ニュース戦火が激しさを増す中、核不拡散条約再検討会議開催

戦火が激しさを増す中、核不拡散条約再検討会議開催

【国連IDN=タリフ・ディーン】

核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議が8月1日から26日までの日程で開催されている。「核保有国ロシア 対 非核保有国ウクライナ」の戦争が進行し、さらには、「核保有国中国 対 非核保有地域台湾」、「核保有国北朝鮮 対 非核保有国韓国」、「核保有国イスラエル 対 非核保有国イラン」など、軍事紛争の可能性が取り沙汰される中で開かれる会合である。

同様に重要な動きとして、核大国である米国と英国が2021年のいわゆる「AUKUS」(オーカス)協定によってオーストラリアに原子力潜水艦を売却することになっている。中国やインドネシアがこれに対して示した懸念を受けて、米国の核不拡散問題の専門家らがジョー・バイデン米大統領に書簡を送っている。

Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons
Photo: An artist rendering of the future U.S. Navy Columbia-class ballistic missile submarines. The 12 submarines of the Columbia-class will replace the Ohio-class submarines which are reaching their maximum extended service life. It is planned that the construction of USS Columbia (SSBN-826) will begin in the fiscal year 2021, with delivery in the fiscal year 2028, and being on patrol in 2031. Source: Wikimedia Commons

かつてNPT代表団のトップを務め、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)の検証・保安政策局長であったタリク・ラウフ氏は、第10回NPT再検討会議は「NPTの54年の歴史の中で最悪の国際環境の中で開かれています。」とIDNの取材に対して語った。ラウフ氏の挙げた点は以下のようなものである。

・ウクライナをめぐって全面的な代理戦争が起きていること。

・米ロ間の核軍備管理協議が完全にストップしていること。

・ロシアと米国の核兵器使用ドクトリンが核戦争の危険を増大させていること。

・中東における非核兵器・非大量破壊兵器地帯の創設に向けた協議が停滞していること。

・米トランプ大統領がハノイで北朝鮮が提示した寧辺核施設の解体提案を拒絶した影響により、米中間の緊張が高まっていること。

・包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効が1996年9月以来滞っており、北大西洋条約

機構(NATO)がその防衛の範囲をアジア太平洋の端まで広げつつあること。

・米ロ間の唯一の核軍備管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2

月に失効する予定であり、極めて不安定な状態に置かれていること。

「これらすべての有害な動きが、NPT再検討会議の行く末に影を投げかけています。」と、ラウフ氏は語った。

Gustavo Zlauvinen/ UN Photo
Gustavo Zlauvinen/ UN Photo

「1987年以来すべてのNPT再検討会議に公の代表として参加した私としては、ささいな言葉遣いだったり非現実的な世界観を巡って角を突き合わせる各国代表をうまくなだめようとしているグスタボ・スラウビネンNPT運用検討会議議長の気持ちが良くわかります。スラウビネン議長は、再検討会議の最終日である8月26日まで、NPTの義務と既に合意された公約の履行に向けて行動計画を策定するために『人間の本性の善の部分』を探ろうとしているのです。」と、ラウフ氏は語った。

米国のバイデン大統領は、NPT再検討会議に先立つ声明の中で、「世界が第10回NPT再検討会議に集う中、米国は、核戦力の責任ある守り手となり、核兵器なき世界という究極の目標に向かって努力し続けるという世界に対する公約を改めて確認した。」

「この公約があるからこそ、我が国は今年1月、他の核保有国とともに『核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない』という私たち共通の信念を明確にした。私達の国家安全保障戦略において核兵器の役割を低減することを私の政権で優先してきたのはこのためです。」

Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.
Photo: US President Joe Biden. Source: The Conversation.

バイデン大統領は、世界全体が不安定化し動乱に満ちているこの時にあって、「グローバルな不拡散体制の根本原則への私達の共通のコミットメントを再確認することが、今ほど必要とされている時はありません。」と指摘したうえで、「私の政権はNPTを引き続き支持し、あらゆる場所で人々を保護するこの不拡散の枠組みを強化し続けます。その点、ご安心いただきたい。」と語った。.

