ニュースメッセージの意味をひっくり返す活動芸術家

メッセージの意味をひっくり返す活動芸術家

【ブエノスアイレスIPS=マルセラ・バレンテ】

遠めに見るとそれは普通の道路標識のようでもある。アルゼンチンの首都で見られるあまたの黄色い菱形の標識と同じように。しかし近づいてみると、そこには一風変わった警告メッセージが書かれていた-「元拷問人、ここから100メートル先に居住」。 

公共の場所にひっそりと設置されているこの標識がその場に長く据え置かれることはないだろう。しかし、ストリート・アート・グループ(GAC)は気にしない。GACのメンバー、キャロライナ・ゴールダーは、IPSに対して、「それは1日しか持たないかもしれないし、1週間かもしれないし、それよりももうちょっと長いかもしれない」と語った。

 GACは、1997年、賃上げと教育予算の拡大を要求する教師たちによって展開された抗議活動を支援する中から生まれた。教師たちは国会議事堂の前に巨大なテントを張り、2年以上も交代でそこに泊り込んだ。GACの芸術家たちは、皆が「白テント」と呼んでいたテントを、白いコートを羽織ったアルゼンチンの教師をかたどった白黒のシルエットで飾り立てた。 

しかし、GACが有名になったのは、「記念公園」が落成したときである。この公園は、1976年から83年までの軍事独裁期に拘束され「失踪した」人々を記念する、ラプラタ川岸沿いの緑地帯である。GACは、アルゼンチン史上のこの数年間を物語るメッセージを「道路標識」に記し掲げたのである。 

ゴールダーはいう。「はじめは、通常の展覧会ではなく、路上で何かやろうと考えていた。のちに、人々との対話を進める中で、私たちのメッセージがもっと政治的なものになっていたのです」。現在GACは、人権と失業者を守る組織とともに活動している。抗議活動にも参加する。 

GACのスポークス・パーソンでもあるゴールダーは、「私たちは、自分たちのことを芸術家というよりも活動家だと思っています」と語る。通行人は驚きと好奇心を持って反応してくれる。多くのドライバーたちは、よく見る交通安全のためのサインが、ほんの一瞬だけ、新しくて思っても見なかったメッセージに変身するのをみて、何か夢想したのに違いないと感じるであろう。 

GACは、独裁政権によって強制的に「失踪」させられた人々の子供から成る人権グループ「HIJOS」と協同して、元拷問人や独裁政権の元関係者が住んでいる場所を近隣住民に知らせる活動を行なっている。この活動を通じて、元拷問人がいるかもしれないという情報を人々に知らせるひし形の標識のアイディアが生まれた。ブエノスアイレスの地下鉄の地図に似せた地図も作成された。独裁期に設置された秘密強制収容所の場所が赤く塗られている。 

その後、GACの活動範囲は広がり、有名になってきた。 

2001年末の経済・政治危機の前夜には、GACのメンバーが、危険を知らせる際に道路に張ってあるのと同じような赤白のテープを国会議事堂周辺に張り巡らせた。また、まもなく閉店する店に掲げてあるのと同じような「閉店セール」の看板も設置した。ただし彼らは、これを、政府の建物であるカーサ・ロサダ(Casa Rosada)や国会議事堂、市中心部のオベリスコ記念碑のところに据え付けたのである。 

「私たちがやっているのは芸術ではなくて、人々との対話を開くことを目的とした集団的な介入行為なのです」とゴールダーはいう。彼女はまた、彼女たちの作品には署名を付けないようにしていると言う。なぜなら、彼女らの目指すところは、情報システムそのものの中にあるねじれのごとく見えるあいまいなメッセージを発するところにあるからだ。 

それらのメッセージは長く留め置かれるわけではないが、一般の人々からは歓迎されている。たとえ、時には微妙な問題に触れているとしても。「メッセージを持って行ってしまうのはたいてい警察ですね」とゴールダーはいう。しかし、GACのメンバーはあきらめることを知らず、標識や地図、ポスターを元々あった場所かそれに近いところにもう一度置くこともしばしばだという。 

GACはまた、アルゼンチン独立の英雄たちを記念するのと同じような記念銘板や祭壇を設置することもある。これは、2001年12月に起こった民衆蜂起を警察が強引に取り締まろうとする中で殺害された29名のデモ参加者を記念するものである。この事件により、当時のフェルナンド・デラルア大統領は任期半ばにして辞職を余儀なくされた。 

GACの芸術家たちは被害者が亡くなった場所に印をつけ、はがれないように樹脂で覆った紙の上に、彼らの名前・年齢・殺された日付を印刷したものを置いている。これらの印はたいてい2、3週間後にはなくなってしまうが、GACのメンバーや被害者の遺族が単にそれをもう一度設置するだけの話である。 

もうひとつの物議を醸した活動は、地下鉄会社の売っている切符と同じような書体と色を使った切符を印刷することである。ただしこれには、その地下鉄会社メトロビアスの警備統括責任者である元拷問人の名前と写真が印刷されている。 

芸術家たちは、ときには、より手軽だが同時に効果的でもある創作方法にも頼る。すなわち、屋外広告板や宣伝ポスターに単に彼らのメッセージを書き加えるのだ。たとえば、プエルトリコの人気歌手Chayanneのリサイタル告知のポスターには、街頭デモで逮捕された人々の解放を求める吹き出しを歌手のところに付け加える、といった具合だ。 

GACは、失業者の組織とともに、労働の守り本尊である聖カエタノ教会への伝統的な巡礼に参加し、聖人を描いた小さな絵を巡礼者に配ったりする。しかし、その絵の裏側には、祈りの言葉ではなく、労働時間を8時間から6時間にする提案の要旨が書かれている。 

街頭芸術に対するGACの最近の貢献は、国境を越え、ドイツやブラジルでも真似されている。彼らは、何かの標的を撃っているシルエットを作り、そこに、「私たちはいまだに……のターゲットになっています」とのメッセージを印刷する。そして、そのカードを使う者が、それぞれ特定の内容を書き入れてメッセージを完成させる。たとえば、「消費文明」「不安定雇用」「抑圧」などのように。(原文へ) 

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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