SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)|バングラデシュ|「壊滅的」被害をもたらす可能性のある気候変動の緩和に向けて行動

|バングラデシュ|「壊滅的」被害をもたらす可能性のある気候変動の緩和に向けて行動

【ボラIDN=ナイムル・ハク

バングラデシュは、温室効果ガス(GHG)排出によって引き起こされる気候変動の悪影響を最も被る国の一つである。サイクロン、大規模な洪水、暴風雨、河川の浸食、熱波、陸上の広大な地域における想定外の旱魃などの異常気象事象が頻発するようになっている。

バングラデシュの沿岸部では、海面の上昇に伴い、高波とともに陸地に侵入してくる海水がますます内陸部にまで到達するようになり、甚大な農作物の被害とともに農業機会を奪っている。

バングラデシュ沿岸における温室効果ガスの影響はすでに明らかであり、専門家らは、適切な行動が今すぐにとられなければ、その影響は「壊滅的な」ものになると予測している。

自然災害への対応能力を強化しようという取り組みがあるにも関わらず、気候変動は、大きな経済損失や、経済成長の鈍化、貧困削減のペース低下につながっている。

一方、プラス面をみると、非政府組織(NGO)がバングラデシュ政府と協力して、とりわけ、沿岸部における最大の脅威である食料安全保障の問題に取り組むなど、危機回避に向けて取り組んでいることが挙げられる。

気候変動に関する政府間パネルIPPC)によると、2050年までに、バングラデシュの主食であるコメ及び小麦の生産量は、1990年の水準に比べて、米が8%、小麦が32%減少するものと予測されている。

バングラデシュ有数のNGOのひとつであり、主に沿岸部で35年に及ぶ活動歴を持つ「社会変革に向けた沿岸協議会トラスト」(COAST)は、社会の主流から取り残された人々の生活支援を先頭に立って実施してきた。

沿岸部ボラ県の遠隔地で海抜わずか30センチメートルのチャーファソンで活動するCOASTの活動家ムド・ジャヒルル・イスラム氏は、IDN-INPSの取材に対して、「主に海水の浸入が原因で、昔ながらの農業の手法が危機に瀕しています。高濃度の塩分は多くの植物にとって有毒であり、作物を育てる別の方法を見つけ出すことを余儀なくされています。」と語った。

しかし、チャーファソンの農民は、COASTが2003年以来実施している「沿岸統合技術拡大プログラム」(CITEP)の支援を通じて、気候変動に直面した作物生産を改善のための新たな農業手法を習得している。

CITEPは、能力開発プログラムの一環として、さまざまな種類の野菜を栽培するために、幅1メートル、高さ90センチメートルの長く高い畝(うね)を使用するよう、農民に推奨している。畝の間の溝は水で満たし、そこに様々な種類の魚を放流し養殖する。灌漑用水は、メグナ川からの淡水を湛えた近くの湖から引いてくる。

この技術を用いる利点は、暴風雨や高波、洪水の際の氾濫から作物を守り、高濃度の塩分に晒される被害を避けることができる点にある。

チャーファソンでCITECプロジェクトの責任者を務めるミザヌール・ラーマン氏はIDN-INPSの取材に対して、「ベンガル湾に注ぎ込む川の合流地点にあたる同湾から30キロのこうした低地は、高波や暴風に対して脆弱です。従って、新しい農業技術が土地を守るために必要なのです。」と語った。

この代替農法プログラムによって既に利益を得ている地元農民アクタール・ホサイン氏は、「平地で旧来からの農業法に依存するのはもはや不可能です。というのも、海水の浸食が作物をダメにしてしまうからです。この新農業技術は、被害をもたらす天候のリスクから農作物を守ってくれるだけではなく、養殖も可能なことから、個々の農民には新たな追加収入源となっています。」と語った。

この新しい農法はチャーファソンではかなり好評で、既に9000人以上の農民が導入している。また多くの農民は、自助グループを組織し、他の農民からの経験を学ぶ一方、政府は、魚の養殖等、追加収入につながる工夫に対して支援を行っている。

チャーファソン担当の農務省担当官マンズルル・イスラム氏はIDN-INPSの取材に対して、「当初は農民たちが新しい技術に拒否感を示していたため導入には大変苦労しました。しかし今では、新技術の利点を認識し、納得して導入するようになっています。」と語った。