米国務省のネッド・プライス報道官は7月25日、米国はNPTを支持しつづけると記者団に語った。「NPTが核兵器国にも非核兵器国にも課す義務を強調することは、極めて重要なことだと考えています。」

「グローバルな不拡散体制が挑戦を受けている中、NPTが発効してからかなりの時が経つけれども、その意義や重要性は何十年経っても全く失われることはないことを明確にする点で、米国はNPTの加盟国と共にある、という点が重要だ。」

核拡散予防プロジェクト(NPPP)の広報は、7月27日の声明で、バイデン大統領は兵器級の高濃縮ウランを燃料とする潜水艦8隻の売却に進むべきではないと訴え、この計画は「核不拡散体制を損なう」と述べた。

この専門家らは、原潜は核兵器に使用不可能な低濃縮ウランを燃料とすべきだと述べている。

インドネシアもまた同様に、今回のNPT再検討会議に対して作業文書を提出し、「原子力潜水艦能力を持つことがグローバルな核不拡散体制に与えかねない帰結についての懸念」を示し、このような計画は「核物質、とりわけ艦船の燃料として作戦利用される高濃縮ウランが拡散し兵器用に転換されるリスクを増大させることになる」と強調した。

これと同様に、中国政府の関連組織は先週、「AUKUSの原子力潜水艦協力はNPTの目標及び目的の重大な侵犯であり、兵器級核物質が核兵器国から非核兵器国に違法に移転される危険な先例を作ることになり、明白に核拡散を促進する行為だ」と述べた。

テキサス大学オースティン校の教授でNPPPのコーディネーターであるアラン・J・クーパーマン氏は、「このように批判が集中するのは珍しく、それがAUKUSの急進的な性格を示しています。国際社会は半世紀にわたって、拡散のリスクを減らすために兵器級ウランから徐々に脱却してきました。しかし今や、米国はそれを潜水艦用燃料として大規模に売却し、他国が自らの高濃縮ウラン輸出入の権利を要求する先例を作ろうとしています。核不拡散体制は『終わってしまう』ことになりかねません。」と語った。

ラウフ氏は、2021年9月15日のAUKUS協定による米国のオーストラリアに対する原子力潜水艦提供は、バイデン政権による無責任な決定の一つだと語った。

AUKUSの構成国(オーストラリア・英国・米国)は、IAEA保障措置(検証)に関して「ゴールデン・スタンダード」を順守すると公約してはいるが、現実に設定される唯一のゴールデン・スタンダードは、2トンもの兵器級高濃縮ウランをIAEA保障措置の枠から外すことによって、IAEAのNPT検証体制に風穴をあけることになる。

私は1988年、「パンドラの函を開ける:原子力潜水艦と核兵器の拡散」というタイトルの報告書を書き、それは今でも最も権威のある調査だと思っているが、この報告書では、IAEAには原子力潜水艦の核燃料や原子炉を監視・査察する能力が欠けていることを明確に示した。

「私は第10回NPT再検討会議に対して、オーストラリアのような非核兵器国がIAEA保障措置の枠外で原子力潜水艦を運用することを拒絶するよう求めてきました。」

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は8月1日のNPT会議開会にあたっての演説で、「私たちは皆、条約の目的と役割を信じているからこそ、今日ここにいるのです。しかし、条約を未来に生かすには、現状を超えていく必要があります。そのためには、新たなコミットメントと真の意味で誠実な交渉が要求されます。さらに、すべての締約国が耳を傾け、歩み寄り、過去の教訓と未来の脆弱さを常に考慮することが求められます。」と語った。

グテーレス事務総長はまた、「人類は、広島と長崎の惨禍によって刻み込まれた教訓を忘れ去る危機に瀕しています。地勢学的緊張が、新たな段階に達しつつあります。競争が、協力と協調に勝りつつあります。」と指摘したうえで、「不信が対話に、分裂が軍備縮小に取って代わっています。」と語った。

ラウフ氏、NPTでのグテーレス事務総長の演説は「いくつかの点で極めて不十分なものであり、国際関係におけるこの重要な岐路にあってリーダーシップを発揮する機会を逃した。」と指摘したうえで、「とりわけ、国連が被寄託者となっている核兵器禁止条約(TPNW)に事務総長が言及しなかったのは衝撃的でした。」と語った。

核兵器禁止条約は2021年1月に発効し、その第1回締約国会合が今年6月にウィーンで開始された。その締約国会合では「核兵器のない世界へのコミットメントに関する宣言」と題する重要な宣言と行動計画が採択されている。(原文へ

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