【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】
核が人間や環境に及ぼす壊滅的な帰結を思い知らされることとなった福島第一原発事故から5年目、そしてチェルノブイリ原発事故から30年目の節目となった今年も残り僅かとなるなか、核兵器なき世界を達成しようとの決意は、これまでにも増して強いものとなっている。
「核兵器を禁止し、完全廃絶につながる法的拘束力のある措置(=核兵器禁止条約)を交渉するよう呼びかけた国連決議A/C.1/71/L.41が10月27日、第71回国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)で採択された。多国間核軍縮交渉を前進させることに賛意を示したのは、北朝鮮を含む123カ国。反対は38カ国、棄権は16カ国だった。
一方、かつて核軍縮を主導していたオーストラリアは、アジア太平洋地域における隣国26カ国が、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海諸国とともに決議に賛成する中、反対票を投じた。
「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)豪州支部長のティム・ライト氏は、「もしオーストラリアが、長く待ち望まれているこの条約に反対するのなら、この地域の他の国々から爪はじきにされるリスクを冒すことになります。オーストラリアが、道徳的に正しく必要なことのために立ち上がるのではなく、少数の核武装国と、核兵器は正当なものであると主張するその他の国々の側につくことを選んだのは、極めて残念です。」と語った。
ライト氏はまた、「核軍縮に関する国連公開作業部会(OEWG)を失敗させようとしたオーストラリアの試みは異例の行動であり、手ひどいしっぺ返しを食うことになりました。この公開作業部会では、核兵器を違法化する条約の交渉を2017年に開始するとのより明確な勧告がなされ、交渉開始に向けたその他の国々の決意をかえって強化するものになったのです。」
この決議は、2013年と14年の間にノルウェー、メキシコ、オーストリアで開催された核兵器の人道的影響に関する3回の政府間会議の帰結である。これらの会議は、非核保有国が軍縮分野でより積極的な役割を果たす道を切り開いた。
ライト氏は、オーストラリア政府に対して米国の核兵器に依存する政策を直ちに止めるよう呼びかけつつ、「拡大核抑止というこの危険な政策は、軍縮にとってマイナスであり、拡散を促進することになります。この大量破壊兵器は正当かつ必要、有益なものであるとのメッセージを他の国々に発することになるのです。こうした政策を正当化できる余地はありません。近隣のどの国も、核兵器による保護を主張していません。」と語った。
核保有国と、安全保障を米国の拡大核抑止に依存しているオーストラリア・日本・韓国のような国々は、決議に反対した。
核兵器の問題に関するこの30年の社会的・法的歴史を反映して、ニュージーランドがこの決議に賛成したことは注目に値する。ライト氏は「かつては核軍縮を支持していたオーストラリアは近年、この問題に関する原則を完全に打ち棄ててしまい、あらゆる機会をとらえて、この最悪の大量破壊兵器を継続的に保有し場合によっては使用することを擁護するようになってしまいました。」と語った。
ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、タイは、ニューヨークで2017年3月と6月に予定されている交渉会議において主要な役割を果たすと見られているアジア・太平洋地域の国々である。
核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)ニュージーランド支部のメリヤン・ストリート元会長はIDNの取材に対して、「オーストラリアが決議L41に反対したことに衝撃を受けました。(この投票行動について)合理的な説明があるとすれば、それは明らかにオーストラリアにとって、米国への忠誠が、その他のあらゆる考慮を上回ったということです。オーストラリアは反核兵器運動の最前線に立ったことは一度としてなく、こうした投票になったのも不思議ではありません。保守的な自由党政権ですから、この問題について勇気ある一歩を踏み出そうとは考えないだろう。」と語った。
採択に参加したアジア太平洋地域の34カ国のうち、反対したのは、オーストラリア、日本、ミクロネシア連邦、韓国の4カ国であり、中国、インド、パキスタン、バヌアツの4カ国が棄権した。
「これほど戦略的で、きわめて大きな影響を与えかねない問題に関して、すぐ隣の国々とも歩調を合わせないのは無責任と言わざるを得ません。オーストラリアは、地域安全保障の議論などで、アジア太平洋諸国から離れるのではなく、むしろ関与するように相当の力を入れていくべきです。」とストリート元会長は語った。
オーストラリアは、化学・生物兵器や地雷、クラスター爆弾の全面禁止は支持してきた。オーストラリア外務・貿易省の報道官はIDNの取材に対して、「オーストラリアは、効果的な方法で核兵器の廃絶を追及することにコミットしています。しかし、核攻撃の危険性が存在する限り、米国の拡大核抑止はオーストラリアの安全保障上の利益にかなうものなのです。」と語った。
ローウィ国際政策研究所(本部シドニー)が毎年実施している世論調査の2016年度版によると、米国との同盟に対する支持率は9%低下している。回答者の71%が米国との同盟はオーストラリアの安全保障にとって「かなり」あるいは「まあまあ」重要だと答えたが、これは2007年以降で最低の数値(ただし同年の数値より8ポイント高い)だった。
オーストラリア政府は、世界の軍縮・不拡散体制の要である核不拡散条約(NPT)を強化し、2010年NPT運用検討会議の行動計画のように合意済の公約を履行することに、努力が注がれるべきだと考えている。
