【国連IPS=タリフ・ディーン】
フィンランドで12月に開催が予定されていた、中東非核兵器地帯化に関する長く待ち望まれている国際会議の延期が決まり、はたしてスタートが切れるのかどうか危ぶむ声が出ている。
大量破壊兵器(WMD)に強く反対してきた国連の潘基文事務総長は、来年のいずれかの時点で会議は開催できると楽観的な見通しを示した。
「平等の精神で、長期的な地域の安定・平和・安全を推進する会議の重要性を強調するために、中東諸国家のハイレベルとの接触を個人的に続けていいます。」と潘事務総長は語った。
しかし、アクロニム軍縮外交研究所のレベッカ・ジョンソン所長は、軍事主義が依然として市民の命を奪い続けていることは中東の人びとにとって驚きだろうと語った。
「もし最近の悲劇的な動向が原因で中東非大量破壊兵器地帯化に関する重要な会議が延期されたとするのならば、2013年の早々にも会議を招集することが重要です。」とジョンソン氏は語った。
またジョンソン氏は、延期されたことで会議自体をご破算にしてしまう必要はない―中東から核兵器などのWMDを廃絶する決意を持った建設的なプロセスを開始することが、会議の遅れによってより重要な課題になったと考えている。
「もし会合が2013年早々に効果的なプロセスを開始することができないならば、中東だけではなく核不拡散条約(NPT)の信頼性にも関わる重大な帰結が生まれるでしょう。なぜなら、重要な合意についてNPTが実行できないことを再び示してしまうことになるからです。」とジョンソン氏は警告した。
会議開催の提案は、2010年5月に国連で開かれたNPT運用検討会議において189の加盟国によって承認された。
イスラエル政府は、NPT運用検討会議の成果文書を批判する一方で、提案された会議への参加については未定としていた。
しかし、その後アラブ世界を席巻した政治的蜂起によって、イスラエルに対して融和的だったエジプトのホスニ・ムバラク大統領が追放されるなど、周囲がより敵対的な環境に変化していく中、イスラエルは自らの安全保障など、様々な懸念を表明するようになった。
潘事務総長は、11月26日の声明で、「ロシア、英国、米国とともに、そして、中東諸国との協議の下に、中東のすべての国々が出席した会議を招集することへの固い決意とコミットメント」を改めて表明した。
潘事務総長は、会議の焦点は、地域の諸国家が自由に結ぶ取決めを基礎として、中東に核兵器とその他の大量破壊兵器を禁止する地帯を創設することになるだろう、と語った。
イスラエルとパレスチナ双方の専門家によって制作されている季刊誌『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』のヒレル・シェンカー編集長は、ヘルシンキ会議が2012年に招集されなかったのは残念ではあるが、潘事務総長と共同招集国である米国・英国・ロシアが依然として会議開催への意思を持っていることが救いだ、と語った。
現在の状況を考えれば、2012年12月に会議を開催できないのは理解できる、とシェンカー氏は考えている。
しかし、会議のフィンランド人コーディネーターが「2013年のできるだけ早い段階で会議を招集することができるよう最短の時間で多国間交渉をおこなう」ことができるよう望むとした最近の潘事務総長の声明は、この意義のあるプロセスは今後も進むことを示している。
シェンカー氏は、「会議が成功するには、イランとイスラエルがテーブルに着くことが重要」と指摘したうえで、「ファシリテーターが、米国の支援を得て、このプロセスにかかわり続けることの重要性をイスラエルに対して納得させることができればいいのだが。」と語った。
またシェンカー氏は、依然として、ヘルシンキ会議は中東の非核・非WMD地帯化を含めた地域の安全保障体制の創設と、イスラエル・パレスチナおよびイスラエル・アラブの包括的平和という並行的な課題に向けて前進するための歴史的な機会となるだろう、と語った。
他方、これまではイスラエルに対して擁護的だった米国は、会議前の準備段階において、一つの条件を設定している。
2010年7月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が米国のバラク・オバマ大統領と会談した際、中東会議においてイスラエルだけを名指しして批判することはないとの確証を得たのである。
ホワイトハウスの声明でも、「すべての国家が安心感を持って参加できるときにのみ」会議は開催されるであろうこと、「イスラエルを名指しすることで会議開催の見通しが暗くなる」であろうことを述べている。
グローバル・セキュリティ研究所のジョナサン・グラノフ所長は、国連で11月26日に開かれたシンポジウム「信頼、対話、統合」において、核兵器は「安全保障アパルトヘイト」の一形態だと述べた。
アパルトヘイトのように、双方が傷つけられることになる。そして、脅威を受けた方は当然にも破壊の恐怖を味わうことになり、脅威を与えている方は自らの道徳的基盤を侵食するか、自らの行為に対して否定的になる、という。
グラノフ氏は、「こうした恐怖の装置に頼り続けることは、現代社会にもっとも深刻で社会を分断するような皮肉を与えることになります。」と述べ、さらに、「安全保障追求のための手段が安全の破壊に寄与し、このシステムに内在的な不平等が人間の統一を引き裂くことになるのです。」と付け加えた。
カーネギー社のバルタン・グレゴリアン氏は最近、「公式の核兵器国である、米国、ロシア、英国、フランス、中国、そして最近ではインドとパキスタン(それに公式には認めていないがイスラエルも)を加えたすべて核保有国は、他者が自国に対して核兵器を使うことを抑止するという目的のためにのみ、核兵器を保有していると主張している。」と指摘している。
しかし、大国が何らかの政治的目的を達するために威嚇の手段として核戦力を使うといったことが、これまでにも数多くあったし、これからも間違いなくあるであろう、とグレゴリアン氏は語った。
多数の無実の人びとの殲滅を脅しの手段に使うことは法的にも道徳的にも正当化できないし、核兵器拡散を刺激するという意味でも大きな脅威であるとグラノフ氏はいう。したがって、核兵器を使用すると脅しをかけることは現実的ではない。
「したがって、権力を求める非合理的なプライドが、この大量破壊のための戦力を保有し『改善』しつづける人びとの政策思想になっているのかと、我々は訝らざるを得えません。」とグラノフ氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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