SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)|カザフスタン|核兵器の危険性について若者に議論を促す展示

|カザフスタン|核兵器の危険性について若者に議論を促す展示

【アスタナINPS Japan/IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

カザフスタンの首都アスタナ(9月17日にヌルスルタンから改称)中心部の高級ショッピングセンターである「ケルエン・モール」で9月16日から月末まで続く展示会では、核兵器の危険性を若者に伝えるために革新的な方法を用いている。

「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展の開会式で挨拶するカザフ側の共催団体「国際安全保障政策センター」のアリムジャン・アクメートフ代表。撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

今回の展示は、平和・文化・教育を促進する日本の仏教系非政府組織創価学会インタナショナル(SGI)が、ノーベル賞受賞団体核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と地元のNGOカザフ国際安全保障政策センターと共に企画したものである。

展示は、広島への原爆投下から今日に至る70年以上の核の歴史を、核兵器が社会に与えた壊滅的な影響について表現した写真やイラスト、グラフなどを駆使しながら示している。

SGIは、長崎と並んで原爆が初めて使用された広島で2012年に最初の展示会を開催して以来、世界21カ国・90カ所以上の都市で開催してきた

開幕式には、各国政府関係者や赤十字、大学・研究機関ら各界の来賓が参加した。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan
「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展のポスター 資料:SGI

「カザフスタンは、ソ連時代にセミパラチンスク核実験場があり、核実験により多くの人々が甚大な被害を被った国です。今日の核兵器を巡る状況にかんがみて、カザフスタンの多くの人々が、広島・長崎の原爆投下を体験した日本人の多くと同様に、核軍縮への強い願望を持っています。」と、寺崎広嗣SGI平和運動総局長はIDNの取材に対して語った。

カザフスタン外務省のアルマン・バイスアノフ国際安全保障局副局長は開会の挨拶で、「カザフスタンはソ連時代の1949年から89年にかけて456回行われた核実験の影響を被ってきた。」と語った。これらの実験は地下及び空中で行われ、健康上の被害を受けた人は約150万人におよぶとされる。

カザフスタン政府を代表して登壇したアルマン・バイスアノフ氏は、核戦争の危険が高まっている現在、核兵器の脅威に関する意識啓発を行うこの展示会の意義を高く評価した。 撮影:浅霧勝浩/ INPS Japan

バイスアノフ副局長はまた、「核兵器なき世界は私たちの外交政策の中核をなすものです。」と述べ、カザフスタンが2019年に核兵器禁止条約を批准していることを指摘するとともに、「カザフスタンは、核兵器を禁止する運動を構築するための世界的な連合を主導しています。」と語った。

「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」と題された、カラフルで目を引く約20枚のパネルから構成された今回の展示は、特に若者たちがこの問題に対する無関心から抜け出すための教育的役割を果たすように設計されている。展示パネルは、私たちが大切に思っているものを守るのに本当に核兵器は役に立つのか、核兵器が人間や環境、医療、経済、それに私たちが望む将来に対してどのような問題を引き起こすのかといった問題に答えている。

展示会の感想を語るアスタナ在住のIT実業家マディヤール・アイイップ氏 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「カザフスタンの若者は核実験が行われたことは認識していますが実体験としての記憶はありません。この核廃絶展に参加して、核兵器をはじめとする大量破壊兵器が、国際社会において全く容認されないものだということを学びました。」と語るのは、開会式に出席したカザフスタンの若者マディヤール・アイイップ氏である。「人類は問題解決に互いに核兵器を使用して滅亡してしまうのではなく、人類共同体と協力しあうべきです。」とIDNの取材に対して語った。

ボラトベク・バルタベク氏(左)は、核実験場を閉鎖に追い込んだ活動家らが1989年に署名した歴史的な冊子「セミパラチンスクブック」を開幕式に持参した。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

開会式典の特別ゲストはボラトベク・バルタベク氏(63歳)であった。彼は核実験被害者の二世で、国際的な反核運動家として30年以上に亘って核実験の影響を受けた人々の声を代弁してきた人物である。開会式では自身と自身の家族に核実験が与えた悲劇的な影響について語った。

バルタベク氏は、彼が住んでいたカザフスタン東部のサルジャル村近くでソ連が核実験を行った際、まだ子どもだった。核実験が行われたのはのちに「ポリゴン」(多角形)と呼ばれるセミパラチンスク核実験場(大きさは日本の四国に相当する)であった。彼は、夏の間両親が一つの部屋に住み、他の部屋は核実験に来たソ連軍関係者が使っていたのを覚えている。

