【レイキャビクIDN=ロワーナ・ヴィール】
400人の発言者を含む2000人以上の参加者を得てアイスランドの首都レイキャビクで開かれた第4回北極圏会議は、北極圏に関するあらゆる事柄について活発に協議しネットワーキングを行う場であった。同会議は、北極圏に関する世界最大のイベントとなっている。
10月7日から9日まで開かれたこの会議のコンセプトは、つい数か月前までアイスランドの大統領だったオラフール・ラグナール・グリムソン氏によって生み出された。グリムソン氏は北極圏や気候変動の問題に長年取り組んできた人物で、現在でも北極圏会議において重要な役割を担っている。
会議は、全体会と、数多くの分科会から成っている。今年は、スコットランドのニコラ・スタージョン首相と間もなく退任する国連の潘基文事務総長も招かれて発言した。
スコットランドは北極圏の国だとは見なされていないが、スタージョン首相は、スコットランド北部は実のところロンドンよりも北極に近い、と語った。「スコットランドは2009年に『気候変動法』を制定しました。また1990年以来、エネルギー消費を6分の1削減しました。…再生可能な熱源や循環経済の発展といった領域においてスコットランドには大きな機会があると見ています。」とスタージョン首相は、会議参加者らに語りかけた。
「わが国で7年前に気候変動法が通過したとき、スコットランド電力需要の28%は再生可能エネルギーによって賄われていました。昨年、この数値は57%でした。」とスタージョン首相は続けた。
スタージョン首相はスコットランドでの「公平な気候対策基金」の創設について語った。というのも、「気候変動によって影響を受ける個人はしばしば、若年者、高齢者、病人、そして最も貧しい人々」であり、「食料や燃料、水の主たる提供者である女性が不釣り合いなほど被害を受けている」からだ。
潘基文事務総長は、国際的な気候外交におけるリーダーシップを評価され、「北極圏賞」を授与された。事務総長に就任した当時は政治的反対が強かったにも関わらず、国連在任10年の間に気候変動の問題を強調してきたからだ。
潘事務総長は、「皆さんが明確に気づいておられるように、北極は私たちの目前で溶けていっています。海洋の氷は凄まじい勢いで減少しています。例えば今年9月のある一日だけで、北極の氷は通常の3倍のペースで溶け、イングランドと同じ大きさの氷が失われました。…北極は、気候変動問題のまさに中心地なのです。」と指摘したうえで、「先住民族は、気候変動への適応および緩和を目的とする国家戦略によって影響を受けています。とりわけ、しばしば先住民族の土地を利用して行われる風力発電や水力発電事業のような再生可能エネルギー拡充のための取組みがそれにあたります。…先住民の貢献は、持続可能な開発目標を達成し気候変動と闘ううえで絶対不可欠なものです。」と語った。
ある分科会では、世界気象機関(WMO)のパウロ・ルティ氏が、2040年から70年の間には、9月の北極に氷がなくなってしまうのではないか、との予測を示した。WMOは、予測能力を高めるために、2017年半ばから19年半ばを「極地予測の年」に指定している。
スウェーデン極地研究事務局のビョルン・ダールバック氏は、異なった場所で、同じ時間帯に同じパラメーターを測定する大局的なデータが不足している、と指摘した。
全体会のひとつでは、海洋の氷と永久凍土の問題に焦点が当てられた。ウッズホール研究センターのフィル・ダフィー氏は、グリーンランド氷床が溶けているだけではなく、氷が溶けるにしたがって、それが太陽光を吸収し、表面がより暖かくなってきている、と聴衆に語った。
ラトガース大学海洋・沿岸科学研究所のジェニファー・フランシス氏は、「北極の海洋の氷の半分が既に溶けてなくなっています。これによって北極はより暗い場所になってきました。つまり、地球から宇宙に対して反射される太陽光の量が減少し、結果として、地球が吸収する太陽エネルギーの量が増えて温暖化につながっています。そして、北極が暖かくなると、(西ヨーロッパの温暖な気候を可能にしている)メキシコ湾暖流の勢いが弱くなります。」と語った。
