SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)「言葉より行動」を促したIPCC報告書の警告にオーストラリアとニュージーランドが反応

「言葉より行動」を促したIPCC報告書の警告にオーストラリアとニュージーランドが反応

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が出した最も包括的な報告書が、海水面と気温の上昇によって島々が水没し居住空間が失われかねない太平洋地域の国々に厳しい警告を発した。しかし、オーストラリアとニュージーランドというこの地域2大国の反応は、即座に地域を救う行動に移るというよりも、自己弁護に終始するものだった。

温暖効果ガス削減のための行動をとるように環境運動からプレッシャーを受けている豪州のスコット・モリソン首相は次のように反応した。「計画もなしに(温暖効果ガスを減らすための)目標に関して豪州が白紙委任することはない。豪州は新たな技術をもって問題に対処する。」しかしこの発言については、豪州が新たなグリーン技術を世界に売り込めるようになるまでの単なる時間稼ぎ戦略ではないかとの見方もある。

他方、ニュージーランドでは、温暖効果ガス削減に向けた今の政府の目標は「ふた政権も前」に決められた目標だと科学者は批判している。これに対してジャシンダ・アーダーン首相は、現在「排出削減と気候変動関連予算」を作成してIPCCの知見に対応しようとしている最中であり、そうした批判は当たらないと反論している。

New Zealand Prime Minister Jacinda Ardern, photographed in Tauranga, New Zealand, 29 August 2018./ By Newzild – Own work, CC BY-SA 4.0

アーダーン首相は「目標を大幅に引き上げ、削減を大幅に進める努力をしようとしている時に、暫く前に立てられた目標だからということでニュージーランドの取組みを判断するのは不公平だ。」と述べるとともに、同国は農業を排出権取引スキームに入れ込むことを決定しており、「これはまだどこの国でもやっていないことだ。」と指摘した。

排出権取引は、汚染物質の排出削減に向けた経済的なインセンティブを与えることで汚染を抑えようとする市場を基盤としたアプローチである。

ビクトリア大学ウェリントンの教授(雪氷学)で、今回のIPCC報告書のうち海洋に関する章の執筆を主に担当したニック・ゴリッジ氏は、「最悪のシナリオが訪れるかどうかは現時点では不透明だが、間違いないのは、地球の海水面の高さの平均は今後数世紀で上がり続けるということだ。」と指摘したうえで、「私たちが今すぐに温室効果ガスの排出を集団的に抑制できるかどうかに、このことの帰趨はかかっている。背後にあるメッセージは同じものだ。すなわち、待てば待つほど、悪い結果が訪れる。」と説明している。

この間、ツバルキリバスのような南太平洋の小島嶼国は、21世紀が終わる前に国が海面下に沈んでしまうことを懸念し、人口を移転させる計画を練っている。

2017年10月、アーダーン首相率いる労働党新政権は、太平洋の島嶼国からニュージーランドに毎年100人の環境難民を受け入れる人道ビザの発行を実験的に行うと発表した。しかし、島嶼国側がそのようなビザを望んでいないことが明らかとなりまもなく撤回している。島嶼国側は、そうしたビザ発行を考えるよりも、温室効果ガスの削減と、対応策実施への支援を行うこと、難民の地位を与えるのではなく法的な移住の道を探ることの方が重要だとニュージーランドに訴えている。

18カ国で構成される「太平洋諸島フォーラム」のヘンリー・プーナ事務局長は、世界は気候大惨事の瀬戸際にあり、太平洋を含めた世界全体で壊滅的な影響を引き起こすと予想される動向を反転させるための行動には、僅かな余地しか残されていないと警告している。太平洋島嶼国の人々は、100年に1度しか起きないような極端な海水面の上昇が、21世紀の末にかけて毎年起きるというIPCC報告書の知見を受けて、慄いている。

プーナ事務局長は、政府や大企業を含めた世界の主要な温室効果ガス排出者は、進行中の環境危機に既に直面している人々の声に耳を傾けるべきだと訴えた。同氏はラジオ・ニュージーランド(RNZ)の番組の中で、「口先ばかりで行動を伴わないのはもうたくさんだ。もはや言い逃れは許されない。今日の私たちの行動が直ちに帰結をもたらし、将来にあっては、人類すべてが背負わなければならない帰結をもたらす。」と指摘したうえで、「人々が行動すれば、気候変動をもたらしている要素を反転させることができる。」と語った。

