SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)オーストラリア政府は気候変動への対処を怠りトレス海峡諸島民の権利を侵害、と国連が認定

オーストラリア政府は気候変動への対処を怠りトレス海峡諸島民の権利を侵害、と国連が認定

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=クリステン・ライオンズ】

この記事は、2022年9月26日にThe Conversation で初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づき許可を得て再掲載したものです。

国連の委員会は9月23日(金)、オーストラリアの前連立政権が気候危機に十分に対処しなかったことによりトレス海峡諸島民の権利を侵害したと認定する画期的な決定を下した。

トレス海峡諸島民でつくる「グループ・オブ・エイト」 は、オーストラリア政府が温室効果ガス排出削減や、島々の防潮堤の改良などの措置を怠ったと主張した。国連はこの訴えを支持し、申立人らの損害を賠償すべきだと述べた。(

この決定は、しばしば気候危機の最前線にいる先住民コミュニティーが自分たちの権利を守るための新たな道を開くなど、先住民の権利と気候正義における突破口といえるだろう。

アルバニージー政権は、トレス海峡諸島とともに気候変動に対処する公約を表明してきたが、いまや、この可能性と課題に立ち向かわなければならない。

この決定は、なぜそれほど重要なのか?

トレス海峡の諸島民8名と、その子どもたちのうち6名が、2019年に国連に申し立てをし、気候変動が彼らの生活様式、文化および生計を損なっていると主張した。

これは、海面上昇に晒されている低海抜の島の人々が、政府に対して行動を起こした初めての例であった。

申立人であるトレス海峡諸島民は、ボイグ島、ポルマ島、ワラバー島およびマシグ島の4島の出身で、彼らは気候変動に伴う豪雨や嵐により、彼らの住居や作物が壊滅的な被害に遭ったと訴えた。海面上昇によって家族の墓地も洪水に遭った。

申立人の主張の根拠は、脆弱な地域を保護するための緊急行動を求める最新の 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によって裏付けられた。

重要なのは、西側の気候科学よりも、先住民の文化や生態系に関する深い知見が国連の決定にとって鍵となったことである。このことは、先住民の法律、文化、知識、慣習がしばしば排除され、過小評価されてきた広義の国際気候政策からの脱却を示す出来事である。

先住民の権利にとって大きな法的突破口

国連自由権規約人権委員会は、オーストラリアが気候変動の影響からトレス海峡諸島民を保護することを怠り、彼らが自己の文化を享有する権利や、私生活、家族および住居に対する恣意的な干渉から自由でいる権利を侵害したと認定した。

これらの権利はそれぞれ、国連世界人権宣言の第27条および第17条を構成している。訴えは、第6条の生命に対する権利を根拠とした主張もしていたが、これは認められなかった。

国連はこの決定において、トレス海峡諸島民が伝統的な土地と密接な繋がりを持ち、文化的慣習を維持するために健全な生態系が中心的な位置を占めていることを考慮した。陸海にわたる健全な国土と文化とのつながり、および、これらを維持する能力は人権であると認められた。

委員会は、オーストラリアが来年までに四つの島に新しい防潮堤を建設するなど対策を講じているとはいえ、起こりうる人命の喪失を防ぐために追加の措置が必要だと述べた

この結果に対して、「グループ・オブ・エイト」の1人でマシグ島の先住民であるイェシー・モスビーは、次のように語った。

我々の先祖たちは、この画期的な事例を通じてトレス海峡諸島民の声が世界に届いたことを知って喜んでいると思う。(中略)今回の勝利で、私たちは自分たちの島のふるさと、文化そして伝統を子どもや未来の世代のために守っていくことができるという希望を持つことができた。

申立人の代理人を務めた、環境法律団体ClientEarthの弁護士ソフィー・マールジャナックは、この結果は数々の先例を作ったと言う。特に、国際的な裁決機関が以下のことを認定したのは初めてである。

  •  国が不十分な気候政策を通じて人権を侵害したこと
  •  国は国際人権法に基づき、温室効果ガス排出の責任を負うこと
  •  人々の文化に対する権利が、気候の影響によりリスクに晒されていること

 この決定の数カ月後には、エジプトで今年のCOP27の開催が控えている。損害賠償が国際的な気候交渉において意味のある形で含まれることを求める国際的な声は重みを増すだろう。

そうした声の中には、健康、幸福、生き方、文化遺跡、聖地など、経済的なもの以外の損害の認定と賠償を求めるものもある。

先住民の権利にかかわる気候訴訟の増加

トレス海峡諸島の申立ては、急速に拡大する気候に関する訴訟の一部である。世界的に2015年から2022年までの間に、気候変動に関連する訴訟が倍増した

各国政府は、法的アクションの主要なターゲットとなっている。今回の決定を受けて、オーストラリアでも他の国でも同様の訴訟が相次ぐこととなりそうだ。国連委員の1人エレン・ティグルージャは、この決定を説明する際に次のように述べた。

自国の法管轄の下で気候変動の悪影響から個人を守ることができていない国は、国際法の下でも人権を侵害している可能性がある。

「グループ・オブ・エイト」の勝利は、先住民の権利にかかわる同様のオーストラリアにおける事例に繋がっている。例えばティウィ諸島の先住民は、自分たちの島の沖合でガス採掘を行うというエネルギー大手サントス社の提案を退けた

また、クイーンズランド州土地・環境裁判所におけるYouth Verdictの勝訴によって、気候変動の影響に関するファースト・ネーションズの証拠が、クライブ・パーマー氏の保有するワラタ炭鉱に対する訴訟で審理されることを確実にした。

オーストラリアの新政権はどのように反応するだろうか?

国連の委員会は、オーストラリア政府はトレス海峡諸島民に対し、既に被った被害について補償するべきだと述べ、島民コミュニティーと有意義な協議を行い、防潮堤の建設などの安全策を講じることを要求した。

では、この国連の決定は、気候危機が悪化する現在、オーストラリアにおける先住民の権利保護の課題を前進させるものとなるだろうか?

オーストラリアのマーク・ドレイファス司法長官は、政府は今回の決定を検討し、しかるべき対応をすると述べた

今回の展開は、気候政策・計画の一環として先住民の権利保護を保障するようアルバニージー政権に責任を負わせるものとなった。

また、各国政府は気候変動に対して行動を起こさなければならないという明確なシグナルを送った。これは、温室効果ガス排出を削減することだけではなく、より脆弱な地域が既に起きている被害に適応できるように支援を行うということも意味している。

クリステン・ライオンズは、クイーンズランド大学の環境開発社会学教授である。

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