「核保有国の参加を得ないまま、或いは、国際安全保障環境に対する適切な考慮なしに核兵器禁止条約を追求しても、核兵器廃絶には効果がありません。」と外務・貿易省の報道官は付け加えた。
NPTは核兵器の拡散防止にとって肝要であり、軍縮交渉の基礎であり続けているが、「核兵器禁止条約はNPT第6条履行のための措置です。禁止条約は、核兵器に関する既存の国際法体制の抜け穴を塞ぐことになります。つまり、条約によって、核兵器を使用、実験、製造、備蓄することはどの国にとっても違法行為であることが明白になるのです。」とライト氏は語った。
ライト氏はさらに、「オーストラリアをはじめ核兵器に肯定的な数カ国がNPTへの支持を取り下げてしまったかに見えるのは憂慮すべき事態です。これらの国々は、核軍縮に向けた交渉を誠実に追求することを規定したNPT第6条の義務に従うことを、拒否しているのです。」と語った。
NPTでは、191の全締約国が第6条において、「核軍備競争の早期の停止および核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、ならびに厳格かつ効果的な 国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉をおこなう」ことを約束している。
「1996年に国際司法裁判所が、この交渉を妥結させる義務を締約国は負っているとの勧告的意見を出しました。決議L.41はこの義務に沿い、それに現実的な表現を与えたものです。」と語るのはオーストラリア国立大学クロフォード公共政策校核不拡散・軍縮センターのセンター長のラメシュ・タクール氏である。
NPTに加盟した5つの核兵器国のうち4カ国(フランス、ロシア、英国、米国)は、NPT未締約国であるイスラエルと共に決議に反対した。約260発の核弾頭を保有する中国、100発から120発の核を保有するインド、110発から130発を保有するパキスタンは棄権した。
「核兵器禁止条約という法律それ自体が核軍縮をもたらすわけではありません。しかし、低迷している勢いを取り戻し、禁止から核弾頭の完全廃絶へと核兵器インフラの解体につながるような取り組みを再活性化させる不可欠な要素となり得るのです。」とタクール氏は語った。
タクール氏はさらに、「核兵器の法的禁止は、通常兵器と核兵器との間の規範的境界線をさらに強化し、核兵器不使用の規範を強め、不拡散規範と軍縮規範の双方を再確認するものとなります。従って、核禁止条約はNPTの軍縮目標を補完し、普遍的で非差別的、かつ完全に検証可能な核兵器禁止条約の将来的な制定に向けた努力に推進力を与えることになるのです。」と語った。
オーストラリアは、1973年にNPTに批准して以来、世界的な核問題に対しておおよそ超党派的なアプローチを維持してきた。労働党の上院議員で影の外相であるペニー・ウォン氏が報道発表で述べたように、「労働党は不拡散と軍縮に向けた効果的で実行可能な行動を支持し、これらの目的に向けた道を積極的に追求しつづける。労働党は、軍縮のペースの遅さに対する国際社会の苛立ちを共有しており、核兵器廃絶の大義にコミットし続けている。」
オーストラリア緑の党もまた、ジュリー・ビショップ外相に対して、同国がなぜ決議に反対したのかを説明するよう求めている。
「オーストラリアは核兵器廃絶のための条約に向けた動きを国連総会で支持すべきです。オーストラリアは、外交政策を情勢の変化に対応したものへと変更し、ドナルド・トランプ氏が来年1月に米国大統領に就任する前に、オーストラリアの国益を独自に追求すべきです。例えば、国連憲章の不可侵条項や、東南アジア友好協力条約を順守することなどが含まれます。」とオーストラリアの元外交官であるアリソン・ブロイノウスキー博士はIDNの取材に対して語った。
2014年に「ニールセン」が幅広い年代層を対象に行った世論調査では、オーストラリア国民の84%が、核兵器の法的禁止を政府に求めているとの結果が出ている。
ICAN豪州支部の渉外コーディネーターであるジェム・ロムルド氏はIDNの取材に対して、「オーストラリアにおける活動を通じて、私たちは核兵器を違法化し、絶対悪とみなし、この大量破壊兵器にどんな形であれオーストラリアが関与することを排除する条約に対して世論の圧倒的な支持があると感じています。『関与』とは例えば、北部準州のパイン・ギャップにある米豪共同運営の軍事スパイ基地を通じて米国による核攻撃を支援する行為を指します。オーストラリアは、主要な通信基地であるこの施設のホスト国となることによって米国の戦闘能力の維持を支援し、核戦争の際に核兵器が標的に到達する手助けをしているのです。」と語った。
核保有国は近年、核戦力を近代化し増強する高価なプログラムを追求している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2016年の年次核戦力データによると、世界全体の核兵器の数は減り続けているものの、核保有国のいずれも、予見しうる将来において核戦力の放棄を予定していない。
SIPRIによれば、「2016年初頭時点で、9つの核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が合計で約4120発の作戦運用可能な核兵器を保有している。もしすべての核弾頭を数え上げたならば、これらの国々は合計で約1万5395発の核兵器を保有していることになる。2015年初頭には1万5850発だった。」(原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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