【ブラワヨ/バンコクIPS=ブサニ・バファナ】
バンコクの街頭からワシントンの権力中枢に至るまで、異議を唱える市民社会の空間が急速に縮小している。権威主義体制は反対派を沈黙させているが、それによって結果的に腐敗を助長し、不平等を拡大させていると、世界的な市民社会連合が警告している。
警告を発したのは、世界市民社会連盟(CIVICUS)事務総長のマンディープ・ティワナ氏である。彼は「市民社会が権力者にとって脅威とみなされつつあるという憂慮すべき傾向がある。」と指摘する。
CIVICUSによると、権威主義政権による弾圧の波が腐敗と不平等の拡大を直接的に引き起こしているという。
「現在、世界における民主主義の質は非常に低い水準にある」とティワナ氏はIPSの単独インタビューで語った。「そのため、市民社会組織は権威主義的指導者にとって脅威と見なされ、攻撃の結果として腐敗が増大し、包摂性が失われ、公的生活の透明性が低下し、社会の不平等が拡大している」。
同氏の発言は、11月1日から5日まで開催される第16回「国際市民社会ウィーク(ICSW)」を前にしたものである。CIVICUSとアジア民主主義ネットワーク(ADN)が主催する同会議には、活動家、市民団体、学者、人権擁護者など1300人以上が参加し、市民の行動力を高め、強固な連帯を築くことを目的としている。ICSWは、数々の困難にもかかわらず市民的自由を守り抜き、顕著な成果を上げた活動家や運動に敬意を表する場でもある。
世界の7割超が「抑圧」か「閉鎖」状態
CIVICUSモニター(CIVICUSと20以上の団体による共同調査)によると、198の国と地域のうち116で市民社会が攻撃を受けており、表現・結社・平和的集会の自由が大きく制限されている。
「市民社会の活動家や組織のリーダーであることが、かつてなく危険になっている」とティワナ氏は語る。「政府は、透明性を求めたり有力者を批判したりする団体への資金提供を止め、多くの組織が資金難に陥っている」。
CIVICUSは市民的自由を「開放」「限定」「阻害」「抑圧」「閉鎖」の5段階で分類している。驚くべきことに、世界人口の70%以上が「抑圧」または「閉鎖」の国で暮らしているという。「これは民主主義的価値、権利、説明責任の後退を意味する」とティワナ氏は述べた。
弾圧の道具とその影響

今回のICSWは「市民の行動を祝福する――今日の世界における民主主義、権利、包摂を再構築する」をテーマに開催される。
政府は多様な手段で異議を封じている。国際資金を受け取る市民団体を阻止する法律を制定する一方、国内資金も制限している。さらに、政府を監視し透明性を促す団体の独立性を奪う法制度も導入されている。
「権力に真実を突きつけ、高位の腐敗を暴き、ジェンダー平等や少数派包摂など社会変革を求める者は、烙印、脅迫、長期拘禁、暴行、さらには殺害といった深刻な迫害に直面する」と同氏は語る。
多国間主義の崩壊と一国主義の台頭
ティワナ氏は、国際法と多国間主義の崩壊が市民社会の権利を脅かしていると警鐘を鳴らす。
「パレスチナ、コンゴ、スーダン、ミャンマー、ウクライナ、カメルーンなど、世界各地で政府は国際規範を無視している。権威主義体制は他国の主権を侵害し、ジュネーブ条約を軽視し、市民への攻撃や拷問、迫害を正当化している」と述べた。
このような多国間体制の崩壊により、人権よりも狭義の国益を優先する「取引型外交」が台頭している。強国同士が公的政策を操作して富と権力を増大させるなか、市民社会が。その腐敗関係を暴こうとすると、攻撃の標的にされる。
「権力者と富裕層が結託し、公共政策を自らの利益のために歪めている。その結果、こうした腐敗を暴こうとする市民社会が攻撃されている」とティワナ氏は述べ、メディアやテクノロジー分野の大部分が寡頭勢力に支配されている現状を懸念した。
中国やルワンダなど、体制は異なれどもともに強力な権威主義国家であり、市民社会による説明責任の追及に敵対していると指摘した。さらに2025年のドナルド・トランプ米大統領の再登場が「米国民主主義の基盤を打ち砕いた」と批判し、「米国はもはや国際的に民主的価値を支援せず、国内でもメディア攻撃や市民社会の資金削減が進んでいる。」と述べた。
その影響は世界に波及し、エルサルバドル、イスラエル、アルゼンチン、ハンガリーなどで同様の弾圧が強まっているという。
抵抗は続く
弾圧や脅威にもかかわらず、市民社会は権威主義体制に抗して闘い続けている。ネパールやグアテマラの大規模な反腐敗デモ、バングラデシュやマダガスカルでの民主化運動などがその例である。
「人々は信じるもののために立ち上がり、隣人が迫害されているときに声を上げなければならない。平和的な抗議を通じて不正義に立ち向かう勇気を失ってはならない」とティワナ氏は訴える。
気候変動交渉への市民社会の参加制限について、同氏はブラジルで開催されるCOP30に希望を見出している。「これまでのCOPは、アゼルバイジャン、UAE、エジプトといった“石油国家”で開かれ、市民社会が抑圧されてきた。しかし、ブラジル政府は民主的価値を重んじ、市民社会を交渉の場に迎え入れるだろう」と述べた。
ただし、問題は会議後にあると指摘する。「発表される削減目標が野心的であっても、それを実行する政府が市民社会や国民の福祉を顧みない場合、意味を持たない」。
若者が示す希望と課題
若者たちは希望の灯をともしている。フライデーズ・フォー・フューチャーやブラック・ライブズ・マターなどの運動は、連帯と統一行動の力を示してきた。しかし、これほどの抗議行動にもかかわらず、同規模の変化は起きているのか? ティワナ氏は「残念ながら、世界では軍事独裁が増加している」と認めた。国際社会が人権や民主的価値を擁護する意欲を失いつつあるためだという。
「紛争、環境破壊、極端な富の集中、高位の腐敗はすべて相互に関連している。より多くを所有しようとする人間の欲望が根底にある」と彼は語る。
世界の優先順位を問う
ティワナ氏は世界の矛盾をこう指摘する。「現在、世界の年間軍事費は2.7兆ドルに達する一方で、7億人が毎晩空腹のまま眠りについている。」
「私たち市民社会は、こうした腐敗した関係構造を暴こうとしている。平等、公正、平和で持続可能な社会を築くための闘い―これこそCIVICUSが最も重視する課題であり、国際市民社会ウィークで議論していくテーマである。」と結んだ。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau
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