50年前、世界の指導者たちは、いまだかつて経験したことのないような危機に対処しようとしていた。
核兵器の脅威である。広島・長崎で恐るべき惨禍をもたらした原子の力をさらに多くの国々が手に入れようとしていた。
[米国のアイゼンハワー大統領による]「平和のための原子力」構想が生まれ、国際原子力機関(IAEA)が創設されたのはこうした状況下においてであった。
さらに、1970年、核不拡散条約(NPT)が発効した。この条約の内容は以下の3つである。まず、非核兵器国は核兵器保有を断念すること。それと引き換えに、当時の5つの核兵器保有国は完全核軍縮に向かって努力すること。最後に、核技術を保有している国家は、他の条約加盟国と核の平和利用技術を共有することである。
途上国は、非核兵器地帯創設に努力することでこのNPT体制を強化している。これまでに、ラテンアメリカ・カリブ海地帯、南太平洋、東南アジア、アフリカの4ヶ所に非核兵器地帯ができている。
他方、1990年初頭にイラクの秘密核兵器計画が露見して以来、IAEAは保障措置を強化するための創造的手法の開発に努力してきた。これらの手法は、多くの意味において成功を証明してきている。イラクやイラン、リビアにおける最近のIAEA活動の経験は、きわめて難しい状況下においても、IAEAの検証措置が有効であることを示してくれた。もっとも、我々に適切な権限が与えられていること、あらゆる入手可能な情報を利用できること、信頼できる遵守メカニズムに裏付けられていること、国際的なコンセンサスの支援があることなどの条件が必要ではあるが。
21世紀は、核兵器をなくすという使命に対して新たな難題を投げかけている。我々は、子供たちにどんな遺産を残そうとしているのだろうか。
翻訳/サンプルサマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩
*モハメド・エルバラダイ氏は、国際原子力機関(IAEA)事務局長で2005年ノーベル平和賞受賞者。IPSコラム=モハメド・エルバラダイ