【国連IDN=タリフ・ディーン】
「孤立した王朝」と呼ばれている北朝鮮は、完全なる政治的孤立の下にいる、あるいは世界から完全に切り離されているわけではないようだ。
それは、米国やその同盟国が北朝鮮の高官5人に対する制裁案(その真の狙いは複数回の核弾道ミサイル実験によって西側に対抗し続ける国そのものを標的としていたものだったが)をまとめるのに失敗したことから判断すると、そのようである。
1月19日、国連安保理の非公開会合でこれらの北朝鮮高官に対する制裁案が話し合われたが、中国・ロシアという2つの常任理事国の反対によって成案とはならなかった。
米国の提案が安保理の会合において正式提案されていたならば、両大国はこれに対して拒否権を発動したことだろう。しかし、その結果を予想した米国は、案を提出する道を選ばなかった。
今月に入って7度目の弾頭ミサイル実験であり、2017年以来最長の射程となる今回の実験について、米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使は1月30日、ABCテレビの取材に対して「極めて挑発的な行為であり、これまでにも安保理で厳しく批判してきたことです」と語った。
「ご存じのように米国は、北朝鮮に対して過去数週間で単独制裁を発動し、安保理でも制裁発動を推進してきました。北朝鮮の行為によって脅威にさらされている韓国や日本といった同盟国とも協力して、その他の方法を探りたいと考えています。」
ジョー・バイデン大統領が北朝鮮の金正恩と直接交渉する可能性について、大使は「初めからそのことは明確に述べてきました。米国政府は外交的協議を行う用意があります。このことは北朝鮮に何度も提案してきました。しかし彼らがそれを受け入れないわけです。しかし、米国政府は、前提条件なしに外交的関与に前向きです。私たちの目標は、北朝鮮が隣国に対して行っている脅迫的な行動をやめさせることです。」と語った。
北朝鮮の初の核実験後、安保理は2006年に北朝鮮に対して制裁を発動し、その後も核実験のたびに制裁が発動されて、北朝鮮経済を苦境に陥れてきた。
他方で、食料不足に苦しむ北朝鮮に対して国連が行った人道支援にも関わらず、北朝鮮は相変わらず核開発を続けている。
世界食糧計画(WFP、本部ローマ)の2019年の報告書によれば、1100万人が栄養不足に陥っており、2550万の人口のうち5人に1人の子どもが発育不良であるという。
1月28日付のニューヨーク・タイムズによれば、延世大学(ソウル)のジョン・デルリー教授(歴史学)が「コロナ禍がこの2年間で与えてきた圧力に比べれば、制裁など大したことはない。それでも北朝鮮は『兵器を止めるから援助を』と乞うているだろうか。」と述べたという。
北朝鮮は核兵器を放棄するよりも「草を食べるだろう」と教授は語った。これは、「我々は草を食べ、飢えたとしても、自らの核兵器を手に入れるだろう。我々に他の選択肢はないのだ!」というパキスタンのズルフィカール・アリ・ブット首相の有名な言葉を念頭に置いている。
ブットのこの発言は、1974年にインドが「平和的核爆発」を実施したことを受けてなされたものだ。
9つの核保有国のうち、中国・インド・パキスタン・北朝鮮の4カ国がアジア諸国である。残りの5つは、米国・英国・ロシア・フランス・イスラエルである。
「平和・軍縮・共通の安全保障を求めるキャンペーン」の代表であり、国際平和ビューロー代表でもあるジョセフ・ガーソン氏は、IDNの取材に対して、北朝鮮核危機にはいくつかの淵源があるが、そのうちのひとつは、朝鮮戦争に始まって、米国が核兵器で北朝鮮を攻撃すると何度も脅しをかけてきたこと、米国が21世紀に入って何度も機会を逃し続けてきたことにある、と語った。
ジョージ・W・ブッシュ大統領は、前政権[クリントン政権]のペリー国防長官とオルブライト国務長官が北朝鮮と協議してなされた包括的合意を拒絶するという大きな過ちを犯したとガーソン氏は指摘する。北朝鮮が核実験を開始したのはブッシュ政権の時であった。
