【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】
ICANは軍縮に民主主義をもたらした
反核活動家であり、2013年以来インドでICANのパートナーを務めるビドヤ・シャンカール・アイヤール氏は、100カ国の非政府組織の連合であるICANは「軍縮に民主主義をもたらした」と語った。ICANは、人々の力をうまく活用して、これまでに作られた中で最も破壊的な兵器であり、人類全体に生存上の脅威をもたらす唯一の兵器を廃絶するための取り組みを行ってきた。
ICANは、今回の受賞は「核時代の到来以来、核兵器に対する抗議の声を挙げ、核兵器はいかなる正当な目的にも資することがなく、地球上から永遠に放棄させられるべきだと主張してきた世界中の数多くの活動家や事態を憂慮している市民らのたゆまぬ努力への賛辞だと考えている。」とした。
それはまた、広島・長崎原爆の被害者、世界中の核爆発実験の被害者への賛辞でもあった。彼らの熱のこもった証言と、惜しみない活動こそが、この画期的な合意をもたらしたものだった。
ICANを構成する組織連合のひとつであるカザフスタン「ATOMプロジェクト」の名誉大使で、腕のない芸術家・反核活動家であるカリプベク・クユコフ氏は、核兵器なき世界を実現するために、同プロジェクトやその他の不拡散パートナーと協力してきたことについて、ICANに感謝の意を表明した。
クユコフ氏は、「2012年8月29日にカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領がATOMプロジェクトを開始した直後からICANとの協力関係ができたお陰で、同プロジェクトは世界各地の数多くの反核活動家からの支援を得てきました。」と述べた。
クユコフ氏はさらに「この賞は、核兵器実験の悲劇的な結末について世界に知らしめるとともに、広範な国際社会に核兵器の禁止に向けて決定的な行動をとらせる機会です。」「これこそまさに、ナザルバエフ大統領とカザフスタンの人々が1991年以来、実現を目指して取り組んできたことなのです。」と語った。
核時代平和財団(NAPF)のデイビッド・クリーガー会長は、このノーベル平和賞は「今年ついに採択された核兵器禁止条約に向けてたゆみなく活動してきた世界中の数百というICANのパートナー組織や活動家にとっての大きな名誉である。核兵器廃絶に身を捧げてきた被爆者(広島・長崎原爆の生存犠牲者)にとっては、とりわけ嬉しい出来事だった。」と語った。
NAPFの事業責任者リック・ウェイマン氏は、今年国連で行われた核兵器禁止条約を巡る交渉会議において、ICANの取り組みで積極的な役割を果たした。ウェイマン氏は、ICANの多様な国際活動家チームの一員として、核兵器禁止条約でより強い文言を採用するよう諸国に訴えると同時に、メディアやソーシャルメディアを通してICANのメッセージを広めるのに一役買った。
ウェイマン氏は、「ノーベル委員会がICANの優れた活動を評価してくれたことは、非常にありがたい。核兵器禁止条約の実現は、大胆な戦略と多くのきつい仕事、そして喜びさえももたらしてくれる協働的な取り組みの結果です。とりわけ、数千発の核弾頭を依然として維持している米国において核兵器の廃絶を実現するまでには、まだやらねばならないことがたくさんあります。このノーベル平和賞が世界中でますます多くの人々が核兵器の廃絶に向けて緊急に取り組むことの重要性に目覚めすことを期待しています。この目標は達成はできるし、またそうするつもりです。」と語った。
懸念するNATO、喜ぶ国連
大西洋を跨ぐ軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の見解は異なっている。予想されたことだが、NATOは、核兵器を廃絶する取り組みは、グローバルな安全保障の「現実」を考慮に入れなければならないとして、核軍縮団体であるICANのノーベル平和賞受賞に対して冷淡な態度を示した。
世界の3つの核兵器国(米国・英国・フランス)が加盟しているNATOは、核兵器禁止条約は北朝鮮の核に開発に対する国際的な対応を阻害するリスクをはらんでいるとして、強く批判している。
NATOのジェンス・シュトルテンベルク事務総長は、ノーベル委員会によって軍縮の「問題に焦点が当てられたこと」を歓迎し、「核兵器なき世界に向けた条件を作り出す目標にNATOはコミットしている。」と語った。しかし、核兵器禁止条約は長年にわたる核不拡散の進展を危機に晒すとして、(すべての核保有国が避けた)同条約を改めて批判した。
