ニュース21世紀の核凍結は現実となるか?

21世紀の核凍結は現実となるか?

【国連IDN=タリフ・ディーン】

米国のエドワード・マーキー上院議員(民主、マサチューセッツ州選出)は5月4日、核兵器の実験・生産・配備に関する「21世紀の核凍結」ともいうべき法案を再提出する方針を発表した。

元米陸軍予備役で「核不拡散軍縮議員連盟」(PNND)の共同代表でもあるマーキー氏は米上院に「軍備制限協議加速法案」(HALT)を提出する予定だ。[訳注:「HALT」は「停止させる」の意]

同法案は、米国の政策は次のような要素を含むべきだとしている。

1.全ての核兵器及びその運搬手段の実験・生産・配備を検証可能な形で停止する合意。

2.新戦略兵器削減条約(新START)による現地査察・検証措置の再開。

3.非戦略核兵器、あるいは、新STARTが扱っていない戦略兵器に関する、ロシア連邦との二国間条約か協定の締結。

4.ジュネーブ軍縮会議か別の国際的な場での、検証可能な核分裂性物質生産禁止条約の交渉。

5.兵器級核分裂性物質の削減に向けた、米国の主催するサミットの開催。

6.包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効に向けて、米国が同条約を批准すること、および、その発効要件となっている付属書2規定の国々による批准の促進。

7.将来の多国間軍備管理・軍縮・リスク削減に関する協定を交渉・締結するための、すべての核保有国との協議。

8.米国による核兵器爆発実験実施または準備のための予算支出の禁止。

PNNDによると、HALT法案が出された今年は、核兵器の「凍結」を求めて100万人がニューヨークのセントラルパークに集った米国史上最大の平和デモから41年目にあたるという。

1982年6月12日、当時下院議員だったマーキー氏は演説を行い、ロナルド・レーガン大統領による新たな核兵器システムに対する不必要な支出の停止を要求し、大統領がソ連との核軍縮交渉を開始するよう呼びかけた。

識者らは、この核凍結運動は、米国とソ連(のちのロシア)間の二国間軍備管理条約交渉に必要な政治的意志を生み出すことに寄与した、としている。

4月14日、「核兵器・軍備管理作業グループ」の共同代表でもあるマーキー上院議員は、テッド・リュー下院議員とともに、「核兵器の先行使用を制限する法案」も再提出した。議会からの事前承認なしに核攻撃をする権限を大統領から奪うことを目的としている。

また、この法案は、紛争時に大統領が核兵器を導入することを防ぐためのセーフガードを制定し、議会が戦争を宣言する唯一の憲法上の権限を再確認するものである。「核兵器の先制使用を制限する法案」の再提出は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対し無謀な核の恫喝を行ってから1年というタイミングで出された。

西部諸州法律家財団(WSLF、カリフォルニア)のジャッキー・カバッソ代表は、核不拡散条約(NPT)発効から53年、今回のHALT法案は、高まる核の危機に対処するための政策提言メニューを示している、と語った。

Jackie Cabasso
Jackie Cabasso

この法案は、もし成立すれば、NPTの前文と第6条に体現された軍縮義務の履行開始を意味する。この義務は、1995年のNPT無期限延長決定や、2000年と2010年のNPT再検討会議の合意、それに、NPT第6条の権威的な解釈を示した1996年の国際司法裁判所の勧告的意見で繰り返し示されてきたものだった。

勧告は全会一致で「厳格かつ効果的な国際管理の下であらゆる側面における核軍縮につながる交渉を誠実に追求し妥結に導く義務が存在する」ことを認めた。

「しかし、残念ながら、米国政府やその他の核保有国の政府は、核軍縮はおろか軍備管理ですら実行する政治的意思がないようだ。」とカバッソ代表は指摘した。

動かしがたい真実は、HALT法案や、ジム・マクガバン下院議員が提出した「核兵器禁止条約の目標と条項を受け入れる決議」(そのいずれの背景にも精力的な草の根運動がある)のいずれも、近い将来には実現の見通しがないということだ。

