地域アジア・太平洋|タイ|HIV/AIDS蔓延防止に向けた仏教界の試み

|タイ|HIV/AIDS蔓延防止に向けた仏教界の試み

【IPS HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

本プロジェクトは、深刻化するHIV/AIDS問題に関して、仏教界として地域コミュニティーに貢献することを目指して僧侶達自身によって始められたもので、僧侶がHIV/AIDS感染者と一般コミュニティーの仲立ちをしながら、仏教の教えに基づいて共生していける環境作りを目指している。 

タイ社会では伝統的に僧侶は「仏の智恵を説く教師」として敬われており、村人たちも僧侶の発言には謹んで耳を傾ける習慣がある。本プロジェクトは、僧侶の「教師」としての役割を重視しており、僧侶や尼僧は、僧院でHIV/AIDSに関する知識と、その知識を仏教の教えに基づいて効果的に村人達に伝達する技術(participatory Life Skills Development approach)を身につけた後、地域コミュニティーの中に入り込んで活動を展開している。

 僧侶達は、HIV/AIDSに対する感染者と一般民衆双方の無知と無関心がHIV/AIDS感染拡大の根底にあるとの理解から、村人に対するHIV/AIDSに関する正しい知識の普及、特に感染予防及び感染拡大抑制の方法を伝えることを重視している。一方、HIV/AIDS感染者に対しては自ら患者の托鉢を受付けて食すと共に患者のもとを訪問して精神的なカウンセリングを行ったり、エイズ孤児を引き受けるなど、率先した行動を通して、コミュニティーに対して患者を受け入れ支援するよう説いている。 

HIV/AIDS感染者と一般民衆の共生は十分可能: 

「私たちは、村人の有志と共にHIV/AIDS感染者のためのサポートグループを組織している。村人は伝統的に僧侶に心を許して自身の抱える諸問題を相談するので、僧侶達は、HIV/AIDS感染者を特定次第、サポートグループや政府の支援プログラムと繋げている。感染者で働けるものは、僧侶とサポートグループが仲立ちとなって様々なコミュニティー活動に参加させる一方、支援が必要な家庭に対しては僧侶が托鉢や寺への寄付を感染者家庭に分け与え、共に生きていく希望を持つようカウンセリングを行っている。 

また、地域の病院と提携して、HIV/AIDS患者のための伝統薬草の栽培、配布も行っている。一方、主に若い僧侶は地域の大学や集会所に若者を集めて、HIV/AIDS感染に関する正しい知識とそれに基づく性行動の是正を呼びかけている。 

また、人身売買の犠牲者やエイズ孤児を積極的に僧院に受け入れている(人身売買の犠牲者の大半は女性で、Sangha Metta Projectでは彼女達を尼僧院において受け入れ、トラウマのケアや自立に向けた支援を行っている。また、少女達の出稼ぎを防止する目的で、収入創出事業も手掛けている)。 

このように、地域コミュニティーの崩壊に繋がるHIV/AIDSの深刻な脅威に直面して地域の僧院とコミュニティーが一体となって活動できたことは、双方の信頼感とコミュニティーの結束に対する自信へとつながり、この草の根レベルにおける自助努力・相互扶助の輪は、国境を越えてビルマのシャン州へも広がった。現在では、タイに在住するシャン族の青少年並びにシャン州から招いたビルマ人の僧侶を対象に、HIV/AIDS講習をはじめ、本プロジェクトのスキームとノウハウを伝えている」。(Laurie Maund, manager of the Sangha Metta Project) 

青少年の行動変容を引き起こすには重要情報の反復と木目細かなフォローが不可欠 

「ここタイ北部では、HIV/AIDSの感染経路や予防方法に関する青少年の理解度はかなり高いと思う。しかし、同時に多くの誤った風説に惑わされているのも事実である。例えば、蚊がHIV/AIDSウィルスを媒介するといった風評を信じている青少年は少なくない。様々なNGOがHIV/AIDS啓蒙活動と称して各地でワークショップを展開するが、一過性のものが大半で、地域の青少年の性に関する疑問に必ずしも十分に答えないまま、去っていくものが少なくない。 

特に、HIV/AIDS感染の将来を左右する青少年の行動変容を実現しようとするならば、啓蒙活動は地元に根付いた形で重要情報を繰り返し反復し、地道に木目細やかなフォローアップをしていくことが重要である。残念なのは、タイにおけるエイズ対策が『成功した』と評価されるが故に、国際社会からのエイズ教育への資金が先細りになってきていることである。 

HIV/AIDS問題はコミュニティーの問題であり、現地のリソースが最大限に動員され、地元住民がこの問題に自主的に取り組める技術・ノウハウが伝達されてはじめて長期的な効果を期待することが可能となる。しかしながら、政府や多くのNGOによる啓発事業をみると、地元住民の意識向上や技術移転に繋がるような活動をしているとはいえないものが少なくない。予算を機械的に執行することに終始するのではなく、それをどのようにインパクトあるものに改善していくか、もっと工夫をする必要がある。」(Laurie Maund, manager of the Sangha Metta Project) 

IPS HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋 
(現地取材班:IPS Japan浅霧勝浩、マルワーン・マカン・マルカール) 

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