地域アフリカ|マラウィ|政権交代が新たな転機となるか

|マラウィ|政権交代が新たな転機となるか

【リロングェIPS=クレア・ングロ】

マラウィが抱える諸問題が、ビング・ワ・ムタリカ前大統領の死と共に解決されると考えるのはあまりにも短絡的過ぎるだろう。しかし新たに大統領に昇格したジョイス・バンダ前副大統領(野党人民党党首)にとっては、より国民の期待に応える新たなリーダーシップを発揮する機会となるだろう。

2004年に大統領に就任したムタリカ前大統領は2期目を務めていたが、4月5日に首都リロングェの大統領官邸で心臓発作を起こした。報道によると、大統領は市内のカムズ中央病院に緊急搬送されたが、間もなくして南アフリカに空路搬送されたという。4月6日には、大統領が死亡しているとの未確認情報が流れたが、7日になってマラウィ国営放送が正式に大統領の死亡を伝え、10日国を挙げて喪に服することを宣言した。

 大統領府及び内閣が公式に大統領の死亡を認めると、マラウィ国民は市場や街頭に繰り出し国中が歓喜に満ち溢れた。数時間後、憲法の規定に従ってバンダ副大統領が大統領に昇格した。バンダ氏は南部アフリカ初の女性元首として、前大統領の残りの任期である2014年の総選挙まで大統領職を務める予定である。

バンダ氏は、これまでのキャリアの大半を女性の権利と経済的エンパワーメントの向上のために尽力してきた。警察官を父に持つ家庭に育ったバンダ氏は、2011年12月に応じたIPSインタビューの中で、経済的な意志決定の分野において女性が阻害されている点を指摘し、問題を解決するには、「母親達の役割と裁量権を認めるような国家予算の配分をすべきだ。」と語っている。

リオングェのマワウィ女性実業家協会のネリア・カグワ会長は、IPSの取材に対して、「バンダ大統領には危機に直面しているマラウィの経済再建に期待しています。とりわけマラウィの零細ビジネスは、燃料高騰と外貨危機で崩壊の瀬戸際にあります。一刻も早い対処が必要であり、バンダ大統領がこの問題に優先的に取り組んでくれることを望んでいます。」と語った。

マラウィは、国民の74%が一日1.25ドル以下で暮らし、10人に1人の子どもが5歳未満で死亡している世界でも有数の最貧国である。これに近年の物価高が経済苦境に追い打ちをかけており、砂糖やパンといった必需品さて品不足の状態が続いている。さらに状況を複雑にしているのは、ムタリカ前政権が昨年6月に導入したパン。肉、ミルク、乳製品を対象とした16.5%にも及ぶ高率の付加価値税の存在である。

「(主食の)メイズ価格は昨年2倍に高騰し、多くの家庭が基本的な食糧を十分に確保できない状況に陥りました。新大統領はかつて彼女自身のコミュニティーで飢餓根絶に成功したことで有名な賞を授与されたことがあります。機会さえ与えられれば、多くのマラウィ国民を飢餓から救うことができるでしょう。」とカグワ会長は語った。

バンダ氏は1997年にモザンビークジョアキン・アルベルト・シサノ前大統領とともに「持続可能な飢餓撲滅のためのアフリカ賞」を受賞した。

リロンウェで屋台を営むジェームズ・カリウォ氏は、「ムタリカ前大統領の死でマラウィにもようやく明るい未来が見えてきました。ムタリカの経済政策の失敗で、国民すべてが問題を抱え込み、経済も社会も悪化の一途を辿っていました。私たちの祈りがついに神の届いたのだと思います。」と語った。

著名な政治アナリストのボニフェス・ドゥラーニ氏はIPSの取材に対して「マラウィが直面している諸問題がムタリカ大統領の死で解消されると考えるのは短絡過ぎますが、少なくともこの国が再建に向けて新たなスタートをきれるという点は間違いありません。バンダ新大統領には2014年の総選挙までの任期を最大限に活用してもらいたいと思います。」と語った。