平地における作物の損失は壊滅的なものだ。サディール・アフマド氏は、「3年前、平地の5570ヘクタールに及ぶ広大な地域の作物が、4カ月に及んだ海水の浸入のために壊滅しました。そして今年の初めには、ラザプールとカティヤで河川の浸食のために、広大な土地が飲み込まれるのを目の当たりにしました。広範な地域で農業が甚大な被害を受けたのです。」と語った。

バングラデシュの沿岸部では明らかに海水面が上昇している。同国沿岸部の97.1%と住民3500万人以上が、複数の気候変動の悪影響に対して脆弱であり危険に晒されていると推計・推測されている。

今後30年以上に及ぶ気候変動に対する住民への影響、各国が物理的に気候変動に晒される可能性、そして気候変動への政府の適応能力を評価した「気候変動脆弱性指標」の2014年度版では、バングラデシュが世界で最も気候変動のリスクを受けやすい国だとされている。

COASTと「平等・正義作業部会」の共同報告書『バングラデシュ沿岸部における気候変動の影響と災害への脆弱性』によると、世界的にはCO2やクロロフルオロカーボンの大気中への排出は年率5%で増加している。

Climate Change Vulnerability Index 2015/ Maplecroft
Climate Change Vulnerability Index 2015/ Maplecroft

COASTトラスト事務局長で上記報告書の著者でもあるレザウル・カリム・チョウドリ氏はIDN-INPSの取材に対して、「気候変動はバングラデシュにとっては深刻な問題であり、仮定の分析をしている時間的余裕はありません。被害は既に発生しており、手を拱いていては、『周りの遅い毒薬のように』壊滅的な影響がでるかもしれません。」と語った。

チョウドリ氏はまた、「私たちは、最悪の状況に備えるために、地域社会における能力構築の必要性を強調しています。つまり農村部における能力開発を通じて人口流出を抑えることで、既に人口過剰気味である都市経済への圧力を減じることができるだろう。」能力構築の例としては、塩害に強い作物の推奨、新産業の確立を通じた雇用の創出、災害への脆弱性を減じる活動の増加を挙げることができる。」

バングラデシュ・コメ研究所」(BRRI)所長のジバン・クリシュナ・ビスワス博士はIDN-INPSの取材に対して、同研究所は「貧弱な環境に対して適応可能な様々な実践を既に開始しています。気候変動事象は頻度も強度も変化するため、こうした問題に対抗するために農業により近代的な技術を適応させることに集中しています。」と語った。

バングラデシュ高等研究センター(BCAS)所長のアティク・ラーマン博士はIDN-INPSの取材に対して、「バングラデシュにおける海水面の上昇はすでに明らかであり、さまざまな適応措置がその明白な兆候です。」と語った。環境・自然保護・気候変動に関する議論で先進的な役割を果たし貢献していることで世界的に有名なラーマン博士はさらに、「今日までに、海水面はすでに20~28センチメートル上昇したと推測されます。」と語った。

ラーマン博士はまた、「IPCCは今世紀末までに86センチの海水面上昇を予測していますが、「より最近のデータでは南極が極めて速い速度で溶けていることが示されており、それは明らかに重大な懸念材料です。この新しいデータは以前の予測を補強するものです。私たちは、今世紀末までに1メートルの上昇を予測しています。そして、このレベルの上昇は、あらゆる場所で同じ速度で進むわけではないのです。」と語った。

バングラデシュ沿岸地域における気候変動の影響について問われた著名な環境科学者のアイナン・ニシャット教授は、気候変動の効果のために国内移住がすでに始まっていると主張する一部の専門家に異議を唱えた。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

ニシャット教授はIDN-INPSの取材に対して、「チャーファソンにおける土地保護堤防は14フィート(4メートル超)だが(バングラデシュには沿岸部の700キロにわたって同種の堤防がある)、暴風雨あるいは高波の危険は3フィート(90センチ)程度です。人々が恐怖に駆られて移住しているなど理屈に合いません。」と語った。

ニシャット教授はまた、「しかしボラ県が気候変動によって明確に影響を受けている土地であることは認めます。今世紀が終わるころには、地球の温度は0.8度上昇していると予測されています。気候変動の影響はすでに始まっており、バングラデシュ沿岸部の多くの地で海水面が上昇する兆候が見られています。」と付け加えた。

ニシャット教授は、「現在のところ、私たちが予測する(気候変動の)インパクトにバングラデシュが直面するのは85年後と見ています。この2年間で温室効果ガスの排出は抑えられ、バングラデシュでの準備は進んでいます。現在必要なのは、気候変動戦略を強化するさらなる資金と技術です。」と語った。(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC

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