IPCC最新報告書は、前回出された7年前以降に世界で起こった環境の変化を考慮に入れ、(産業革命前に比べて世界の平均気温が)「1.5度以上の上昇」に伴って起きる最悪の環境災害を避けるために今後急速に温室効果ガスを削減する必要性を強調した。豪州の現在の削減目標は、2~3度の気温上昇を引き起こしてしまうもので、IPCC報告書は自然災害の連鎖を引き起こすレベルだと警告している。

僅か1年前、豪州ではこの100年で最悪の山火事が発生し、推定34人が死亡、1860万ヘクタールが焼け、農地や地域コミュニティーに数十億ドルの損害を出した。今年初めには、豪州政府が世界遺産であるグレートバリアリーフを「危機遺産」に格下げする勧告をユネスコから受けたが、強力なロビー活動を展開してかろうじてその動きを阻止することに成功している。

Photo: Australian bushfires: Source: East Asia Forum

他方、豪州で「ブラバス鉱業資源」として運営されているインド企業「アダニ」社は、クイーンズランド州で地域社会からの激しい反対運動にあっている。同社は6月、カーマイケル炭鉱の操業を始めており、インドへの初めての海上輸送が今年末に開始されると発表した。年間1000万トンの石炭を輸出するだけの買い手はすでに確保されており、この石炭は「クリーンエネルギー」ミックスに資する高品質の石炭であると同社は主張している。「インドは必要なエネルギーを手にし、豪州はこの中で雇用と経済的な利益を手にする」とブラバス社のCEOデイビッド・ボショフ氏はウェブサイトで述べている。

IPCC報告書が発表される以前ですら、モリソン政権のスタンスは、世界を救うために豪州の納税者に負担を強いるようなことはしない、インドや中国のような国々がグローバルな温室効果ガス削減のためにより大きな役割を果たすべきだ、というものであった。

豪州石油生産探査協会のアンドリュー・マコンビル会長が『シドニー・モーニング・ヘラルド』に寄せた文章は、こうしたモリソン政権の立場を反映したのものだ。マコンビル会長は、豪州の石油産業は、彼が言うところの「クリーンエネルギーミックス」を提供するものであり、単純に炭化水素を禁止して楽観できるものではない、というのである。

「あまりにも長い間、気候変動をめぐる議論は単純な『善悪対立』のそれであった」「SUV車に乗るのを諦め、飛行機で世界を旅するのをやめ、働き方や料理・暖房の仕方を変える、―それに資源産業全体を参加させろ。さもなくば排出実質ゼロは達成できないというものであった。」とマコンビル会長は指摘した。

マコンビル会長はまた、石油産業がなくなれば、政府は「病院や警察署、道路、学校を建設する」ための同産業からの納税660億ドル、農村開発に必要な投資4.5億ドル、8万人の直接・間接雇用が失われると主張した。

マコンビル会長は、温室効果ガス削減技術に関する産業からの利益を得て操業を多様化することを示唆しながら、石油産業は排出削減技術に多くの投資を行っていると述べた。なぜなら、「もし排出を減らそうと思うのなら、中国やインドのような主要な排出国においてより多くの対処が求められる」からだ。

IPCC報告の主要な著者の一人であるカンタベリー大学のブロンウィン・ハーワード教授は、先進国には行動へのプレッシャーがかかっており、11月にグラスゴーで開かれる第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において耳障りのいい発言をするだけではもはや十分ではない、と述べた。同教授はまた、「もし世界が私たち(ニュージーランド)と同じ行動を取ったとしたら、地球の温度は3度上昇する。」と指摘したうえで、「必要なのは、都市での公共交通の無償提供、渋滞税の導入、カーボンニュートラルな雇用の創出などの行動をとることだ。」と語った。

「したがって、考えをつなぎ合わせ、社会開発省がやっていることを環境省とつなぎあわせ、人々のために意味のある新しい低炭素経済とはどんなものかを考え始めなくてはならない。」と、ハーワード教授は論じた。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

太平洋地域の科学機構である「パシフィック・コミュニティ」の上級顧問であるコーラル・パシシ氏は、「この地域にとってこれからの10年がカギを握る」と指摘したうえで、「今日までになされた研究の全てが、気温が1.5度以上上昇すれば大変なことになると示している。そして、つい最近まで、各国が公約を果たしたとしても、今後10年以内に2.5度以上上昇してしまうことが明らかになっている。」と警告した。

「もし2度以上上昇すれば、世界のサンゴ礁の99%が死滅することになるだろう。これに食料を依存している太平洋地域の人々の生態系全体に影響を及ぼすことになる。」パシシ氏は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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