地域アジア・太平洋アジアのリーダーが域内に焦点をあてた反核キャンペーンを開始

アジアのリーダーが域内に焦点をあてた反核キャンペーンを開始

【国連IPS=タリフ・ディーン】

核兵器国が最も集中しているアジア・太平洋地域の政治・外交・防衛リーダー(核保有国である中国、インド、パキスタンを含む30カ国から30名)が、まずは足元のアジア・太平洋地域を手始めに、世界で最も破壊的な兵器の廃絶を支援するキャンペーンを開始した。

このグループを招集したギャレス・エバンズ元オーストラリア外相は12日、「核兵器を廃絶しようという探求は、アジア・太平洋地域の政策責任者による決然とした深い関与なくして、成功の陽の目を見ることはあり得ません。」と語った。

世界の核兵器保有国は、-公式、非公式を問わずに見れば-アジア地域(中国、インド、パキスタン、そしておそらく北朝鮮)に最も集中している。

 「核兵器は、発明されなかったということにはできないが、化学兵器や生物兵器の場合と同様に、非合法化することは可能だし、そのようのにしなければならない。」と新たに発足した「核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)」のステートメントは述べている。

また、ステートメントには、5名の元首相と10名の元外相・国防相の署名が記載されており、「私たちはアジア・太平洋地域における変革を目指して取り組む特別な責任があります。」と記されている。

署名人には、ジェームズ・ボルジャー元ニュージーランド首相、マルコム・フレーザー元オーストラリア首相、福田康夫元首相、ジョフリー・パーマー元ニュージーランド首相が含まれている。

ステートメントは、主にアジアに焦点をあてたもので、「世界の経済、政治、安全保障の重心が否応なくこの地域にシフトする中、利害関係を深めるこの地域のリーダーが、安全な世界秩序を実現するために、様々な意見、政策提言、ビジョンを提供する義務も相当大きなものとなっている。」と述べている。

今日ではアジア地域で起こったことが、世界の核問題のあらゆる側面に影響を及ぼすようになっている。

「私たち(=アジア・太平洋地域)は、これから進むべき道として、ラロトンガ条約(=南太平洋非核地帯条約)とバンコク条約(=東南アジア非核地帯)を締結し、2つの非核地帯を創設する姿を見せてきました。しかし一方で、私たちは南アジアと朝鮮半島という世界で最も核衝突の緊張が高まっている2つの地域の姿も見せてきたのです。」
 
核政策法律家委員会(LCNP)事務局長のジョン・バローズ氏はIPSの取材に対し、「エバンズ元外相は、極めて重要な時期にこのAPLNイニシアチブを立ち上げたことになります。」と語った。

バローズ氏は、「この重要な地域には、パキスタン・インド間の核軍備競争や北朝鮮の核兵器開発計画など、解決すべき非常に深刻な難問が存在しています。」と語った。

またバローズ氏は、「アジア・太平洋地域が全体として核エネルギーへの依存を強めていることも、そうした難題の一つです。」と付加えた。

「韓国と米国は現在、韓国が強く希望している(米国は反対している)核燃料の国産化問題について協議を行っています。」とバローズ氏は指摘した。

「韓国が核燃料を生産する能力を獲得すれば、北朝鮮の核武装を解除しようとする試みは後退を余儀なくされるでしょう。」とバローズ氏は付加えた。

この点については、核燃料生産を国際機関或いは多国間の管理下に置くというALPNの提案は、部分的な解決策を提供するものかもしれない。

「しかしALPNは、原子力エネルギーから遠ざかるよう推移させるというより根本的な解決策については避けています。」とバローズ氏は語った。

またステートメントは、「現在世界に存在する核兵器は約23,000発で、破壊力は広島に投下された原爆の15万倍に相当する。」と指摘した上で、「1946年以来核兵器が使用されない状態が維持されてきているが、これは核兵器の管理の賜物というよりもむしろ幸運に依るところが大きい。」と述べている。

さらにステートメントは、「今日の世界には、多数の核兵器保有国と地域レベルの深刻な対立が存在するほか、(核兵器を管理する)軍の指揮系統のレベルもまちまちなのが現状である。また、新たなサイバー技術にも潜在的な不安定要素が残っており、核兵器の近代化(より小型化されたものや潜在的により使用しやすく改良されたもの)開発も引き続き進められている。こうしたことから、核兵器が使用されないという幸運が今後も継続されると想定することは不可能である。」と警告している。

東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動局長は、IPSの取材に対して、「『核兵器なき世界』を実現するという目標を達成するうえでアジアに重要な役割があるのは明らかです。」「この点についてAPLNステートメントに示された見解を支持します。」と語った

また寺崎氏は、「ともに努力して懸念される脅威を弱めるとともに信頼を構築することが極めて重要」と指摘し、そのためには、「外交、学術、文化等、あらゆるレベルでコミュニケーションのためのチャンネルを開拓し維持していくことが不可欠です。」と語った。

「こうした不屈の忍耐強い努力をもってしてはじめて、各国政府を核兵器の保有や維持へと駆り立てている恐怖や不信の壁を突き崩すことが可能となるのです。」と寺崎氏は語った。
SGIは、「核兵器のない世界」実現を目指した活発な運動を展開している。

また寺崎氏は、最終的には、信頼を構築する重層的な努力が、南アジア及び北東アジアにおける核武装解除を成し遂げるうえで、鍵を握ることになるだろうと語った。

さらに中東では、核兵器保有を明かさないイスラエルが、事実上唯一の核兵器保有国として優位を確保してきた。

しかしこうしたイスラエルの優位も、西側欧米諸国が核兵器開発寸前にあると主張しているイランに脅かされている。一方イランは核兵器開発疑惑を一貫して否定している。

核不拡散条約(NPT)において公式に認定されている核兵器5大国は、同時に拒否権を有する国連安全保障理事会の常任理事国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)でもある。

またバローズ氏は、ALPNの結成は、2010年の新START合意(米露間の控えめな核兵器削減合意)以降勢いを失っていた世界の軍縮を目指す取り組みにとって、新たに士気を高める歓迎すべき出来事ですと語った。

ALPNは、無差別に非人道的な核兵器を使用することは、国際人道法のあらゆる根本原則に対する侮辱であると述べている。

「ALPNは、世界的な核兵器禁止について交渉を開始するよう主張することまではしなかったが、潘基文国連事務総長が提案している核兵器禁止条約(NWC)の中身について協議するよう呼びかけています。」とバローズ氏は語った。

寺崎氏は、「北東アジアにおいては、平和団体、信仰を基盤とした団体(FBO)、市民団体に加えて、広島市や長崎市のような地方自治体が、各々独自の強みや関心に基づいて活動を展開しています。」と語った。

「こうした活動主体に共通する強みは、国家の枠組を超えてものごとを見据え、さらに、そのスタンスや政策から様々な程度で独立しつつ、一般市民の関心を代表する可能性を持っている点にあります。」と寺崎氏は語った。

北東アジアでは、こうした活動主体による国境を越えたコミュニケーションや協力の動きが広がり、長年に亘る外交的な行き詰まりの打開に寄与する可能性さえ持つようになってきている。

「私は、南アジアの市民社会運動においても、これと同じようなあるいはそれより大きな可能性があるものと信じたいと思います。」と寺崎氏は明言した。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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