【ワシントンIPS=特派員】
現代英語の単語「Economy(=経済)」は、ギリシャ語の「Oikonomia(=家庭のための資源の管理)」に由来している。
しかし皮肉なことに、政府の財政削減と緊縮政策により一般家庭が厳しい局面に追い込まれている今日のギリシャでは、数千の失業者が反政府抗議活動に街を埋め尽くすなど、現在の経済体制に対する不満が高まっている。
ギリシャだけでなく、世界各地の労働者が、彼らが言うところの「平均的な労働者の労働を搾取することで、富裕層に利益をもたらしている今日の経済のあり方」に異議を唱えている。現在も続いている「アラブの春」に鼓舞された世界的な抗議の波は、チュニスから、マドリッド、ニューヨーク、北京と世界各地の首都を席巻している。
今日、世界の失業者が大恐慌時代のピーク時に近い過去最高の2億人となる中、100カ国以上において数百万人の労働者が「ディーセント・ワーク世界行動デー(10月7日)」に合わせて、各国政府に対して、経済復興にもっと力を入れるよう強く要求した。
「151カ国・地域に301の全国組織を擁する国際労働組合総連合(ITUC)は、4回目となる『ディーセント・ワーク世界行動デー』を通じて、『世界経済を今日の停滞と景気後退から脱却させ、世界的な貧困を削減するための安定雇用を創出し、質の高い公共サービスを維持するための資金を捻出するために、金融取引税の導入を含む効果的な金融規制を実施するよう訴えています。』とITUCキャンペーン担当のクリンティン・ブロム氏は語った。
「2008年に現在の経済危機が始まって以来、世界の失業者数は2億人を超えました。毎年数千万人の若者が労働市場に流入してきますが、各国政府は既に数百万人の失業者が溢れている状況の中で、若者達の将来を安定させるための職場を提供できないでいるのです。」とシャラン・バロウITUC委員長は語った。
「ウォール街の金融大手や米国商工会議所、世界の提携組織は、各国政府に対して、労働者の賃金カットや金融保護を一層強化するよう圧力をかけています。」とバロウ委員長は付加えた。
「失業者数が急増する一方で、数百万人の労働者が不安定かつ低賃金で危険な仕事に追いやられています。」とバロウ委員長はIPSの取材に応じて語った。
例えば2008年の世界的な金融危機から未だに脱却していないメキシコの場合、金融危機以来失業者が増加し、インフォーマル部門(家庭内の労働・路上販売・農業など、監督や統計の対象となっていない部門。労働法の対象から外れている場合が多い:IPSJ)の雇用が激増した。
メキシコの政府統計局(INEGI)によると、今年の失業率は5.79%で、これはメキシコの総人口1.12億人に占める経済活動人口4900万人の内、実に260万人が働いていないことを意味する。さらに1340万人がインフォーマル部門で働いている現状を考慮すると状況はさらに深刻である。
一方、失業率が低下してきているアルゼンチンのような国においても、インフォーマル部門の危険な仕事に従事する労働者が急増するという深刻な危機に直面している。現在労働人口の34.5%がインフォーマル部門に従事しているとみられているが、この統計には同部門が大半を占める農村部の統計が含まれていない。
南米諸国が失業問題に苦しむ一方、欧州では中・東欧諸国が欧州連合(EU)の中でも最悪の失業率を記録している。EUの統計機関Eurosatによると、スロバキアの失業率は13.4%、ハンガリーは10.3%、バルト諸国のリトアニアは15.6%、ラトビアは16.2%である。
こうした中、様々な部門の労働者が欧州各地で、政府の財政カット、賃金削減、労働政策に抗議する、ストライキや集団辞職等の一連の争議行動を起こしている。
今月初め、ハンガリーでは、労働組合の活動家らが国会議事堂前に集結し、ヴィクトル・オルバーン政権の政策は、富裕層に利益をもたらす一方で低賃金労働者を差別するものだとして抗議の声を上げた。
さらに隣国のスロバキアでは、数千人の国立病院に勤務する医師達が、低賃金の原因となっている政府による少ない予算配分や、労働基準法を破る不当に長い勤務シフトの強制等の過酷な労働条件に抗議して、集団で辞表を提出した。また医師達は、政府が国立病院をより収益重視の運営体制に改革するとして物議を醸している病院医療改革を止めるよう、政府に要求している。
スロバキアの医師達による行動は、数か月前にチェコ共和国の医師達が政府に医療労働環境の改善を約束させた抗議行動に倣ったものであり、今後スロバキアの看護婦組合がこの流れに続くとみられている。
また、欧州最貧国で経済危機後の国際通貨基金(IMF)による支援条件として政府に課せられた緊縮財政のもとで厳しい経済運営を強いられているルーマニアでは、今年になって労働組合による大規模な争議が起こっている。3月には8000人を超える労働者が、政府による労働法改正案は実質的に新規労働組合の結成を不可能にし、集団交渉権を企業単位に引き下げることを目論んでいるとして、デモ行進を行った。
ITUCによると、10月7日に世界各地で実施された「ディーセント・ワーク世界行動デー」関連の抗議行動の中には、東日本大震災・津波後の復興活動に従事する日本人労働者や2014年FIFAワールドカップ及び2016年のオリンピック関連の施設建設に従事するブラジル人労働者によるものも含まれていた。
「ディーセント・ワークとは、人並みの生活を送るための最低限の条件が満たされた、まともかつ安定した雇用のことであり、今、緊急に必要とされているものなのです。」とメキシコの労働リサーチ・組合相談センターのアレハンドロ・ヴェガ氏はIPSの取材に応じて語った。
「メキシコの賃金水準は下落したまま回復していません。実質賃金は1982年を基準にすると70%下落しており、とりわけ女性と若者が、経済不況の影響を直接的に受けています。最近の労働統計によると、3000万人にのぼる14歳から29歳の若者の内、150万人が働いていない状況にあります。」
ITUCによるとディーセント・ワーク課題は、1999年から国際労働機関(ILO)の構成主体(各国政府、労働者、使用者)による議論が行われその最終文書は2005年の国連世界サミットにおいて発表され150カ国の指導者の支持を得た。各国政府はこの最終文書を通じて、国内及び国際政治においてディーセント・ワークと生産的な雇用を中心課題に据えることを公約した。
しかしディーセント・ワーク課題は、その後の重要な開発協力政策の大半に含まれていない。さらに2005年の「援助の効果にかかるパリ宣言」や、2008年の「アクラ行動計画」のような重要合意にも、ディーセント・ワークに関する条項は全く欠落しているのである。
「韓国のプサンで開催予定の『第4回援助効果向上に関するハイレベルフォーラム(HLF4)』を2か月後に控えて、このディーセント・ワークという重要課題を国際開発のアジェンダに盛り込む機会がやっと訪れたのです。」と、国際開発協力ネットワーク(TUDCN)のコーディネーターであるジャン・デレイメーカー氏は語った。
「益々多くの人々が、自らや子孫の幸福が人質とされることを拒否しているなか、私たちは労働者のディーセント・ワーク確保のための反撃の準備を着々と進めています。」とITUCのバロウ委員長は語った。(原文へ)
INPS Japan