【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】
オーストラリアでは、英国植民地時代から先住民族のアボリジニは遺伝子的にアルコールに弱いとされてきた。しかし、オーストラリア国立大学アボリジニ経済政策研究センターのマギー・ブラディ博士は、「オーストラリア先住民族のアルコール中毒は遺伝子要因に起因するとの考えを裏付ける調査証拠はない。もしあったとしても、その他の要因を排除した極端な論だと思う」と語る。
ブラディ氏は最近、アボリジニとアルコールの関係にまつわる通念を論破するため6巻本を出版した。その中で特に強調されるのは、アボリジニがアルコールを知ったのは1788年にヨーロッパ人がオーストラリアに入植した後で、それもアルコールをあてがわれたという点だ。同氏は、「遺伝説は18世紀に広がった植民地主義的見方の一環である。アフリカでも北米、太平洋でも先住民族はアルコールに溺れやすいと考えられていた」と語る。
しかし、この考えが過去からのものだとしても、オーストラリア先住民族のアルコール中毒は今も続いている。
国立薬物研究所(NDRI)が2007年2月に発表した報告書によると、2000年から2004年のアルコールを原因とする先住民族死亡者は非先住民の死亡の2倍に当たる50万人という。(オーストラリアの人口は2,100万人)千人当たりの死亡者は、先住民族で4.85人、非先住民民族で2.4人となる。他の健康指数でも同様の傾向が見られ、例えば先住民族の平均余命は非先住民民族より17年短い。
ノーザン・テリトリー州の州都ダーウィンを拠とするアボリジニ・アルコール問題評議会(CAAPS)のジュディー・マケイ氏は、「最大の原因は社会/環境だと思う。彼らの困難な状況を思えば、そこから抜け出すために酒に頼るのも理解できる」と語る。
西部オーストラリアの先住民族で国家先住民薬物アルコール委員会の委員長であるテッド・ウィルクス助教授も、「社会の貧困層は逃避の方法を探す。アルコールおよび薬物は、貧困あるいは抑圧から解放される手段である」と語っている。
ブラディ氏は、「この通念は、先住民族を型にはめ、固定概念に閉じ込めようとするもの」と指摘。マケイ氏は、「先住民族の前進のためにも、この通念を覆すことが大切」と主張している。
アボリジニのアルコール中毒問題について報告する。
翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩
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