バラク・オバマ政権は「穏健な無視」という誤った政策をとり、その間に北朝鮮の核・ミサイル能力は向上してしまった。つづけて、トランプ大統領とボルトン国家安全保障問題顧問が北朝鮮との間で段階的に軍備管理を追求することを拒み、また機会が失われてしまった、とガーソン氏は語った。
「国際的に孤立し、権威主義的で高度に軍事化された北朝鮮は、同国の体制転換に向けた訓練も含む米韓軍事演習を脅威と見なしてきた。」
北朝鮮は、軍縮協議で進展をもたらすために、米国がまず北朝鮮への敵対的政策をやめよと訴えてきた。
「バイデン政権が欧州における米国の権力と影響力の強化に力を入れ、ロシアとの間でウクライナ危機が持ち上がり、バイデンとブリンケンが中国封じ込めの優先順位を上げる中、米政府の北朝鮮への関心は弱くなっている。それで金正恩による最近のミサイル実験が起きるわけだ。」とガーソンは指摘した。
バイデン政権が北朝鮮への敵対的アプローチを終結させるとのシグナルを送るために取るべき方法は、72年に及ぶ朝鮮戦争を終結させるとの宣言をすべく韓国と行っている協議をまとめあげることだ。
「もっと多くのことが必要だが、それは、朝鮮半島と北東アジアを非核化するために不可欠な相互信用と信頼を構築する重要な第一歩になるだろう。」とガーソン氏は語った。
「韓国平和ネットワーク」の平和活動コーディネーターであるケビン・マーティン氏は、「[北朝鮮による一連のミサイル実験は]残念だが、北朝鮮のこれまでの行動ぶりからすれば理解できることだ。」と語った。
北朝鮮は米韓(それに日本も加えることができる)軍事同盟に対して当然ながら不安を持っており、それを「敵対的政策」と呼んでいるのである。
バイデン政権は、平和のパートナーとなる韓国が文在寅政権である間に、北朝鮮と緊急に重大な外交協議を開始すべきだとマーティン氏は語った。
朝鮮戦争終結を求め、平和構築における女性のリーダーシップ強化をめざす「非武装地帯を超える女性たち」のクリスティーン・アン代表は「北朝鮮による今月7回目のミサイル実験で重要な点は、米国から一方的な第一撃を抑止する能力を見せつけたということだ」と、IDNの取材に対して語った。
米国が「いつでも、どこでも」北朝鮮と協議する用意があると述べているにも関わらず、米国による「敵対的」政策は一ミリも動いていない。
実際、バイデン大統領は、制裁強化・体制転換論者であるフィリップ・ゴールドバーグを韓国大使に任命したばかりである。
このことは、米国が一方も譲らず、軍事演習および制裁という失敗に終わってきた政策に固執し続けるとのメッセージを送ることになる。これが北朝鮮の態度を硬化させ、軍事能力のさらなる強化につながってしまう。
「危険な瀬戸際外交のゲームだ。これを解決するのは、朝鮮戦争停戦を和平協定へと進ませる真の外交だ」とアン代表は語った。
WFPのウェブサイトによると、北朝鮮の食糧・栄養事情は悪いままであり、同国の人道的な状況をさらに悪化させているという。
耕作地の不足、最新の農業機械や肥料の不足、繰り返される自然災害のために農業生産は毎年の食料需要に見合っていない。
干ばつや水害、台風、熱波が毎年北朝鮮を襲い、土壌の流出、喪失、地滑り、作物やインフラへの損害が生じている。
小規模の災害でも農業生産や食物供給に深刻な損害を与えることがあり、すでに限られた北朝鮮の対処能力にさらに打撃を与えている。2018年末には、同国の「穀倉地帯」とされている地域を厳しい熱波が襲い、平均よりも11度も気温が上昇した。
その直前の2018年8月末には台風「ソウリク」が同国の咸鏡道南部・江原道に大雨をもたらし、黄海道北部・南部でも洪水が起こった。
国連安保理によって課された制裁によって国際貿易・投資にも制限がかかっており、経済的・政治的問題がさらに困難さを増している。
2021年2月、WPFは、コロナ禍に関連した制約によって、WPFが北朝鮮に食料を搬入し、職員を派遣し、WPFの支援事業を監視する能力が「悪影響を受けている」と述べた。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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