シュトルテンベルク事務総長は声明の中で、「我々が必要としているのは、核兵器の検証可能かつバランスの取れた削減だ。すべてのNATO加盟国が署名しているNPTこそが、引き続き核不拡散を推進する国際的な取り組みを支える唯一の仕組みであり、NATOは、核兵器が存在する限り『核同盟』であり続ける。」と言明した。そして、「NATOは、核軍縮達成の条件が今日まだ揃っていないことを遺憾に思うが、軍縮への努力は現在の安全保障環境の現実を考慮に入れねばならない。」と述べた。
しかし、国連のトップは、ICANの表彰は、核兵器が人類にもたらしている恐るべき脅威に目を向ける必要性を思い起こさせるものだ、と述べた。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は報道官を通じて発表した声明のなかで、「この賞は、(核兵器が)再び使われれば、人類と環境にどのような結果がもたらされるかを訴え、熱心に努力したことが評価されたものだ。」と述べた。
同声明はまた、「核に対する不安が冷戦以後で最も高い水準にある現在、事務総長は、全ての国々に対して、核兵器なき世界へのビジョンと強いコミットメントを示すよう呼びかけている。」と述べ、「核の悪夢」の脅威を終わらせる緊急性を指摘した。
ICANやその他多くの市民団体の協調的な取り組みは7月、この数十年間で初の核軍縮に関する多国間の法的拘束力ある文書である核兵器禁止条約の採択に貢献した。
また、国連軍縮部門のトップもICANに対して祝意を示し、「核兵器のない世界の達成は国連にとって緊急の優先事項であり続ける。」と強調した。中満泉国連軍縮問題担当上級代表は、ノーベル平和賞がこの問題に弾みをつけることへの期待を表明するとともに、国際社会が、紛争を予防し、国際的緊張を和らげ、持続可能な平和と安全保障を実現するための方法として軍縮を真剣に追求するよう呼びかけた。
世界には依然として1万5000発以上の核兵器が備蓄されており、その多くが高度な警戒態勢下にあり、通告後数分で発射可能な状態にある。さらにこの数カ月間、北朝鮮の核兵器開発を巡る緊張状態が高まっている。
核軍縮は、1946年の国連総会における第1号決議が、核兵器とあらゆる大量破壊兵器を世界から一掃するとの目標を打ち立てて以来、常に国連の目標であり続けてきた。
2015年に締結された(そしてトランプ大統領が嫌っている)イラン核合意の立役者として、イランの外相とともに今年の平和賞の受賞候補者の一人と目されていたフェデリカ・モゲリーニ欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表は、「世界が、新たな核実験と核の危機という脅威にさらされている中、本日、ICANにノーベル平和賞が授与されたことは、国際社会全体の目標であり、長期の平和と安全を確保する道である、核不拡散と軍縮にとって強力な後押しとなる。」と語った。
モルゲリーニ上級代表はさらに、「(核保有国の英国とフランスを含む)EUは、核兵器のない世界を達成するというコミットメントを共有しており、世界中のパートナーと共に、核不拡散と軍縮に向けた日々の努力を継続する。不拡散条約の完全な実施とその評価、包括的核実験禁止条約の発効のために、不断の活動を続ける。そして、朝鮮半島の非核化に向け、政治的解決の道を平和裏に模索しており、イランとの合意が、全ての側により完全に実施されることを担保すべく、努力を継続する。」と語った。
米朝関係を巡るさまざまな反応や不安定さを考えると、核兵器なき世界という目標は、米国のバラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハでの歴史的演説で「核兵器なき世界に向けた具体的措置」を約束した頃に比べれば、もはや手の届くところにはない。オバマ大統領には「国際的な外交と諸国の人々の協力を強化することに並はずれた努力をした」として、2009年のノーベル平和賞が与えられている。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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