セミパラチンスク核実験場における核実験 資料:国立原子力センター
セミパラチンスク核実験場における核実験 資料:国立原子力センター

「私たちが子どもだった時、ヘリコプターが飛んできて、『さあ実験だ』と喜んで駆け回っていたものです。当時、核実験が危険なものだという認識はありませんでした。」とバルタベク氏は語った。

「のちに成長する中で、友人や親戚、知り合いが原因不明の病気で次々と亡くなるようになり、子供心に恐怖を感じていました。大人に聞いてみても『埋め立ての病気だ』と答えるだけ。その時の大人たちの悲しい目を見ていると、これは聞いてはいけない問題なのだと子どもながらに理解しました。」

バルタベク氏は、ソ連政府が自分たちをセミパラチンスク(現在のセメイ)市に集団で連れていき、10日間にわたって核実験を行ったことを語った。政府は実験の結果について何も教えてくれなったが、自分たちの住む地域が実験の対象になったのだと考えている。しかし、ソ連政府は核実験の影響を受けた人たちに特別な援助をすることはなかった。

「現在、核実験に起因する病気が子供や孫の世代にも出てきている。彼らは埋め立て地の爆発実験を見てこなかった世代です。」と指摘し、自身の孫娘も血液の病気にかかっており、障害者登録されていると語った。「日本からの参加者を初めとして、この核廃絶展示会に参加された方々に対して、私の孫娘が病気から回復するご支援をいただきたい。」

展示会の意義を高く評価するとともに、核実験が人間の健康にもたらす影響について、人道的な視点からも光をあてる必要性を訴えた研究者イスカンダル・アキルバエフ氏。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

外交政策のアナリストであるイスカンダル・アキルバエフ氏は、「セミパラチンスク核実験場はソ連解体に伴って閉鎖されたが、問題は終わっていない。」と指摘した。核実験が人体に及ぼした影響は「次世代にも及ぶことがあります。(汚染された)飲み水、医療施設(の不足)により治療のために他の都市にいかねばならないなどの社会経済的問題で人々は苦労しています。こうした側面にも光があてられなくてはなりません。」と、アキルバエフ氏は語った。

アキルバエフ氏は、「冷戦期の思考が再び頭をもたげ、核兵器が現実に使用される可能性が取りざたされている危険な時」にあって、この核廃絶展示は全国を巡回すべきだと思います。過去の失敗から学ぶことは極めて重要です。」と語った。

ノーベル平和賞受賞団体ICANと共に制作した反核展示会を世界各地で巡回しているSGIを代表して、この展示会開催の目的と意義について語る寺崎広嗣SGI平和運動総局長。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

「この展示はこれまで20か国以上で開催されており、今後も多くの言語に翻訳して他の地域でも開催したいと考えています。この展示は、他の核兵器廃絶を訴える展示とは趣が違う部分があると思います。それは核兵器に対して様々な観点からの視点と与えようとしている点です。」と、寺崎総局長は語った。

核兵器の恐ろしさを知るカザフ人と日本人が協力して核廃絶を訴える必要性を語る増島繁延氏。増島氏はカザフ語・日本語辞書の編纂や同国の歌手ディマッシュ・クダイベルゲン氏の来日に際して日本語通訳を務めるなどカザフスタンと日本の架け橋として長年尽力している。 撮影:浅霧勝浩/INPS Japan

カザフスタンに15年以上在住の日本語学校校長でジェトロ特派員の増島繁延氏は、日本もカザフスタンも核兵器の恐怖を体験してきたからこそ、「被爆国として私達(=カザフ人と日本人)が核兵器の恐怖を世界に伝えていかなければ、人々はわからない。だからこそ、私達が率先してやらなければならないことだと思います。」と語った。

「核兵器について、漠然としたイメージを持っている人が多いですが、しかし、自分たちの見えるところに核兵器があるわけではないので、どうしても日常性の中から、核の問題というのは隠れてしまいがちです。その意味で私たちは、自分たちの様々な人生・生き方に関わる観点から、核兵器というものが決して無関係ではなく、強い関係の上で成り立っている、そのことを視点として皆さんに提供したいという目的をもって構成されている展示です。」と寺崎総局長は語った。(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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