このセッションの最後の方でダフィー氏は、二酸化炭素除去の必要性が、政策において肝要だと述べた。これには生態系における二酸化炭素の吸収が重要で、湿地や森林、ある種の農業活動の回復によってなされる。彼の同僚である永久凍土研究者のスー・ナタリ氏は、「科学者が報告した数値は控えめなものです。なぜなら、科学者はわかっていないことを報告しないものだからです。」と指摘した。フレッチャー法学・外交大学校のウィリアム・ムーモー氏は、「皆さん、各々の国でできることを実行に移していってください。」と訴えて、セッションを締めくくった。
北極圏会議では、再生可能エネルギーとイヌイット社会という2つのテーマが、たびたび取り上げられた。
「北極の持続可能な開発の難題に応える」と題された全体会では、グリーンランド選出のデンマーク国会議員アージャ・チェムニッツ氏が、「北極の持続可能性については、先住民族の視点からより焦点を当てるべきだ。」と語った。
同じセッションで、世界自然保護基金(WWF)のカーター・ロバーツ氏は「北極の持続可能性の枠組みは、持続可能な目標です……貧困、飢餓、気候、食料生産、海洋生物、陸上生物に関する持続可能な開発目標(SDGs)は、ミレニアム開発目標に新たに追加された重要な目標です。」と語った。
ある全体会は、北極の再生可能エネルギーネットワークに焦点を当て、再生可能エネルギーの代わりに現在は化石燃料で埋め合わされているギャップを埋める必要性を追求した。このひとつの側面は、配電網によって国々を接続することだが、これは技術的に可能な一方で、政治的障壁が存在し、市民からの支持も得られないかもしれない。
分科会の多くが、再生可能エネルギーの問題に触れた。あるセッションでは、北極の地熱の可能性を追求した。カナダの北部領域やアラスカで、環境を汚染するディーゼル発電機を地熱の直接利用に置き換えることに焦点が当てられた。また別のセッションでは、グリーンランドやカナダの遠隔地に再生可能エネルギーを提供するうえでの困難と実務上の問題が検討された。
デンマーク工科大学のカレ・ヘンドリクセン氏は、「グリーンランドでは、エネルギーの6割を5カ所の水力発電所に依存しています。」と語った。多くの居住地域では水力発電の潜在能力がわずかしかないが、73の町では、町と町との間に道路網がないため、エネルギーや水、その他のインフラを自足しなくてはならない。
またある別の発言者は、カナダ北部のイヌイット社会でも事情は同じだと指摘した。カナダでは、2000にのぼるコミュニティーが電力網で他地域とつながっていない。遠隔地では住居やエネルギーにかかるコストも高い。「しかし、エネルギーのコストは、良質な設計によって大幅に削減することができる。」と建築家のラリー・キャッシュ氏は語った。
「アラスカエネルギー・電力センター」のグウェン・ホールドマン氏は、寒冷気候技術に関するセッションの参加者に対して、「アラスカでは、化石燃料の使用を減らすために再生可能技術を統合する取り組みが、積極的に進められてきました。」と語った。
「太陽光、風力、水力発電が利用され、またあるプラントでは現地で唯一の資源である72度の温水を活用した地熱発電が使われています。こうした現場では、地元の電力事業者を訓練することが重要です。なぜなら、プラント機器は、コミュニティーの人口約5000人の遠隔地で機能するように設計されていないため、しばしば故障することがあるからです。」と、ホールドマン氏は説明した。
今回のレイキャビク会合では、カナダのケベック州政府とアイスランドが、クリーンで持続可能なエネルギーに関して科学協力を強化する合意に署名した。ケベック州は、アイスランドと同様に、電力のほとんどを再生可能エネルギーに依存している(この場合は水力である)。また、ケベックでは別の北極圏会合が、北部地域の持続可能な開発をテーマに、12月13日から15日に開催されることになっている。
気候変動・種の拡散・漁業に関する分科会で、アクレイリ大学のホルドゥルール・セヴァルドソン氏は、「太平洋のサバ、スカンジナビアのニシン、タラという3つの新たな種が1996年以降にアイスランド海域で増加している一方で、カラフトシシャモのような別の種が減少してきている。」と語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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