地域アジア・太平洋│アフガニスタン│厳しい政治的困難に直面する鉄道網

│アフガニスタン│厳しい政治的困難に直面する鉄道網


【ハイラタンIPS=レベッカ・ミュレー】

先月、ウズベキスタンからアフガニスタン国境の町ハイラタン(1980年代初頭にソ連が貨物ターミナルを建設)を結ぶ、「友好の橋」を最初の貨物列車が渡り、マザリシャリフに向けて新たに敷設された75kmの線路を走った。

米国とパキスタンの関係が急速に悪化する中、中央アジアの北部補給ネットワーク(NDN:ラトヴィア、アゼルバイジャン、グルジア、カザフスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンで構成されるアフガン支援輸送ネットワーク:IPSJ)とアフガニスタンを結ぶ北部ルートの重要性が高まっている。

12月26日に起こった北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)によるパキスタン検問所の誤爆事件以降、パキスタン政府はアフガニスタンに続くパキスタン国境の2つの主要な交通路(北西部カイバル地区トルカムと南西部バルチスタン州スピンボルダックの国境検問所)をNATOとISAFの輸送トラックに対して閉ざしている。

 
現在北部ルートでは、Hairatanを通じて、アフガニスタンの石油輸入の70%、連合軍の非軍事物資の60%が輸送されている。

新たに開業したこの路線は、アジア開発銀行(ADB)から1億6500万ドルの融資を受けて建設したもので、従来鉄道産業がなく技術者養成にも時間がかかるアフガニスタンに代わってウズベキスタン国鉄が当面運営を委託されている。またこの路線は、将来的にはアフガニスタン国内の循環道路を凌いで、近隣の中央アジア諸国や世界各国との連結を目指す、野心的な国鉄網拡張計画の第一フェーズと位置付けられている。

米国は、2014年に予定されている米軍撤退後、この鉄道ルートが、戦争で疲弊し援助に深く依存しているアフガニスタンにとって「新しいシルクロードになる」との楽観的な見方を示している。また同時にこのルートは、豊富なアフガニスタンの天然資源を国外に輸送するうえで極めて重要な役割を果たすことになるだろう。

アフガニスタンに、鉄鉱石、銅、金、コバルト、リチウム、石油、天然ガスなどの天然資源が豊富に埋蔵されていることは、既に数十年前にソ連が確認していた。そしてタリバン政権崩壊後は、米地質調査所(USGC)がハーミド・カルザイ政権と協力して、さらに詳しい埋蔵状況に関する調査を進めてきた。米国はアフガニスタンに埋蔵されている手付かずの鉱物資源の価値を約1兆ドルと試算している。

アフガニスタン鉱物・産業省が譲許した大型採掘案件の中には、中国国営企業「中国冶金科工集团公司」が30億ドルで30年リースを獲得した、東部ロガール州のメス・アイナク銅鉱山(推定埋蔵量は世界最大級の1100万トン=880億ドル相当)がある。

またインド政府肝いりの大手鉄鋼7社で組織する工業協同企業体(コンソーシアム)とカナダのキロ・ゴールドマイン社は、10憶8千万メトリックトンもの巨大な埋蔵量を誇るバーミヤンのハジガク(Hajigak:カブール西方100キロ)鉄鉱石鉱床の採掘権を獲得した。また、中国石油天然気股份有限公司(ペトロチャイナ)は、北部のサーレポル州とアフガニスタン北西部のファールヤーブ州における石油・天然ガスの採掘権を7億ドルで獲得している。

現地の監視団体Integrity Watch Afghanistan (IWA)によると、これまでに100件を超える様々な規模の鉱山採掘契約が、アフガニスタン政府と各国の公営・私企業との間で結ばれている。

「現在入札に上がっている採掘案件は2件で、1つ目は北部バダフシャン州にある金鉱床、もう一件は、東部のガズニ州にある金と銅の鉱床です。USGSによると、後者の鉱床は世界最大規模の可能性があるとのことです。」とアフガニスタン鉱物・産業省の政策担当のアブドゥル・ジャリル・ジュムリアニー氏は語った。

しかし、こうした高価かつ重い鉱物を無事採掘してアフガニスタン国外に搬出するには、アフガニスタンの険しい地形、広範にひろがりをみせている反乱・暴動、そして数十年におよぶ政情不安が大きなリスク要因となっている。

ADBはアフガニスタン鉱物・産業省との連携の下、総工費5億ドルをかけて、マザリシャリフから、トルクメニスタンとの国境線近くを走り、油田・ガス田地帯を通過してイラン国境近くのヘラートに至るルートの鉄道建設を支援する計画で(国鉄網拡張計画の第二フェーズ)、今年中にもフィージビリティ・スタディが行われることになっている。

