【伊勢/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ、浅霧勝浩】
土井孝子氏は、地元三重県伊勢市を拠点に、持ち前の誠実さと行動力で、国際協力・親善を育む各種教育・交流プログラムを熱心に手掛けてきた人物である。土井氏は日本の伝統文化に深く根ざしながらも、広く国際社会を見据えている。
土井氏が理事長をつとめるNPO法人咢堂香風(2006年設立)は、2010年からは伊勢市からの委託を受け「尾崎咢堂記念館」を運営管理している。伊勢市は、天照大御神を祀る内宮・外宮をはじめ125の宮社からなる伊勢神宮を擁することから「神都」の異名をもつ門前町である。
5月、記者らは土井理事長の案内で伊勢神宮を参拝する機会を得た。伊勢神宮の広大で静寂な森の中に佇む宮社群は、釘を一本も使わず檜の部材を巧みに組み合わせる伝統技術が用いられた唯一神明造という建築様式である。さらに、内宮、外宮及び五十鈴川に掛かる宇治橋は、自然界の死と再生、万物の無常性を信ずる神道の考え方に則り、また伝統技術を世代を超えて継承する手段として、20年毎に新たに建て替えられている(式年遷宮)。
土井理事長とNPO咢堂香風は、伊勢神宮が体現している価値観に寄与する一方で、世界平和の実現と人権の確立に生涯をかけて取り組んだ故尾崎行雄(雅号〈ペンネーム〉は咢堂)の精神を後世に伝えていく活動に取り組んでいる。尾崎行雄は第1回衆議院議員総選挙で現在の伊勢市より出馬・当選して以来、63年間(1890年~1953年)に亘って衆議院議員として日本の立憲政治の確立と世界平和の実現に尽力したことから、「憲政の神様」「日本の立憲民主主義の父」として今なお尊敬を集めている。
1994年、尾崎咢堂の志と生き方を学ぼうと、「咢風会」・同女性部会「香風」(=NPO咢堂香風の前身)が創立され、講演会の開催や勉強会、討論会を通じた啓発活動、国際親善交流などの草の根の活動が始まった。
「咢堂香風の『咢堂』は尾崎行雄先生の雅号に由来しますが、『香風』の『香』は、会の活動に絶えず助言を授けていただいた尾崎先生の三女・故相馬雪香先生から一文字いただいたものです。」と土井理事長は説明した。
咢堂香風では、毎年12月の尾崎咢堂の誕生日に近い休日に「尾崎行雄生誕祭」と銘打って記念式典とともに、研究者や識者による講演会を開催している。
「また、市議会議員など各方面の専門家を招いて、未来を背負う子供たちと将来を語り合う行事も実施しています。尾崎行雄生誕祭は、憲政の神様・尾崎行雄の功績を振り返りその高邁な精神を学ぶ、『咢堂香風』の根幹をなす行事です。」と土井理事長は語った。
「咢風会」「香風」は1994年、地元や日本の未来を担う子供たちに尾崎行雄の心を伝えようと、伊勢市近郊の小・中学生を対象に尾崎咢堂読書感想文コンクールを開始した。
「コンクールは今年度で22回目を迎えます。初年度には応募作品はわずか13点でした。咢堂香風の会員による広報活動と学校の理解を得て、年々応募者数も増え、これまでに合計約6500点を超えるまでになり定着してまいりました。」
受賞者には咢堂生誕祭において表彰式が行われ、市長賞、議長賞、教育委員会賞、他の各賞が授与される伊勢市でも大きな年中行事になっている。
伊勢市は桜の名所が多い地としても知られている。とりわけ宮川堤の桜は、日本の桜100選に選ばれている。尾崎咢堂記念館はこの名所にかかる橋を渡ったところにある。記念館の庭園には、尾崎行雄が100年前にアメリカのワシントンDCに寄贈した桜をルーツとする苗木(=里帰りの桜)が植えられている。
「伊勢の風物詩といえる桜の季節を子どもたちに存分に味わわせてやりたい。また、桜の写生をとおして自然の美しさや偉大さを感じるとともに、尾崎行雄をはじめ桜に関わった人々に思いをはせ郷土を愛する気持ちを育てたい…そんな思いをねらいに、『桜の写生コンクール』を、小学生を対象に実施しています。今年度で6年目ですが、伊勢市内の全小学生の1割ほどの応募をいただき、年を追うごとに大きな反響を得ています。」と土井理事長は語った。
咢堂香風は、21年前に「全米さくらの女王」と親善訪問団が初めて伊勢の尾崎咢堂記念館に来館したのをきっかけに、伊勢市近郊の女性から応募者を募り「花みずきの女王」を選出した。「花みずきの女王」は、米国とのいっそうの交流を深めるために、尾崎咢堂が東京市長時代に寄贈した桜の返礼にアメリカ合衆国大統領によって日本に贈られた花みずきにちなんで設けられた親善使節である。
1998年以来、これまでに7代の女王が選出され、ワシントンDCを訪れ、市民団体との交流、行政機関への訪問、全米さくら祭りパレードなどに参加している。桜寄贈100年をむかえる節目となった2012年4月の全米さくら祭には、土井理事長を団長に、女王のほか準女王2名、友好大使3名、親善大使1名を選出して訪米し、大きな反響を得た。
「全米さくらの女王」を決めるグランドボール(大舞踏会)では「花みずきの女王」は全米各州代表の「さくらのプリンセス」たちと共に会場でお披露目されている。このパーティーで選出される「全米さくらの女王」は毎年日本を訪問している。さらに1995年からは、咢堂香風が受入団体となり、毎年伊勢にも訪問している。伊勢神宮への正式参拝や三重県知事・伊勢市長への表敬訪問、御木本真珠島、尾崎咢堂記念館訪問などを行い、私たちも歓迎行事を催して国際交流の進展が続いている。
米国の首都ワシントンDCで4月に開催される全米さくら祭りパレードでは、「花みずきの女王」と準女王たちは花車やオープンカーに乗り、「From Ise Japan」というアナウンスとともに沿道の人々から拍手喝采を受けている。
土井理事長は、2003年のイラク戦争の最中に、テロの危険を超えて、伊勢からの使節団の団長として2万4千の千羽鶴を携えて全米桜祭りに参加した際のことを想起して、「渡米することとした当時の判断を誇りに思っています。これを契機に咢堂香風の活動がアメリカ側で知られるようになり、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領をはじめ多くの方々から感謝状を授与されました。」と語った。
土井理事長はまた、「尾崎咢堂が『人生の本舞台は常に将来にあり』という言葉を詠まれたのは74歳のときでした。」と指摘したうえで、「私たち咢堂香風もこの言葉を胸に、尾崎行雄の業績や精神を地域はもとより日本や世界へ、また時代を超え将来にむけて発信していきたい。」と語った。
大島理森衆議院議長兼尾崎行雄記念財団会長は、咢堂精神の普及に長年尽力してきた土井理事長の功績を讃え、10月28日に憲政記念館で開催された同財団創立60周年記念式典において特別感謝状を授与した。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
https://www.youtube.com/watch?v=nDKJ-YIz-9A
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