝鮮から発せられる核の脅威は、終わることのない一定の鼓動のように続いている。これらの脅威はまた、一つの疑問を提起している。つまり「核兵器を使わずに第三次世界大戦は起こり得るのか。」という疑問だ。

ロイター通信は8月27日の報道で、ウクライナに西側諸国のミサイルでロシア深部を攻撃する許可を検討するのは、欧米諸国が火遊びをしているようなものだとロシアの高官が語ったと報じた。また、米国に対して、第三次世界大戦は欧州に限定されていないだろうと警告した。

ロシアの長年の外相であり、元国連大使でもあるセルゲイ・ラブロフ氏は、欧米諸国はウクライナでの戦争をエスカレートさせようとしており、外国から供給された兵器の使用制限を緩和するよう求めるウクライナの要請を検討していることは「自らトラブルを招いているようなものだ。」と述べた。

ワシントンに本部を置く軍備管理協会(ACA)は先週、この状況を正しく捉えて、「世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と指摘した。

ACAの主要刊行物である『Arms Control Today』誌の編集長であるキャロル・ジャコモ氏は、「米国で次期大統領が選出される数週間前、世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と述べた。

「ロシアは、ウクライナに対する戦争を核兵器使用にエスカレートさせるという脅威を依然として高めています。イランと北朝鮮は核開発計画を推し進め、中国は着々と核兵器の拡張を進め、米国とロシアは費用のかかる近代化計画を進めており、ガザ地区での戦争は、イランや核保有国イスラエルをはじめとする他の国々を巻き込み、

地域全体に広がる大惨事へと発展する恐れがあります。」とジャコモ氏は指摘した。

一方、ロシアと中国は米国との軍備管理協議への参加を拒否しており、新たな国々が核兵器保有の可能性を模索し、数十年にわたって続いてきた軍備管理条約が崩壊しつつある。

こうした状況を受け、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、8月26日付の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、世界的な核拡散防止体制は冷戦終結以来、かつてないほど大きな圧力にさらされていると警告した。

「米国の大統領選挙キャンペーンでは、いずれの候補が勝利しても、就任後ただちに米国の核兵器を発射する唯一の権限を継承することになるにもかかわらず、これらの問題のほとんどについて、真剣に公の場で議論されていません。」と、ニューヨーク・タイムズ紙の元論説委員(2007年~2020年)であるジャコモ氏は記している。

ブリティッシュ・コロンビア大学公共政策・グローバル・アフェアーズ学部教授で、軍縮・グローバル・ヒューマンセキュリティシモンズ講座の教授である、同大学MPPGA大学院プログラムディレクターのM.V.ラマナ博士はIPSの取材に対して、「核兵器がもたらす危険性と、この大量破壊兵器を保有する非常に強力な機関や政府が、かつてないほどに強大になっている」と語った。

「この16ヶ月間、ロシア前大統領メドベージェフ安全保障会議副議長とイスラエルのネタ二ヤフ首相が、それぞれウクライナとガザ地区に対して核兵器の使用をほのめかしたり、使用を呼びかけたりしている。」とラマナ氏は指摘した。

これらの国の指導者たちはすでに、何万人もの民間人を殺す意思を示している。ラマナ氏は、「さらに遡れば、ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮を「完全に破壊する」と威嚇したことも思い出される。トランプ氏のような人物や、戦争で核兵器を使用した唯一の国である米国から発せられたこの脅威を、最大限に深刻に受け止めるべき十分な理由がある。」と語った。

さらにラマナ氏は、「このような大きな危険は、偉大なビジョンによってのみ緩和できると主張した。それは、人々が自分たちの名の下で、核兵器の使用に限らないがとりわけ核兵器を使って誰もの命を奪うべきではないと要求することである。」と主張した。

そのためには、世界中の人々と共通の目的を持ち、アルバート・アインシュタインが1947年に「時代遅れの概念」と指摘していた「狭いナショナリズム」によって分断されることを拒否する必要がある。

Institute for Public Accuracyのエグゼクティブ・ディレクターであり、RootsAction.orgの全米ディレクターであるノーマン・ソロモン氏はIPSの取材に対し、「核軍拡競争の勢いはほぼ完全に間違った方向に向かっている。」と語った。世界全体および人類全体がますます悲惨な状況に陥っており、地球上のほぼすべての住民が熱核による消滅の危険に晒されていることを、核保有国の指導者たちが認めようとしないことが、事態をさらに深刻にしている。

「核超大国として、米国とロシアは核兵器の開発を推進してきました。それを正当化してきたものの、その結果は核兵器の拡散です。」

「核兵器の保有数が少ない国々や核兵器保有を望む国々は、最も強力な核保有国が何をしようとしているかを敏感に察知しています。核拡散を推進しながら核不拡散を説いても、より多くの国への核兵器の拡散を食い止めるための説得力のあるお手本にはならないです。」とソロモン氏は指摘した。

「特に、イスラエルに関する膨大な量のメディア報道や外交的言説の中で、イスラエルが中東で唯一核兵器を保有しているという事実について言及されているのを読んだり聞いたりすることはほとんどありません。イスラエルが周辺諸国を攻撃しても罰せられない現状を考えると、軍事問題に関してイスラエルが自制するだろうと信頼するのは間違いでしょう。」

ソロモン氏は、米露間の冷戦の再来が、極めて危険なレベルにまで核軍拡競争を加速させていると指摘した。今世紀に入ってから次々と米国政府によって破棄された条約により、軍備管理は過去のものとなった。オープンスカイ条約中距離核戦力全廃条約(INF)は、トランプ大統領によって破棄された。

それ以前には、ジョージ・W・ブッシュ大統領が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約を破棄している。こうした条約が存在しないことで、ロシアとの核戦争の可能性が高まっている。しかし、バイデン大統領は、前政権の共和党によって破棄されたこれらの協定を復活させようとはしていない、とソロモン氏は語った。

「正気を取り戻すには、態度と政策の抜本的な転換が必要だ。現在の方向性は、人類にとって計り知れない大惨事に向かっている。」と、著書『War Made Invisible アメリカが軍事力の犠牲を隠蔽する方法』の著者であるソロモン氏は語った。

ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長はIPSの取材に対して、「今日の世界を見渡すと、核武装したロシア、イスラエル、インド、中国、北朝鮮、そして米国などますますナショナリスト的な権威主義的政府と指導者が増えていることが分かる。彼らは皆、平和の名の下に戦争の準備に忙しいのです。」と語った。

しかし、そうである必要はない。この事態の緊急性を踏まえて、米国市長会議(USCM)は、人口3万人以上の全米1,400以上の都市が加盟する超党派の公式団体として、6月に「核の危機が差し迫る時代にこそ対話を」と題する決議を採択した。

この決議は、「ロシアによるウクライナに対する違法な侵略戦争と度重なる核の脅威を非難し、ウクライナから全軍を撤退させるようロシア政府に要求する」とともに、米国大統領と議会に対して「ウクライナでの戦争をできるだけ早く終結させるために最大限の外交努力を行う」よう求めている。

カバッソ事務局長は、この決議は「米国政府に対し、ロシアとの信頼関係を再構築し、2026年に期限切れとなる唯一の二国間核兵器管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)に代わるものを目指し、米ロ間の核リスク低減と軍備管理のためのハイレベル協議の再開への尽力を努めるよう求めている。」と語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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