ADBのユアン・ミランダ中東・西アジア局長はIPSの取材に対して、「(アフガニスタンに)鉄道を敷設し運行し続けることに伴うリスクは十分理解しています。まさに治安問題が最も気にかかるところです。」と語った。またミランダ局長は、鉄道敷設の最大のドナーは日本で、欧州諸国、米国、ニュージーランドがそれに続いていると語った。


ADBの野心的な鉄道建設計画とは別に、ハジガクのインドコンソーシャムも、アフガニスタン中央部を通ってイランの沿岸部に至る(インド政府はイラン経由で海路アフガン鉱床資源を輸入する貿易ルートを計画中:IPSJ)鉄道を敷設する計画を発表した。また、中国の国営企業が採掘権を獲得して大きな注目を浴びたメス・アイナク銅鉱山開発合意では、首都カブール南部に位置する同鉱山からアフガニスタン北部国境まで「実行可能な場合」鉄道を敷設するサイド合意がなされていた。

「今回開通したマザリシャリフ線は、将来的には大規模な鉄鉱石の採掘がおこなわれているバーミヤン(ハジガク)へと延び、さらに首都カブールを経由して銅鉱山があるアイナックへと接続、さらにそこからパキスタン国境のトルカムへと延びる予定です。」とジュムリアニー氏は語った。

しかし今のところ中国冶金科工集团公司は、鉄道敷設プロジェクト関する研究すらはじめていない。この点についてADBのミランダ局長は、「中国が本気で鉄道建設を企図しているのなら着手するでしょう。もし中国が実行しない場合は、ADBが鉄道敷設に乗り出します。」と語った。ミランダ局長は、アフガニスタンの鉄道網は10億ドルの投資があれば10年以内に運行にもちこめるとみている。

しかし、鉄道網の将来に関しては悲観的な見方もある。アフガニスタン分析者ネットワーク(AAN)のトーマス・ルティッグ氏は、「峻険な地形からアフガニスタン中央部(ハジガクやアイナック)から鉄道を延ばすことが極めて困難なうえに、戦争がすぐには終わりそうにもないことを考えると、この鉄道計画はきわめて脆弱なものだと言わざるを得ません。」と語った。

IWAのジャーヴェード・ノーラニ研究員は、アイナック銅鉱山開発に伴う3つの深刻な懸念材料(①政府からの保証を条件に立ち退きに応じた地元住民との土地を巡る軋轢、②採掘活動に伴う深刻な水資源枯渇の可能性、③銅鉱採掘予定地の真っただ中で、5世紀に遡る仏教遺跡が発見され破壊の危機に直面していること)について指摘している。

「大規模な鉱山開発を巡って地元コミュニティーが分裂していがみ合う現象はすでに起こっています。地元住民は利害関係を巡って意見が対立し相互に疑心暗鬼になっているのです。」とノーラニ研究員は語った。またノーラニ氏は、アフガニスタン鉱物・産業省はこうした現地の状況を隠すため、IWAによる地元コミュニティーへの視察を阻もうとしていると語った。

またAANのルティッグ氏は、「アフガニスタンでは、外国籍企業が操業する場合、現地パートナーが必要とされています。しかし既に採掘を開始している多くの鉱山では、極めて低い技術レベルで運営がなされており、しかもそうした鉱山の所有者や運営者が地方の軍閥や軍司令官、或いは彼らと繋がりをもつ人物であることが少なくありません。こうした現状は、アフガニスタンの持続可能な社会・経済開発を考えれば憂慮すべき兆候と言わざるを得ません。」と語った。

その他、2014年に連合軍が撤収した後には、アフガニスタンの地政学的な地位が低下するのではないかとの懸念も浮上している。(中央アジアの)旧ソ連邦構成諸国、イラン、パキスタンは既にアフガニスタンに対して大量の物品販売を仕掛けている。一方、欧州や米国の企業を尻目にアフガニスタンへの積極的な進出を図ってきた中国とインドの企業は、ここにきて政府から大型採掘権を落札している。

しかしアフガニスタン鉱物・産業省のジュムリアニー氏は、「我々はビジネス安定化タスクフォース(tfbso)と呼ばれる米国防省が派遣したチームと良好な協力関係を構築してきており、多文化環境における投資も軌道に乗りつつあります。こうした成果を背景に、次は投資誘致の説明会をロンドンとカナダで開催する予定です。」と語り、欧米諸国が今後対アフガニスタン投資から後退していくのではないかとの見方に異議を唱えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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