【ニューヨーク/アジスアベバIDN】
アフリカ連合(AU)は、物議を醸している米国新政権が打ち出した反移民措置について、アフリカの黒人拉致の歴史を想起して、「かつてアフリカ人を奴隷労働力として強制的に連行していながら、米国政府は、今や、自国に入国しようとするイスラム教徒の移民に門戸を閉ざした。」と非難する声明を出した。
「世界は明らかに大変困難な時代に突入しつつあります。」と、アフリカ連合のヌコサザナ・クラリス・ドラミニ=ズマ前委員長は、エチオピアの首都アジスアベバで1月30日~31日に開催したアフリカ連合首脳会議で語った。
「かつて大西洋奴隷貿易においてアフリカの人々が奴隷として送り込まれたまさにその国(=米国)が、我々の一部加盟国からの難民の受入れを禁止する決定をしました。」とズマ前委員長は語った。
1月27日、ドナルド・トランプ大統領は、移民の受入を停止しイスラム教徒が多数を占める7カ国からの入国を禁止したが、そのうち3か国はアフリカ連合の加盟国である。
トランプ大統領は27日に署名した大統領令により、ビザ発給の手続きについて見直しを命じ、アフリカの3か国(リビア、ソマリア、スーダン)及び中東の4か国(シリア、イラク、イエメン、イラン)の人々については、90日間、入国を停止した。
すべての国からの難民の受け入れも27日から120日間停止し、シリア出身の難民については、受け入れを無期限停止とした。
アフリカ連合首脳会議に出席したアントニオ・グテーレス新国連事務総長は、「アフリカ諸国が暴力を逃れてくる難民の受け入れに大変寛容であるのとは対照的に、先進国を含む他の地域では、一部の国が国境を閉じ、壁を築いている。」と批判した。
グテーレス事務局長は、アフリカ諸国は世界で最も寛容に難民を受入れている、と称賛した。
アフリカ連合首脳会議では、まずズマ委員長の後任となる新委員長の選出が行われ、7度におよぶ投票の結果、最後まで対立候補として残ったケニアのアミーナ・モハメッド外相を含む4人の候補を抑えて、チャドのムーサ・ファキ・マハマト外相(56歳)が新委員長に就任した。
ファキ氏は、同国のイドリス・デビ大統領がアフリカ連合議長職をギニアのアルファ・コンデ大統領に引き継ぐ中、アフリカ連合の執行機関である「委員会」のトップである委員長職に就任した。
チャドの首相経験者でものあるファキ外相は、これまでナイジェリア、マリを含むサヘル地域におけるイスラム教主義者との闘いの最前線で活躍してきた人物であり、アフリカ54カ国が加盟するアフリカ連合の執行機関のトップとして、「開発と安全保障」を最重要課題に取り組んでいくと述べた。
ファキ新委員長は、「私は、銃の音が民謡や工場の喧騒にかき消されるアフリカを夢見ています。」と述べ、向こう4年の任期中に、アフリカ連合の官僚体質を改めていくことを約束した。
モロッコの再加盟を承認
今回のアフリカ連合首脳会議のハイライトは、33年ぶりにモロッコの再加盟が実現し、これでアフリカ大陸全ての54カ国と西サハラがアフリカ連合に加盟したことである。モロッコの加盟を巡っては、土壇場になって一部の反対国から「他の加盟国の領土の一部を占領している国(=モロッコ)の加盟が可能か疑問を呈する」意見書が提出される場面もあったが、主要加盟国(ナイジェリア・南アフリカ共和国・アルジェリア・ケニア・アンゴラ等)を含む39カ国の賛成多数で認められた。
モロッコは、実効支配している西サハラについて、「この旧スペイン植民地はモロッコの不可分の一部」として領有権を主張している。一方、西サハラにおける独立国家の建設を目指すポリサリオ戦線は、帰属に関する住民投票の実施を要求している。
アルジェリアと南アフリカ共和国がポリサリオ戦線の主な支援国である。南アのジェイコブ・ズマ大統領は、先月、ポリサリオ戦線の指導者ブラヒム・ガリとの会談後、「西サハラが、今なお植民地化されている現状は理解しがたい。」と指摘したうえで、「南アは、西サハラの人々が自らの土地で自由に暮らし将来を決定できるようになるまで、引き続き西サハラの民衆を支援していきます。」と語った。
モロッコの加盟決議に先立ち、集中的なロビー活動が行われた。それは、モロッコが加盟すれば既にアフリカ連合に加盟しているサハラ・アラブ民主共和国が除名されるのではないかという懸念が西サハラの人々の間で広がっていたからである。昨年、アフリカ連合には加盟国の意思に反して除名する方針について明確な規定がないにも関わらず、28の加盟国がサハラ・アラブ民主共和国の除名を求める嘆願書に署名していた。
しかしアフリカ連合の法律顧問は、「こうした根本的な懸念事項は十分に考慮されなければならない」と指摘しつつも、モロッコの再加盟について許可する判断を下した。
モロッコは1984年に、アフリカ連合の前身組織である当時のアフリカ統一機構がサハラ・アラブ民主共和国の加盟を認め、事実上西サハラの独立を承認したことに抗議して、脱退した。
今回モロッコの再加盟が支持された背景には、同国の経済的な豊かさがある。アフリカ連合は重要な資金提供者であった リビアの最高指導者ムアンマール・カダフィ大佐が死亡して以来、新たな資金提供者を必要としていた。
欧米諸国で孤立主義的な傾向が増し、アフリカ連合が域外からの経済支援から脱却して独立独歩の体制構築を志向するなか、アフリカ連合は、モロッコの加盟によって、欧米との密接な関係を持つ加盟国を得たことになる。モロッコは米国の緊密な同盟国として、「テロとの戦い」に協力しているほか、欧州連合に協力してアフリカ人移民の欧州渡航を阻止する支援を行っている。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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