ニュースノーベル平和賞受賞団体、軍事費を医療に回すことを提言

ノーベル平和賞受賞団体、軍事費を医療に回すことを提言

【ベルリンIDN=ジュッタ・ウォルフ】

1910年にノーベル平和賞を受賞した世界最古の平和団体ある「国際平和ビューロー」(IPB)が、医療や社会ニーズに対応するために軍事費を「大幅に削減」するよう訴えている。3月27日に署名運動が開始された請願書は、今年9月15日の国連総会初日に総会に提出される予定だ。

IPBは、請願書とベルリン本部から出された声明のなかで、「国際社会は毎年1.8兆ドルを軍事費に支出しているほか、今後20年間で新型核兵器に1兆ドルを費やす予定だ。」と述べている。

世界で行われている軍事演習だけでも毎年10億ドル以上が使われており、世界の主要経済大国では、武器の生産、輸出ともに増加傾向にある。これらの国々だけで世界の軍事支出の82%、武器輸出のほぼ全て、核兵器保有の98%を占めている。

Image source: SIPRI

これらの国々とは「G20」のことで、IPBは、「世界の軍拡競争における主要プレイヤーの利益を糾合する共通基盤」と呼んでいる。G20はまた、軍事研究にも数十億ドルにのぼる多額の費用を使っているが、IPBは、これらを医療や人間のニーズ、気候変動と闘うための研究に投じることが望ましいとしている。

世界の軍事支出は、冷戦終結時と比較して5割も増加しているうえに、北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に対して、さらなる拠出金の増額を求めている。こうしたなかで、「G20はこうした事実を隠蔽することなどできない。」とIPBは指摘している。

G20首脳(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ共和国、トルコ、英国、米国、欧州連合)は、議長国サウジアラビア主催でオンラインの首脳会合を3月26日に開き、世界的に流行している新型コロナウィルス対策について協議した。

IPBは、G20声明が「このパンデミックに取り組むには、グローバルな行動や連帯、国際協力がこれまでになく必要であり、国際社会がいかに相互に結びつきかつ脆弱であるかを改めて痛感させるできごとであったこと」を明記しながら、にもかかわらず、こうした考え方を世界平和の実現のためには適用できなかった点に注目している。

「国際社会にとって、軍備増強は誤った道である。なぜなら軍拡は緊張を煽り、戦争や紛争を引き起こす可能性を高めるほか、既に強まっている核兵器を巡る緊張をさらに悪化させるからだ。にもかかわらず、核兵器の拡張と核軍縮を管理するための政策的枠組みは、無視されるか、さらに弱体化させられている。」と声明は述べている。

IPBはこの文脈で、「原子科学者会報」が今年2月に発表した「世界終末時計」について言及している。世界終末時計は、この70年の歴史で「真夜中(=地球と人類の滅亡)」に最も近い、「真夜中まで100秒」に設定された。新型コロナウィルスの拡大で時計の針はさらに真夜中に近づけられることになろう。

Bulletin of the Atomic Scientists

IPBは世界の指導者に対して、軍縮と平和を政策決定の中心に据え、核兵器禁止条約が目指している核兵器の禁止を含めた、軍縮に向けた新たなアジェンダを策定するよう呼びかけている。

「そうしなければ、将来における感染症の世界的大流行(パンデミック)と闘い、貧困や飢餓を根絶し、教育や医療を全ての人々に提供し、持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための闘いにおいて、自らの手を縛ってしまうことになる。」とIPBは訴えている。

経済を大きく改革し、利益ではなく人間に最大の価値が置かれ、とりわけ気候変動の危機という生態学上の難題への対処がなされグローバルな社会正義が追求されるような経済を実現する上で、軍縮はカギを握っている。

「軍縮や、世界的な社会契約ともいえるSDGsの履行、新しいグローバルなグリーン・ピース・ディールによって、新型コロナウィルスの感染拡大という難題に対処できるようになる。」とIPBは論じている。歴史は、こうした危機にあっては民主主義が何よりも重んじられねばならず、権威主義化しつつある諸国に対して、民主主義が擁護されねばならないことを示している。

IPBは「平和の文化」を呼びかけている。これは、世界各地の民衆に対する支援を確実にするためのグローバルな戦略、グローバルな社会契約、グローバルな協力の必要性を強調する平和的な道である。

IPBは「医療ストレス」の問題について、医療インフラへの投資を怠ってきた結果「医療システムはその限界に達し、英雄的な活動をしている前線の医療従事者は大きなプレッシャーの下に置かれている」と指摘している。世界保健機関(WHO)は、世界の医療従事者が2030年までに1800万人不足することになると警告している。

将来への教訓は、以下のように明らかだ。

・医療は、老若男女、世界のあらゆる地域に暮らす全ての人々にとっての人権である。

・医療と看護は、民営化を通じた利益追求のために予算削減や優先順位を下げる対象にしてはならない。

・全ての医療従事者にとっての、まともな労働環境と、教育・研修への継続的な投資の必要性。

IPBは「時が過ぎるにつれて、危機の全容が明らかになってきている。」と指摘したうえで、今こそグローバルな社会契約が必要な時だと主張している。国際労働機関(ILO)は2500万人の雇用が失われる可能性があるとみている。これは、2008年の金融危機を上回る規模だ。

さらに、「ワーキングプア」が相当程度増加することが見込まれる。さらに3500万人が影響を受けかねない。労働者の収入損失は3.4兆ドル規模に及ぶ可能性がある。

これこそが、雇用や収入、公共サービス、市民の福祉を守る経済措置と資源のために、世界や地域・国家レベルでの労働運動の取り組みをIPBが支持する理由である。

「人々の雇用を守るためには産業界の努力を要する。また、産業界が政府から得られると約束された支援に関しては、雇用や所得の保障に関する社会契約を彼らが遵守することが前提となるべきだ。」と国際平和ビューローは述べている。(原文へ) 

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