またドゥラーニ氏は、「バンダ氏はこれまでは(ムタリカ前大統領による政治的圧迫に伴う)有権者の同情票を頼りにせざるをない状況がありましたが、今後は大統領としてマラウィを新たに進歩的な方向に導けることを証明することによって有権者の信任票を獲得することができるでしょう。バンダ氏は、この機会を生かして、政権の中枢にいるエリートに対する不信感を募らせてきているマラウィ国民の信頼を獲得できる位置にいるのです。」と語った。

ただし議会の圧倒的多数を占めている政権与党がバンダ新大統領の改革の試みを妨害するか否かは、「今の時点では何ともいえない。」と語った。

しかし、苦境に陥っているマラウィの経済状況は今後改善するだろうとの見方をするものは多い。ドゥラーニ氏はこの点について、「近視眼的な外為政策の失敗や失政に起因する諸外国からの援助金の凍結などマラウィが従来直面してきた問題の多くは、新政権の誕生により、今後急速に好転していくだろう。」と語り、新内閣の陣容が整えば、マラウィに対する諸外国からの経済支援も再開されるとの見解を示した。

マラウィとドナー諸国との関係は、同性愛者の人権と報道の自由を巡って対立したことから、急速に悪化し、ドナー諸国は最終的に最大4億ドルの開発援助金の支払いを停止した。また米国も3億5000万ドルの無償資金協力の提供を停止した。

さらに経済失政に燃料と外貨不足が加わり、昨年7月20日~21日にはマラウィ全土で空前規模の反ムタリカ抗議運動が起こった。これに対してムタリカ大統領は弾圧で臨み、21人が死亡、275人が逮捕された。その際、バンダ副大統領(当時)は、率先して抗議運動を支持した。

当時反ムタリカ抗議運動を率いた市民社会組織の著名なリーダーであるドロシー・ンゴマ氏は、バンダ新大統領は、マラウィを今日の経済危機から救ってくれると確信している、と語った。

「バンダ新大統領は能力がありますし信頼できます。まもなくこの国の変化を目の当たりにするでしょう。」とンゴマ氏は語った。

野党人民党党首でもあるバンダ氏は、大統領就任式の数時間前、リロングェ市内の自宅前に集まった支持者と報道関係者を前に演説を行った。会場には市民社会組織のリーダーや政府関係者も駆けつけ、他の支持者と共に政権交代の喜びとバンダ氏への支持を口々に表明した。

バンダ氏は、「マラウィは共和国憲法を堅持しながら前に進んでいかなければなりません。」と語った。また大統領就任式では、「(政敵への)復讐などおこなっている時ではありません。マラウィは一つの国として前に進まなければならないのです。」と付加えた。

バンダ氏の就任式には現役閣僚のほぼ全員が出席したが、前大統領の弟であるピーター・ムタリカ氏の姿はなかった。

ムタリカ前大統領の死に関する発表が2日間遅れたことから、バンダ氏と政権与党との間に権力闘争が繰り広げられているのではないかとの憶測が飛んだ。キャサリン・ゴタニ-ハラ運輸副大臣はIPSの取材に対して、「ムタリカ前大統領の同盟者は同氏の弟ピーターを後継者にしたかったのです。」と語った。

まさにこれこそムタリカ前大統領とバンダ氏が過去に意見の相違から衝突した問題であった。ムタリカ前大統領は、2014年の大統領選挙に弟のピーター・ムタリカ氏を与党民主進歩党候補に擁立しようとしたが、当時同盟関係にあったバンダ氏が同意しなかったことから、反抗的な態度をとったとしてバンダ氏を与党から追放し、政権からも排除した。これに対してバンダ氏は2011年9月に野党人民党を立ち上げる一方で、(選挙を経て選ばれた)副大統領の職は保持し続けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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