米国の核兵器政策を分析する非営利の公益団体であるWSFLのカバッソ代表は、「どの核保有国も、婉曲的に『抑止』という言葉で表現されている核兵器による強制力ではなく、『共通の安全保障』に立脚したグローバルな仕組みを改めて構想する気がないことは明らかである。」と語った。

ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)公共政策・グローバル問題大学校「グローバル・人間安全保障大学院プログラム」の責任者を務めるM・V・ラマナ教授は、「HALT法案を提出したマーキー議員には感謝しなくてはならない。」と、IDNの取材に対して語った。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

「主要な核保有国間で軍拡競争が起こっており、米国あるいはロシア(あるいはその両者)は、従来自国の核兵器を制限していた多くの軍備管理条約から離脱しています。それに加えて、現在、軍事的緊張が高まっています。激しさを増す軍拡競争を抑えるためにある程度の合理性を導入する努力が求められています。」

「とはいえ、戦時における破壊の規模を減するためだけではなく、そもそもの戦争のリスクを減じるためにも、マーキー議員のような方々が一定の軍備管理を求める法案を出してくれるといいと思う」。

他方で、1970年に発効したNPTには、条約発効当初の核保有国である米国・英国・旧ソ連/ロシア・フランス・中国が、軍縮という目標を果たす法的拘束力のある義務が盛り込まれている。

第6条では、核兵器国を含むすべての締約国が、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うことを約束する。」とされている。

しかし、今日、どの核保有国も安全保障政策における核兵器の役割を拡大し、核戦力を削減しようとはしていない。

ロシアによる違法なウクライナ戦争、核兵器使用の威嚇、台湾、朝鮮半島、南アジア、中東などの潜在的な核紛争地など、核戦争の危険性は1962年のキューバ危機以来、最も高いレベルに達している。

Photo credit: Republic of Korea Air Force
Photo credit: Republic of Korea Air Force

核演習や頻度を増すミサイル実験、核保有国の軍隊間の対立の増加などに見られるように、核保有国とその同盟国による核戦力運用部隊の訓練を含むウォーゲームの規模とテンポは増しており、そのことが核戦争の危機を増大させている。

ある核軍縮の専門家は匿名を条件にこう語った。「表面だけ糊塗しようとして軍縮措置のリストがいろいろと挙げられていますが実際にはなんの行動も生まず、何の戦略もなく、誰もそれを真剣には受け取りません。残念ながら、それが現実です。」

プラウシェア財団代表のエマ・ベルチャー博士は、「ウクライナでは核のリスクが高まり、ロシアと中国による新たな軍拡競争は危険度を増しています。こうした中、米国が核戦力を強化するのではなく世界的に縮減していくことがこれまで以上に重要になっています。」「マーキー上院議員は、新STARTのような軍備管理外交がこうした危機に対処する唯一の確かな道であることを思い起こさせてくれました。軍備管理競争に勝つ唯一の道は、逃げないことです。この重要な時期にあってリーダーシップを発揮してくれるマーキー議員には感謝したい。」と語った。

「核先行不使用を求める会」グローバル運営委員会のジョン・ハラム氏は、「HALT法案は二国間核軍備管理が消えてしまわないようにするための重要な動きです。つまり、この法案は、核兵器の実験、製造、さらなる配備の凍結を米国政府に求めることで、米国が自ら模範を示し、ロシアと関与する可能性を提供するものです。そして、先制不使用の呼びかけは、危機の拡大、計算違い、事故による核戦争の発生を防ぐのに役立ちます。」と語った。

UN Photo
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アボリション2000」核リスク低減作業部会の共同呼びかけ人でもあるハラム氏は、「この立法の意図が米ロ二国間で現実化すれば、軍備管理の大義が戻ってきます。現在はその精神がまさに消えようとしているわけですから」と語った。

PNNDのグローバル・コーディネーターであるアラン・ウェア氏は、核軍拡競争を止め、核兵器の先制使用の脅しなどの挑発的な政策を止め、軍備管理・軍縮協議を再開しない限り、米国と、ロシア・中国・北朝鮮などの他の核保有国との間での紛争は核戦争へと波及していく可能性があります。HALT法案は、すべての人にとっての安全を向上させる健全かつ実行可能な提案を行っています。」と語った。(原文へ

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